特別企画あり2

『有吉文庫』メモリアリ


その13 『月刊若人』のみなさまへ梅雨時のごあいさつ (贋作五話) 2005/06/07
      〜若手は梅雨も苦にしない!2005年6月〜


第1話 『命の泉』 謎の有吉カゲキ先生へ。奇跡の物語。

山奥の療養所。雨は間断なく降り続いている。梅雨時のじめついた空気。
彼女の咳は止まらなかった。こんな辛い思いはもううんざり。
私の病気が完治することはないだろう。彼女は絶望の淵に立っていた。

そこへ男が現れた。
『お嬢さん、元気になりたいのか?』

「ええ。もちろんよ。でも無理だわ」
彼女は寂しく微笑んで咳き込んだ。

『それではこの水をお飲みなさい。秘境の泉から湧き出た‘命の水’ですよ』

一見なんの変哲もない水を一口飲んだ。彼女の顔に生気が蘇った。
信じられないことが起こった。
彼女は毎日この水を飲み続け、元気を取り戻した。
それから希望に溢れた若々しい日々を過ごしている。

『今回ご紹介した‘命の水’2リットルペットボトル30本セットを特別価格でご提供いたします。いまなら素敵な‘命’コップつき。さあいますぐフリーダイヤル、イノチノワキミズまで』


第2話 『アロマセラピー』 銭湯考察の有吉かっぱ先生へ。はじめてのアロマ。

ふと以前訪れた銭湯を懐かしく思い、足を運んだ。
しかし、銭湯は取り壊され、アロマセラピーサロンになっていた。
思いきって自動ドアの前に下駄で立つ。中は女性ばかりである。
『どのコースになさいますか』
「いや、小生なにぶん・・」
『初めてでいらっしゃいますか。ではショートトライアルコースで』
「それはいかなるものか・・」
『はい、ハーブの香りで心と体のリラクゼーション効果絶大、抗酸化作用に優れ、リノール酸の含有量が非常に高いオイルをチョイスして、冷え、ストレス、ブルーをリセット。恋愛力アップ』
「いや、知りたいのは・・」
『はい、こちらはリーズナブルをポリシーに』

とりあえず勧められるままに身をゆだねる。
梅雨時ゆえシクシクする古傷が癒される。ゆったりリラックスタイム。
なにしろセラピストの胸の谷間が間近にせまってくるのである。
見える見えるぞ・・。
あまりの心地よさに眠ってしまった。不覚。

採点不能。


第3話 『続続暴力団事務所潜入』 気鋭の有吉アリヨシ先生へ。潜入ルポ。

霧雨にけむる6月某日、広域暴力団の事務所で異変が起きた。
近所の住人から極秘の通報であった。
詳細を調べるべく内部潜入を試みる。
今回も情報屋の木村さんに案内を依頼しようとした。
しかし、木村さんは半年前から行方不明だった。
手がかりは無い。
仕方なく一人で潜入を試みる。

潜入成功。

誰もいない。
暴力団員も行方不明だった。
手がかりは無い。


第4話 『ファウル』 挑戦者有吉春生先生へ。ミステリー献立。

『この島で暴力団員たちが行方不明になったのは、確かなのね』
「そうだ。家賃と年金を滞納して、この島に向かったところを目撃されている」
『恐いわ。ここ、あの木村さんもいなくなった島なのよ』
「連続失踪事件か。拳銃を持った奴らが簡単にやられるわけがない」

島の住人全員が集まって一致団結、黙々と作業をしていた。
ぬかるむグラウンドを整備。

半年に一度の野球大会。暴力団員チーム対島人チーム。
試合後、みんなで食べるカレーは最高だね。


第5話 『ダミアン』 親愛なるアリヨシ学ちゃんへ。幸多かれ!

