世界のカケラ


 退屈な授業が終わり、次の授業開始までのわずかな時間を喧騒が支配する。
 ルルーシュは鬱陶しそうに、窓際の席から、中庭へと視線を投げた。
 どこといって変わらない、いつもの光景しか目に入らない。けれど、ルルーシュにはいつもその後に意地悪い何かの影を感じずにはいられない。
 世界は優しくなどない。
 彼ら兄妹にとって、辛くて厳しいことばかり与えてきた。彼は妹のナナリーのことを考える。目も足も失った哀れな少女。兄たる自分がいなければ明日をも生きていけるかわからない可哀想なナナリー。だからこそ、彼はナナリーを溺愛するのだろう。
「くだらないな……」
 彼の口から漏れたのは侮蔑の言葉ではなく、自嘲の言葉。
 それは、どんなに世界を憎み、妹を守りたいと願っても、彼には何の力もないからだった。
 現に彼が一見今平和な暮らしを遅れているのも、彼自身の力でもなんでもない。周りの思惑や状況が上手く彼の望みと重なっているだけに過ぎない。いざことが起これば、彼らは道具にされ、使い捨てにされてもしかたのない境遇なのだった。
 やっぱり世界は優しくなどない。
 ルルーシュはそう結論付け、くるりと視線を教室内に走らせる。クラスメイトが騒々しく、何か笑ったり話したりしている。  その中で、一人の少女が机に突っ伏して寝ているのを発見する。
「おや?」
 ルルーシュが疑問に思ったのは、少女の枕代わりとなっているらしき、教科書とノートだ。あれは、ひとつ前の時間のもののはずだ。とすると、彼女はさっきの時間ずっと突っ伏して寝ていたのか?
 ルルーシュは椅子から立ち上がり、少女に向かって近づいていく。
「シャーリー」
 小さく呼びかけてみるが何の反応もない。揺り起こそうと、一度手を伸ばしてルルーシュはためらった。あどけなく、すうすうと寝ている姿は起こすに忍びない。
「おやすみ」
「……ぅっん……」
 小さく返事のような反応が返ってきたので、シャーリーの顔を覗き込んだルルーシュだったが、やはり熟睡しているままだった。  仕方なく自分の席へと舞い戻る。
“しかし、あのシャーリーが授業中に居眠り、ね”
 真面目というか堅物というか、人間関係の円滑さとは裏腹にそういうところのある彼女と、ルルーシュのいささか『投げている』態度は時折二人の間に小さくないいさかいを巻き起こすこともある。そんな彼女が、とはにわかには考えにくいことだが、まあ、疲れていればそういうことだってあるだろう。今度このことで少しからかってやろうかとルルーシュは少し考える。
 しかし、まあそのかわいい寝顔に免じて許してやるかなとルルーシュは小さく笑った。
 彼は気づいていない。
 その小さな笑みが、先ほど世界を恨み自分の無力を憎んだ自嘲の笑みと180度違うものだということに。


