特別企画も

森脇さんのうた


その5  もりレポ 雨


2005年8月7日(日)
東京六本木 ABBEYROAD
APPASSIONATO TAKE A VISION GAME 03 〜BEAT LOOSE〜

あの日からずっと 心の隅にあったけど
気づかないふりしてた自分に気づいてた 捨てきれない この想い

想い出はいつも 楽しげに微笑むけど
振り返るたびに 僕を弱くする 思わず泣き笑い

行くあてもないままに 僕は部屋を飛び出して 一人空を見上げていた

降り注ぐ雨は 後悔や苛立ちさえ 冷たく消し去ろうとしてるけれど
僕は強い気持ちで 傘もささず歩きたい

考えてみれば 悲しみに浸るよりも
感じたことを 恐れずに前に進んでゆく方がいい

もう君がいない部屋で ぼんやりアルバム開き 誰も悪くないと言い聞かせる

降り注ぐ雨は 後悔や苛立ちさえ うるさく消し去ろうとしてるけれど
僕はまた歩き出す もう後には戻れない

アスファルトの隙間に 根を張る草花のように
どんなに激しく踏みつぶされようとも あきらめない

降り注ぐ雨は 後悔や苛立ちさえ 冷たく消し去ろうとしてるけれど
僕は強い気持ちで 傘もささず歩きたい

『雨』 森脇和成作詞


ライブハウスはスタンディングでエキサイティングに燃え上がるのが醍醐味です。が正直、ワタクシ疲れます。椅子に腰をおろしての鑑賞はほっと安定感が心地よいです。お酒を飲んでくつろぐのは至福の時です。ビートルズの名曲の数々を大人の雰囲気で聞かせてくれました。

ザ・ビ−トルズ。来日時、さすがに私はまだ小学生でしたから、「お姉ちゃんが武道館に見に行ったんだよー」という同級生の自慢話を聞くぐらいが関の山でした。中学の文化祭でお化け屋敷をやったとき、マジカルミステリーツアーをもじって「マジカルヒステリーツアー」という名前でした。『ハローグッドバイ』がいいのは歌詞が簡単で、中学生でもすぐに理解できたこと。ビートルズの歌は身近な流行歌ぐらいの認識で、こんなに伝説化するとは思いませんでした。この夜、ちょっと口ずさんだりしました。


雨。ラジオの電話リクエストの番組で、雨の日には雨の歌をリクエストすると、必ずかかっていました。カウシルズ「雨に消えた初恋」よいです。カウシルズ、牛も知ってるカウシルズ、ウッシッシッ(by大橋巨泉)。ジリオラ・チンクエッティ「雨」もいい。


『雨を見たかい?』は懐かしい歌で、これは嬉しい。CCR、クリーデンス・クリアーウォーター・リバイバル。よく記憶してるなあと自分で思ったら、桑田佳祐や氷室京介がカバーしていて、テレビのCMでも使われていました。1971年、全米8位のカントリーロック。この「雨」は天気雨ですが、チェルノブイリの事故になぞらえる向きもあります。時代を背負うにしても、のどかな曲調。Have you ever seen the rain?疑問形であるのが、答えを求めるような余韻を残して、憶測を呼ぶのでしょうか。


森脇さんの「雨」。しみじみとしたミディアムバラードで、ちょっと切なく、でも前向きに甘酸っぱい感じがよいです。アコースティックサウンドで、さらっと聞きたいところです。


あれから9年ということで、もう別人みたいに見えたりします。が、それは違う一面を見ているからで、たぶん彼はあまり変わっていないのではないかと思います。これは私の感傷で、変わらずにいてほしいと、どこかで願っている証拠です。

当時、猿岩石ファンと会って、まず最初に挨拶がわりに確認することは「有派?森派?」どっちだ?ということでした。あの旅をテレビで見ていたときは、もちろん2人とも大好き!で、その場面場面で、好きな比重が変化していました。まず頼りになるのは普通に「森脇くん!」。ハラハラドキドキ度に拍車をかけるのは「有吉くん!」。1996年の夏、私の心配事は、O157と猿岩石の2人でした。