あのねボク、悪魔の子なんだって。
思い出したくもない、忌まわしい作家の忘れ形見。
でもトリなんだよ。
きょう上京したんだ。
6月6日。







その11 夢磨アリヨシ先生へ春だより (贋作六話) 2005/03/26
      〜2005年プロ野球パリーグ開幕〜



第1話 タニタニック

豪華客船は沈没の危機にさらされていた
しかし彼女は笑顔を忘れなかった
いついかなる時でも気丈であった
そんな姿を彼は愛おしく思わずにはいられなかった
そして2人は戦うカップルであった
残された僅かの時間も無駄にしなかった
甲板で彼女は大きく両手を広げた
「さあ練習よ」

谷選手は素振りを繰り返して言った
『新生オリックスバファローズをよろしく』


第2話 ダルビッシュも知らない

大人たちは誰も知らない
残された4人の子供たちだけで健気に生活を続けた
現実が重くのしかかる
生活費が底をついたのだ
いちばん年上の少年は人一倍責任感が強かった
一大決心をしてお金を借りに出かけた
まずタクシーの運転手。
次に店の前で中を窺う男を見つけて声をかけた
「どうして中に入らないの」
『しばらくパチンコはダメなんだ』
「ふうん」
『タバコもね』
「元気だして、ファイト!ファイタース」
『ありがとう、少年ファンの夢の為がんばります』


第3話 王さんズ.12

ラスベガスのカジノから大金を盗み出して3年
再び大きなヤマに挑むべく彼らは集まった
舞台はアムステルダム。
「今度ばかりは無理だぜ」
リーダーの王さんにぬかりはなかった
なにしろ国民栄誉賞で娘が王理恵であだ名がワンちゃんの世界の王さんである
メンバー個々の能力を完璧に把握し常に的確な判断を下す
冷静沈着な指導者であると同時に
大金のあるところでは闘志を燃やすのだった
カジノでもバンクでも。
『親会社が変わってもホークスの強さに変わりなし!』


第4話 ダイスケハード

最悪のクリスマス。
もう、うんざりだ、勘弁してくれ、俺は非番なんだ
テロ集団からビル爆破を阻止するのが目的ではない
ただ愛する人を守りたいだけなのだ
孤軍奮闘のマクレーン刑事。
しまった、靴ぐらい履いておくべきだった

松坂投手は言った
『今年もライオンズはやりますよ。レオ人形もハダシです』


第5話 ホーン・ロッテ・ド・マンション

古びた大豪邸に陽気な不動産屋がやってきた
週末だというのに仕事熱心なのだ
明るいうちは広い屋敷に人影は無い
それが真夜中には一変する
亡霊たちでごった返す幽霊屋敷と化すのだ

菜の花が咲きほこるころ
昼間、来場者でごった返しているところがあった
選手たちはテレビのニュースを見て言った
『いいなあ愛・地球博。皆さん、マリンスタジアムにも来て下さいね』


第6話 ホリえもん・みき太に楽園のドア

「たのむよ〜助けてくれよ〜」
『仕方がないなあ、どこでも想定内』

つづく





その9 うめず有吉先生へ寒中見舞い (贋作三話) 2005/01/19
     〜冬こそホラーだ 恐怖があなたに忍びよる〜


第1話 雪女

吹雪の夜だった

『真夜中に雪山へ行ってはいけないよ
帰れなくなるからね 永遠に
決してひとりで行ってはだめだよ
凍りついて動けなくなるからね 本当だよ』

いけないと言われれば行きたい
雪山伝説なんて一笑に付してやる
ロッジでくつろぐ仲間たちの輪を抜けて
ひとり荒れ狂う吹雪の山へ向かった

山頂に着くと風がぴたりとやんだ
ふいに背後で大きな音が響いた
奇妙な女の声が聞こえてきた
身の毛のよだつような声がだんだん近づいてくる

逃げようと焦れば焦るほど足はもつれて言うことを聞かない
暗がりで得体の知れない魔物に足を取られた
痛い!足先からおびただしい血が流れ 雪が真っ赤に染まる
全身の力が抜け 雪にずぶずぶ沈んでいく

若い女が長い髪をふり乱して叫んでいた
女の白い息に触れると気が遠くなりそうだった
からだはまったく動かない
だんだん周囲がかすんでいく 観念して目を閉じた

『あー!缶を踏みつぶしちゃって!もう遊べないじゃないのー!』
雪山でみんなで真夜中の缶蹴り大会
楽しいけど ケガには気をつけてね 


第2話 へび女

おかあさんが変だ
首に包帯を巻いている
かん高い声で笑っている
そのヌメッとした笑いかた イヤだな
虫を見つけて嬉しそうに捕まえる
そのクネクネした動き やめてほしい
黙って部屋に入ろうとしたらひどく怒られた
こんなこと前にはなかったのに