「あれ、シャーリーは?」
 生徒会室に現れたルルーシュを見てミレイが疑問を投げつける。
「さあ、俺は授業が終わってからは見てませんね。部活じゃないんですか」
「おかしいわね、今日は部活ないはずだけど」
「なんで会長がそんなこと知ってるんです」
「そりゃ、今日はプールに整備が入るんだもの、全面的に使用不可だから」
「プールに整備?」
「そうなのよ、冬だしね。今の時期温水にならないプールで泳ぐ馬鹿いないでしょう」
 なるほど、ボイラーとか、空調の方の整備か。
「ああ、シャーリーならなんか具合悪いって帰りましたよ?」
「あら、どうしたのかしらね、風邪かしら」
「いや、なんだか、具合悪そうにしてたから聞いたんですよ。そしたら、あくびしながら『夜眠れなくて』とか言ってて」
 ……もしかしたら、それでか?
「夜眠れない……そういえば、前にナナリーも同じようなこと言ってた事があったわね」
「ああ、あれは」
 ルルーシュはミレイに言われたことを即座に思い出す。
 ここに来た当初、別々の部屋に彼ら兄妹が暮らすようになってしばらく、ナナリーは寂しさからか眠れないことがあった。そんなときは、ルルーシュが添い寝をしてやることもあった。今でも、寝る直前までナナリーの部屋に彼がいることは少なくない。
 まあ、シャーリーが寂しくて眠れないなどということはなかろうが……。
 と、そこで彼は『あれ』のことを思い出す。
“そうだな、今度の日曜にでも……”
 そんな考えに浸るルルーシュは周りの二人が胡乱な目つきで見ていることに気がつかない。
「ナナリーのことになると、途端に自分の世界入っちゃって」
「大丈夫ですかねー。俺は親友ながらルルーシュの将来が心配ですよ」
「まあ、それはシャーリーが何とかするでしょ。なかなか敵は強大だけどもね」
「そうですね。俺たちは俺たちで見守るとしましょうか」
 ふふと笑うミレイは、リヴァルの言葉の裏を感じたものか、それとも素直にそんなルルーシュたちの未来図を想像したものか。



 日曜日。
 ルルーシュが買い物から帰ってくると、彼の部屋の前にシャーリーが緊張した面持ちで立ち尽くしていた。
 胸に紙袋を抱きしめて、扉に手を伸ばして小さくノックする寸前で、大きく息をついて目を閉じる。
 なにやら小さくぶつぶつとつぶやいていたが、なんだか良くない想像をしたらしく、ふるふると頭を振って今度は親の仇でも睨むかのように扉を凝視する。近づいていくルルーシュにはまるで気がつかないようだ。
「よし」
 と小さく気合を入れた彼女は再び、扉の前でゆるくこぶしを握った。
 コンコン。
 中から返事が返ってくるより早く、シャーリーは急いた様子で声をかける。
「あの、シャーリーだけど。ルルは、暇?」
「……暇だが、何をしてるんだ?」
「うわっ! ルル」
 すぐ傍まで近寄ったにも関わらず全く気づかれていなかったルルーシュの呆れた声に、シャーリーが驚いて振り返った。
「化物でも見たような声を上げないでくれないか」
 ルルーシュの大げさな耳をふさぐジェスチャーに、シャーリーの顔が赤くなる。
「あの、いつから、見てたの?」
 シャーリーの質問に、ルルーシュは逆にそんな質問が出るくらいいつからここに居たんだと胸のうちだけで質問を返す。
「普通に歩いてきただけだからな、ほんの30秒ほど前だが」
「声かけてくれればいいのに」
 すねた様子でシャーリーが上目遣いにルルーシュを見やる。
「なんだかやけに真剣な表情をしていたからさ、邪魔をするのも悪くて」
「う……」
 シャーリーが困った顔で、目を逸らした。その手が何かのやりどころに困るように開いたり閉じたりしていて、とうとうルルーシュは堪えきれなくなる。
「くっくくくっ。あはははは」
「なっ、ルル!」
 その声でようやくシャーリーは気づいたようだ。いくら真剣な表情をしていようが、シャーリーは彼の部屋の前に居たのだ。ノックしようとしているのは明白だったし、それを黙って見ている理由になんてならないことに。
「もーーーっ! ルルの馬鹿ぁっ」
「悪い悪い。で、俺に何か用が?」
「あ。うん、その……」
「と、ここで立ち話もなんだな。どうぞ入ってくれ」
 ルルーシュはそういって、扉を開ける。
「あ、そんなに時間取らないから、ここでも」
「いや、俺もシャーリーに用事があったんだ。ちょうどいいからな、お茶ぐらい用意するぞ」
「わたしに用?」
「ああ、とりあえず中に入ろう」
 それにうなずいて、シャーリーは彼の部屋へと足を踏み入れた。