かつてのイメージの延長線上で私は「ニモリーさん」を書いています。この「特別企画も」というのも、どうしたものかと霧の中にいましたが、迷ったら歌を聞くことにしよう。歌を聞いて想起される世界も悪くないでしょう。


猿岩石の歌は、争うこととは無縁の、ナイーブなものだと思います。あるがままの遠くを見つめて歩いていく。そんな気持ちを維持して物語を書いていけたらいいなあ。その夜、ふと思ったのでした。

2005/08/25





その4  もりレポ Christmas


2004年12月19日(日)
東京六本木EDGE
恋はらららvs愛はるるる


恋人たちが見つめあったり
キスをしたりクリスマス彩れば
僕の腕を強く引いて
僕の頬に小さくキスをしたね
プレゼントも買い終わったし
海へ行こう今夜はもしかしたら雪


Christmasうたわれたらね、森脇さんソロバージョンで、そりゃ泣きますよ、滂沱の涙ってやつです。どうにもしょうがない。だから私は悲しい時には猿岩石の歌を聴かない。

歌に感動して泣いたんじゃなく、どうして猿岩石ふたりの歌が聴けないのって思いからだから、こういうのはもう今年限りにしたい。じゃなきゃ失礼だろ。いつまでたってもさ。それぞれを応援するって決めたんだから、前を向いて泣け。


なるほどクリスマスは恋人たちのものだと思う。唇に触れた瞬間のときめき、キスの深い味、思いがけない頬の冷たさ、なじんでゆく肌のあたたかさ、イブの夜は一晩中ずっと好きな人といっしょにいたい。いやっていうほどべったりくっついていたい。といっても現実には燃える時間は短く、ほどなく眠りに落ちる。憶えているのは、手を伸ばせばそこに触れる手がある確かな安らぎ。


家に帰って缶ビール飲みながら、たぶん猿岩石を好き過ぎるからいけないんだと思って、奴らの嫌なところを並べていけばいいんだと思いましてね、もう酔い始めてるわけですが、いろいろ思い返すにつけ、すんごくイヤ〜な人たちに思えてきて、イヤならイヤな者同士でコンビになってりゃあいいものをと本気で腹が立ってきた、かなり酔ってます、不毛だわ、あ、ビデオ、と録画してたテレビ見てたら泣ける泣ける、バラエティ番組で。


お酒からは何も生まれず、ただ気持ちに拍車をかけるだけ、そして酔い覚めの白々した気持ちのわるさ。でも歌で酔うのは絶対からだに良い。

森脇さん、喉の具合が良くないとのことでしたが、でもやっぱり心奥底に届く歌声です。おからだに気をつけて、いつまでも歌いつづけてください。永遠に夜空に輝く星です。


Santa Claus Is Coming To Townは元気な素敵な歌です。とびきり陽気な前奏が始まると一瞬にして気分は弾んで、クリスマスはみんなのものだなと思います。だってサンタが街にやって来るんだぜ、サンタが。有形無形のプレゼントを持って。六本木に、一足早くサンタが歌のプレゼントを持って来てくれたんだ。ASUKAサンタ、森脇サンタ、生演奏サンタ、スタッフさん、ありがとう。