こわいけど おかあさんの部屋をのぞいてみた
ショックだった
あたし 見てはいけないものを見てしまった

おかあさんがヘビを叱りつけていた
ヘビは逃げようとする
その長いニョロニョロヘビをわしづかみにして
ふりまわして床に叩きつけている
ヘビはおとなしくなった

おかあさんの新しい仕事はヘビの調教
サーカスの花形ヘビづかい
かっこいい ちょっと自慢


その3 美女

ほかの人に見えないものが自分にだけ見えるのは
透視能力があるということだろう
だが俺は逆だ
他人には見えているのに自分には見えない
なぜだ
どうして見えないんだ
見えないものはどうやったって見えないんだ
見えるふりなんかできない
こんな俺にもいつか見える時がくるんだろうか
俺は決して希望を捨てない

世間一般で言う『美女』のスポーツ選手
どこだ
一体どこにいるんだ美女は!
俺にはブスしか見えない
ブスばっかりだ





その8 『月刊若人』のみなさまへ暮れのごあいさつ (贋作五話) 2004/12/07
     〜冬は若手におまかせ!2004年12月〜


第1話 『最後の1枚』 謎の有吉カゲキ先生へ。奇跡の物語。

彼女はベッドに横たわったまま窓の外を眺めていた。
風に舞い散る木の葉を見ていた。
古いツタの木の葉は、昨日からの嵐で残り1枚となっていた。

そこへ男が現れた。
『お嬢さん、素晴らしい絵をお持ちしました。この絵を飾ると元気になりますよ』
彼女は首を横に振って、視線を窓の外に向けた。
『あの葉が散るとき、私は終わるのよ』
『まあ、お聞きなさい。これは奇跡の絵なんですよ』
『奇跡の絵?』
『はい』
男は絵を窓に飾った。煉瓦の壁を這う枝に黄緑色の1枚の葉が描かれていた。
『ほら、決して散らない葉ですよ。力強い生命のパワーあふれる1枚』

彼女は毎日、絵を眺め、そして奇跡的に回復した。

『今回ご紹介した絵画を、いちばん高い値段を付けた方にお売りします。貴重な最後の1枚です』


第2話 『冬至』 銭湯考察の有吉かっぱ先生へ。年末銭湯めぐり。

寒さが身にしみ、銭湯を覗くより湯船であたたまりたい年の瀬である。
夜の訪れの早さといったら、今日は奇しくも1年の中でいちばん昼の短い日だ。
すでに外は真っ暗、屋内は照明で明るい。
ゆず湯である。ゆずは畑で収穫され、八百屋で売られている。
広い湯船に浮かぶゆずの皮は黄色く、表面はデコボコしている。はや、湯の中でふやけている。
これは食べるしかあるまい。じっくり噛みしめる。
こ、これは・・ゆずの味だ。・・スッパイ。う〜む、やはりオッパイのほうが・・。
ふやけるよりにやけたいものだ。


第3話 『続暴力団事務所潜入』 気鋭の有吉アリヨシ先生へ。潜入ルポ。

あれから2年、広域暴力団の事務所に異変が起きたとの通報を受けた。
情報屋の木村さんの案内で難なく潜入成功。
『もう冬休みだから誰もいないよ』
自信たっぷりに木村さんは言う。もちろん俺は信頼している。
事務所に入ると、数人の構成員が一斉に俺たちを睨みつけてきた。
『邪魔をするな!』
彼らの手にしているものを見て、俺は思わず息を呑んだ。

ペンキとハケを手にリフォーム中の構成員たち。
事務所は築20年であった。
『ベランダにサンデッキ作ってバーベキューできるようにしようと思ってさ』
匠の業である。


第4話 『神隠し』 挑戦者有吉春生先生へ。ミステリー献立。

『この島で木村さんが行方不明になったのは、確かなのね』
『そうだ。情報屋を辞めたあと木村さんが船で渡ったところを目撃されている』
『恐いわ。ここ、神隠しの島と呼ばれているのよ』
『神隠しか。あの巨漢の木村さんが簡単にやられるわけがない』

島の住人全員が集まって、何かを取り囲んでいた。
皆、一様に目をギラギラさせている。尋常ならざる熱気が支配していた。

『いやあ、餅つきはいいダイエットになりますよ』

木村さんはいい汗をかいていた。今日の献立は『力うどん』


第5話 『スノーマン』 親愛なるアリヨシ学ちゃんへ。幸多かれ!