「はい、温まるぞ」
 ルルーシュが差し出した紅茶を受け取って、シャーリーは一口飲んだ。
「うん、ありがと、はー、本当温かいね」
「全く、ずっとあそこに立ち尽くしてたのか?」
「そんなでもないよ、それに一応屋内だし」
「とはいえ、廊下じゃ寒かったろうに」
「うん、でも、大事な用事だったから」
「そういえば、俺に用があるんだったな、一体なんだ?」
 シャーリーは「うん」とうなずき、もう一口紅茶を飲むと手にしていた紙袋から綺麗に包装された紙包みを取り出した。30センチほどの大きさの柔らかいものを包んだことは見て取れる。
「あのね、これ」
 差し出されたそれをルルーシュは受け取ってから、シャーリーに説明を受けるべく視線を向けた。
「ルル、誕生日おめでとう」
 その言葉にルルーシュは呆然として、一瞬後にようやく事実が染みた。
「……ああ、そういえば。今日だったな」
 それで、今日ナナリーは自分が夕飯の支度をするから期待していてくれなどといっていたのかと、ルルーシュは心の中で納得していた。
「ルルったら、もしかして忘れてたの?」
「ああ、面目ないことにすっかり忘れていた。まあ、忘れていてもそんなに問題があるわけじゃないからな」
「そんなこといって、ナナちゃんの誕生日だったら、絶対忘れないくせに」
「当然だろう」
 シャーリーはあからさまに失望のため息をついて、もう一口紅茶を飲んだ。
「それで、これは開けてもいいのか?」
「うん、気に入ってくれるといいんだけど」
 柔らかな感触から彼が想像していた通り、中身は衣類に属するものだった。
「マフラーか。これ手編みだな」
「編み物は結構得意なんだよ、わたし。不器用なばっかりじゃないんだから」
 そういえば、裁縫は得意なんだったなと、ミレイから聞いた話を思い出す。裁縫と、編み物にどれほどの類似点があるのかはわからなかったけれど。
「結構時間が掛かったんじゃないのか?」
 ルルーシュは嬉しそうというより、申し訳なさそうにそう尋ねた。
「ううん、そんなことないよ。そのマフラーは結構順調だったから。時間掛かったのは、こっちの……方かな」
 シャーリーがまだ膨らんでいる紙袋の中に手を差し入れていう。
「まだ何かあるのか? そんなに無理してくれなくても良かったのに」
 困った表情をするルルーシュの前に、シャーリーが取り出したものは、ルルーシュの受け取ったマフラーと同じ模様だった。
「おそろいなんだよ」
「これは、何だ?」
 マフラーよりしっかりしていて幅も広い。その代わり長さはマフラーよりも短く、ちょうど毛布を1/4ぐらいにしたような品物だった。
「それはね、ナナちゃん用のひざ掛け」
「おお、それは、いい。ありがとうシャーリー。これは、ナナリーも喜ぶぞ」
 嬉々として目を輝かせるルルーシュにちょっと苦笑気味の笑みを返すシャーリー。
「前から、見てて、ちょっと寒そうだなって思ってたから」
「ああ、そういう所はやはり女性の方が気がきくな。俺は気がつかなかったよ」
 ナナリーは我慢強いからあまりそういう弱音もはかないし。もっと甘えてくれてもいいと思うのだが。
「くす、やっぱりだね」
「何がだ?」
「なんでもないよ」
「そういわれても気になるんだが」
「それより、ルルの用ってなに?」
「ああ、そうだった。最近、シャーリー眠れないそうじゃないか」
「あ、それは……そんな、無理してたわけじゃないんだよ、うん、本当に」
 ルルーシュはバッグの中にしまいこんでいた今日買って来たばかりのそれを取り出す。そこで、シャーリーの言葉に違和感を覚えて動きが止まった。
「無理? ……もしかして、そういうことなのか?」
 さすがに、ルルーシュでも気がついた。彼の誕生日までにマフラーとひざ掛けを仕上げようとして、シャーリーが睡眠時間を削って頑張っていたのだということに。
「そうか、寝付かれないわけじゃなかったんだな」
 ルルーシュは、額に手をやると小さく息を吐き、それから縮こまった様子のシャーリーの前にラッピングされた小さな箱を置いた。
「早とちりしてこんなものを買ってきてしまったんだが、無意味だったかな」
「なに、これ?」
「アロマキャンドルだよ」
「えと、いい匂いのするの、だよね?」
「ああ、色々種類があるんだが、気分が落ち着くものなら、眠る前に嗅ぐだけでもそれなりに効果があるんだ。実際ナナリーが寝付かれないときに昔使っていたことがあってね」