2004/12/22





その3  もりメルヘン2 熊とニモリーさん


第1章 秋

森に秋がやって来ました。赤や黄色に色づく葉。ニモリーさんはスケッチブックにペンを走らせます。小鳥たちはそっとのぞき込みました。白い紙の中に秋が生まれています。

寒い季節へ衣替え。大きなタンスの扉の内側の鏡に映る顔。ニモリーさんはアゴヒゲをなでました。よく似合うと評判のヒゲです。無精ヒゲもわるくない。

屋根裏から古いバイオリンを出しました。ニモリーさんはなんでも器用に弾きこなします。どんな楽器からも、ぬくもりのある音色を響かせ、安らぎをかなでます。

海に潜るには肌寒く、やわらかい陽射しの昼下がり、川で釣りをします。起きたばかりのボラさんやカワウソさんがやって来て、話に花を咲かせます。いつしか夕暮れです。


第2章 熊

大きな台風がいくつも襲ってきて、嵐が続きました。山の作物は被害を受けました。木が倒れ、巣が飛ばされました。冬じたくのためにみんな手分けをして、大忙しです。

ある日、熊さんが家の戸を叩きました。ニモリーさんが落としたピアスを届けに来たのです。山に住む熊さんが森まで下りてくるのは、久しぶりでした。

ちょうどニモリーさんはお好み焼きを焼いていたところで、熊さんは喜んで食べました。でもソースのかわりにハチミツをかける熊さんに、びっくり。

熊さんと川で魚を取る約束をしました。熟した木の実のあるところも教えました。「森のウマいものマップ」もあげました。オニさんがスープのお礼に安く売ってくれた地図です。


第3章 運動会

よく晴れわたった気持ちのいい日。水びたしの砂地もなんとか元どおり。となりの島に行っていたペリカンさんも戻りました。年に一度の森の大運動会の始まりです。

橋の一部がまだ壊れたままでした。ニモリーさんは徹夜で修理をしていました。仲間たちと力を合わせ、おかげでなんとか間に合いました。

いつのまにかニモリーさんはうたた寝をして、熊さんに起こされました。いっしょに走ってくれないかい。沼地で足を痛めた熊さんを助けて、ニモリーさん、急きょレースに参加です。

ジョギングで鍛えたニモリーさんの早いことといったら、あっという間にウサギちゃんやチータくんを追いこしました。川岸からボラさんやカワウソさんが声援を送ります。

途中、巨大な水たまりがありました。せっかくぶっちぎりで走ってきたのに、さあ大変です。泣きそうな熊さん。小鳥たちも心配そうに見守ります。でもニモリーさんはあわてません。

知恵と勇気で幾多の難局を乗り切ってきたニモリーさんに不可能の文字はありません。大事なスケッチブックと値打ちもののバイオリンのケースを水たまりに落とし、それを足場にひょいひょいと華麗なジャンプで進んでいきます。しかも熊さんを背負って。

ニモリーさん、みごと一着で広場にゴールイン!大きな歓声があがる秋の夕暮れでした。


おしまい

2004/10/19





その2  もりメルヘン1 ファインディング ニモリー


第1章 森

深い森の中にニモリーさんは住んでいました。その姿はなかなか見つかりません。なぜなら、ニモリーさんはいつもいそがしく飛びまわっていたからです。

森の小鳥たちは、ニモリーさんを探していました。ペリカンさんにたずねます。きょうはどこに行けば会えるのかしら。さあ今度会ったら伝えておくよ。森は広くて、変化します。

ペリカンさんは知っていました。でもまだ内緒です。ニモリーさんは上達したら知らせるつもりです。森の橋の近くでゴルフの打ちっぱなし。自慢できる腕前になったら、すぐに。

静かな夜、聞こえてきました。広場の野外円形舞台で、ニモリーさんの素敵な歌声が。月明かりのもと、みんな集まって聞きほれます。数えきれない星たちが、いっそう輝きます。