あのね、公園で寒くて焚き火をしたよ
木村のおじさん消えちゃった
どこ行った
かみかくし
わかんね








その6 夢磨アリヨシ先生へ秋だより (贋作三話) 2004/10/02
     〜激動の2004年プロ野球界〜


第1話 パイレーツ落合カリビアン

港町、呪われた海賊たちは黄金の金貨を求めて奔走していた
しなやかに剣をふるい、軽やかに敵を倒し、風のごとく去ってゆく一匹狼がいた
娘をさらわれた総督の前に、彼は現れた
『え、娘を救い出してくれるというのか、君の手腕は確かなのか』

落合監督は余裕で答えた
『もちろん、三冠王も優勝も俺流ですよ』


第2話 座頭イチロー

宿場町に、仕込み杖を手にした按摩、浪人、旅芸者が集まってきた
何かが起ころうとしていた、とにかく強くて速い何かが。
軽く地面を叩く音が聞こえる、タップのような正確なリズムだ
人々は固唾を飲んで見守った

軽く地面を叩き、バッドが振り子のように揺れてボールを正確にとらえる。
イチロー選手は大記録に近づきつつあった


第3話 24シーズンオフ

またしても犯罪に巻き込まれた娘を気にかけながら
単身ジャックは敵地に乗り込み銃をかまえた
ついに黒幕の正体が明らかになったのだ

博士はたずねた。
『君の背番号はいくつかね』
『24です』
『ほお、実に潔い数字だ』
『ええ!イサギヨイ、ギヨイ、キヨイ、キヨク、キヨシですから・・う』

絶好調男は銃弾に倒れた
まっさきに気づいて駆けつけたのは高橋選手だった







その4 うめず有吉先生へ残暑見舞い (贋作三話) 2004/08/11
     〜夏はホラーだ 純愛なんていらねえよ2004年夏〜



第1話 猛暑

その夏は、異常な暑さが気の遠くなるくらい長い間続いた
人びとから気力を奪い、生き物の成長を止めた
井戸は涸れ、池は干上がり、川底が姿を見せた
ただ強烈な光りだけが、容赦なく地上に降り注ぐ
水を求めて、ひとりの少年がさまよい続けていた
彼は水のことしか考えられなくなっていた
とある町はずれで、小さな湧き水の流れる音が聞こえてきた
奇跡だ
彼は最後の力をふりしぼり、走り出した
静かに流れる清らかな水に口をつけようとした瞬間、
毛むくじゃらの大男が現れて、恐ろしい声で言った

『練習中は水を飲んじゃ駄目!』
運動部って厳しいね、熱中症には注意しよう!


第2話 呪いのビデオ

そのビデオを見た者には、必ず7日後に不幸が訪れる
数多くの悲劇を招いた怨念のビデオを、偶然手に入れてしまった
密かに処分することも、誰かに相談することもできない
これが運命なのだ
最期の電話がかかってきた、室内がにわかに暗くなる
ドアが閉まる、体が動かない、もう部屋から出ることはできない
ビデオテープが宙に浮いて、ビデオデッキめがけて飛んでいく
いけない!目を閉じ耳をふさごうとしても、かなわない
ああ……
ついにビデオが再生され始めた
どこからか女の不気味な声が響いた

『早く借りたビデオ見ちゃいなさいよ』
延滞料を払うのもったいないからね、期限は守ろう


第3話 涙のビデオ

彼女は宝物とともに墓場へやって来た
生きる目的を失い、魂の抜け殻となって重大な決心をしたのだ
きょう、思い出は永遠のものとなる
大切な品々は、もう二度と使われることはない
記念のビデオは、涙で曇って見続けることができない
終わった
ここがいちばんふさわしい場所
彼女はこの世の最後の風景を胸に焼きつけるため、
ゆっくりあたりを見回し、優しく微笑んだ
そしてすべてを埋めるため、黒く冷たい土を掘り続ける
ふいに、背後から謎の男が声をかけた

『そんなとこにゴミを捨てちゃいけないよ』
今週、ゴミ収集は夏休み、燃えないゴミもためると大変


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