「そうなんだ。もしかしてわたしに? ありがとね、ルル」
「でも、シャーリーは別に眠れなかったわけじゃないんだろう。いや、むしろ俺たち兄妹の所為で睡眠時間を削ってしまったようなもんだ。すまないシャーリー」
「もう、ルルったら。ちっともわかってない」
「む、なにをだ?」
「わたしは、ルルの誕生日をお祝いにきたんだよ。謝ってほしくて一生懸命マフラーやひざ掛けを作ったんじゃないよ」
「しかし……」
「しかしじゃないよ。わたしは、せっかく、ルルが喜んでくれるかなって思ってたのに」
 しょんぼりするシャーリーにルルーシュが思わず立ち上がる。
「そ、そんなことはない。嬉しかった。嬉しかったとも、本当だ」
「本当?」
「もちろんだ」
 シャーリーはそれだけでにこりと笑顔を見せてくれた。
「そういってくれるとわたしも嬉しい」
 その言葉が、ルルーシュの胸に甘く小さな痛みを覚えさせる。
“なんだ?”
「だから、わたしも、嬉しいよルル。ルルがせっかく私のために買ってきてくれたんだから。だから、絶対嬉しいから」
 シャーリーは、目の前に置かれた箱に手を伸ばして、それをそっと胸にかき抱いた。
「そ、そうか……」
 なぜだかわからぬままにどぎまぎとしてしまうルルーシュ。
「ねえ、わたしも開けて見てみていいかな?」
「ああ、もちろん構わない」
 シャーリーは丁寧に包装紙をはがすと、その箱を開いた。中からでてきたのは小さな缶入りのろうそくたち。
「わ、かわいい」
 シャーリーの目が輝く。うずうずと、手にとって眺めたり、匂いをかいだりしている。
「ルル、ちょっと試してもいいかな?」
「ああ、少し待っててくれ」
 ルルーシュは机の引き出しまでいくと、マッチを取って戻って来た。シュッと音を立ててマッチをすり、小さな赤い火が点った。それがろうそくの芯に移り、周りの蝋をじわじわ溶かすにつれて、ほのかな薫りがあたりに漂い始める。
「ん……なんか本当に、落ち着く薫りだね」
 シャーリーの笑顔に誘われるようにルルーシュはその隣に腰を下ろして、一緒にキャンドルを見やる。
「だが、やっぱり、結構大変だったんだろう? これを作るのは」
 ルルーシュが貰ったマフラーを手に持って聞くと、シャーリーは今度は首を振った。
「ルルに喜んでもらえたから、全然、だよ。そうだ、ねえ、ちょっと付けてみてよ、サイズあってなかったらいやだし」
 マフラーのサイズなんて、有って無いようなものだろうとルルーシュは思ったが素直に首に巻いてみた。巻いてみると思った以上にそのマフラーは心地よく温かだった。
「これは、いいな。サイズも合っていると思う」
「うーん、いやちょっと長くしすぎたかも」
 シャーリーは少し余ったマフラーの様子にどうやら不満のようだった。
「いや、十分だよ。素敵なプレゼントを本当にありがとう。ナナリーのひざ掛けまで作ってもらえて、本当に感謝するよ」
「本当、やっぱり、ルルはナナちゃんが大事なんだね」
「二人きりの家族だからな」
「うん……ずっと、誕生日になに贈ったら、ルルは喜んでくれるかなって……考えてて」
 シャーリーの体温がそっと、ルルーシュの横に寄り添った。
「ルルのことだから、普通にプレゼント贈っても反応……薄そうだなって」
 横を見てみると、しぱしぱと目を瞬かせているシャーリーが居た。
「悪かったな」
 なんだか優しい気分になって、ルルーシュは優しく、そう答えた。
「それで、やっぱ……り、ルルが一番喜ぶのは、自分のことより、ナナちゃん……のことじゃないかなって」
 かくんかくんと揺れる頭と途切れ途切れの言葉がルルーシュに届く。
「……だから、……って喜んで……良かった……」
 その少し後には、もう、シャーリーの声はすうすうという寝息に変わってしまっていた。
 ルルーシュはちょっとだけシャーリーの体温を気恥ずかしく、戸惑いながら受け止めて、一度小さく震えたシャーリーに巻きつけたばかりの自分のマフラーを分け与えてやる。
「長いっていってたけど、その方が良かったな」
 ルルーシュはシャーリーを起こさないように、小さくそういって微笑んだ。それから目の前のキャンドルの火を消し、ルルーシュはじっと考える。
 世界は優しくなどない。けれど、優しさのカケラは案外こんな所に転がっていたのかもしれない。
 それを見失わなければきっと間違えない。
 シャーリーの安らかな寝顔を見ながら、彼はふとそんなことを思うのだった。