ニモリーさんは約束しました。今度はダンスを踊ろうと。軽やかなステップ、ごきげんなリズム。夢見るように流れる時間、豊かにいつしか羽ばたく空間、笑顔でスウィング。


第2章 風

強い風が吹いて、外に出られません。おまけに風邪をひいてしまいました。ノドが枯れたニモリーさん、みんなの喜ぶ顔が見たくて夜通し歌を歌っていたから。

心配は要りません。ニモリーさんは料理名人。からだにいいメニューをたくさん知っています。ジンジャー特製スープはからだをあたためて、心までほかほかになります。

お鍋からいい匂いが立ちのぼって、ポパイ秘伝スープができました。キバが痛むオニさんのために作りました。少し苦いけれど、効き目は保証つき。得意そうなニモリーさん。

風がやみました。郵便受けに小鳥さんの手紙がありました。ペリカンさんが運んできたのです。今度ストーン川で魚が釣れたら、ペリカンさんのところへ届けよう。

夕方、ニモリーさんの家の小窓に虫たちが迷い込んできました。即興の歌をハミングすると、虫たちも羽音を休めて口ずさみます。今夜、海までジョギングにつきあうかい。


第3章 海

ゆらゆら揺れる海の青。どこまでも果てしなく広がる大海原。よせては返す白い波頭。あたりに響く波の音。ニモリーさんは息をはずませやってきました。

虫たちは追いつけませんでした。たった1匹の虫をのぞいては。とりわけ丈夫な羽ととびきり好奇心を持った虫のムーくん。ニモリーさんの長い影をずっと追いかけてきました。

ニモリーさんは海へ入っていきました。ごくあたりまえのように、すうっと入っていくので、見過ごすところでした。三日月に照らされた海へ、ニモリーさんは消えていきました。

暗い海はなにごともなかったように静まりかえっています。わずかに泡立つ波打ちぎわ。なすすべなく見守るムーくんは、砂地に力無く舞い降りました。ニモリーさん・・・・。

いつしか眠り込んだムーくんは朝日で目覚めました。あれ、どうしたの。片手に魚を持ったニモリーさんがのぞき込んでいました。ニモリーさんは、素潜りの名人なんだよ。

おしまい

2004/08/01-02





その1  もりレポ オリビアを聴きながら


2004年6月4日(金)
東京赤坂 ノーヴェンバー・イレブンス
ASUKA LIVE

    

ジャスミンティーは眠り誘う薬
わたしらしく一日を終えたいこんな夜

眠れぬ夜は星を数えてみる
光りの糸をたどれば浮かぶあなたの顔



その夜はいつまでもこだまして、ほろほろに酔いました。
なんというんでしょうね、森脇さんの歌声は、もうギリギリに耐えている感じがして、切なくなります。その切なさが気持ちいい。甘美。適度にね。甘すぎなくて、また聴きたくなる。何度も。もう理屈抜き。理屈こねるのは野暮です。


やはり今年3月の猿岩石解散に触れないわけにはいかない。それを思うと胸がズキズキキリキリしてたまらない。だんだん薄くなるとは思うのだが、このほうがいいんだと思う気持ちと、とにかく悲しい気持ちが交互に現れて、どうしていいかわからない。いろんなことで、とっちらかるのはいつものことで、迷ったあげくなんとなく、なし崩し的に方向が見えてくることが多いのだが、見えない。

まあ、こうして迷ったまま、定まらないまま過ぎていくんだなあと思う今日このごろ。悩んだら悩んだ分、苦しんだら苦しんだ分、人間は深さや幅が増すってもんです。そう思わなきゃやっていけません。森脇さんの歌声がじんじんひたひたくるのも、解散を知って4ヶ月、葛藤期間を経たファンである証明です。他のものに逃げてしまわなくてなくてよかった。こうして、うだうだぐずぐず人生は続くわけです。


『オリビアを聴きながら』(1978)は尾崎亜美作詞作曲、杏里のデビュー曲で、ある年代以上の女の人は絶対に歌います。カバーも多いと思うけど、印象的なのは
映画『病は気から 病院へ行こう2』(1992)でキョンキョンが華麗に歌うシーンです。この映画のハイライト、劇中劇のような目くるめくシーンです。この歌を歌う女の子はたぶんみんな魅力的になる。名曲とはそういうものだったりします。


歌はいいなあと心底思う。まっすぐ確実に届いたとき、幸福の時間が訪れる。気持ちの深いところが広がっていくのを感じる。この夜なにか見えたような気がした。森脇さんは、こういうふうにしたかったんだな、と。よかったんだ、と。ああ、見守るしかできないけど、見守ることのできる幸せ。なにひとつ無駄なものはないんだ。


開場前、ビルの2階に続く階段で待っていたら、この日の主役二人が降りてきました。森脇さん、ほっそりとした身のこなし、おっみんなご苦労さんって感じの、ちょっと照れたような、嬉しげでクールなアイサツ、明らかに一般人とは違う雰囲気。目の前を通り過ぎるだけでしたが、オーラって言っちゃいましょうか。ドキドキしました。


2004/06/06  Making A Good Things Better


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