 この後、シャーリーの寝顔を見つめるうちに一緒に眠ってしまったルルーシュがなにやら動きを感じて目を覚ました時、シャーリーの体勢がルルーシュをハグする状態になっていたことやその顔が妙に赤く火照っていたりしたけれど、それはまた別の話。


あとがき
作中のシャーリーじゃありませんが、眠いです。
一日6時間は寝ないと身体が持ちません。だというのに今週はもう……。
とはいえ、考え付いてしまったものは形にしないと気持ち悪いですし、シャーリーへの渦巻く想いを溜め込んだままにしていると精神的に悪いです。
なので、予定を変更して結局突発的にルルーシュ誕生日SSを書いてしまうことに。
ちょっと仕事忙しかったので体力的には辛かったですが、やっぱり作品が出来上がるとそれはそれで嬉しいですね。
しかしなんだか最近は公式がルルシャリづいているようで嬉しい限り。
まだSE6は聞いていないのですが、各地でルルシャリだと聞き及び、今から期待しています。
このままの流れで、同人誌などもルルシャリもの増えてくれると嬉しいなあ……。

2008/12/5 栗村弘


以下、上の本編の続きというか、ちょっとしたおまけです。


後日談

「あら、ルルーシュ。それ、手編みのマフラーじゃない。どうしたの?」
「昨日シャーリーから貰ったんですよ」
「ずいぶん嬉しそうね」
「ふ、ナナリーとおそろいなんですよ」
「え? ナナリーもマフラーを貰ったの?」
「いえ、私はこれを」
 ミレイの目が、ルルーシュのマフラーを見、それからナナリーの示したひざ掛けに移る。
「あったかそうで良いわね」
「ええ、シャーリーには感謝してますよ」
「や、やだな、そんなにいわれると照れるよ」
「ふうん? シャーリーは自分の分は作らなかったの?」
「え、それは……」
「さすがにそんな暇はなかったでしょう」
「う、うん。まあ、自分の分は気が向いたらゆっくり作るよ。クリスマスにはまたなんか編めるといいな」
 そのまま話はそろそろ迫りくるクリスマスとその企画の話題へと移っていく。
 そして、その企画のために個々が、自分の書類に取り掛かろうという頃、思い出したようにミレイが言った。
「そういえば、今日、シャーリーったらずいぶん可愛らしい手袋してたわよね」
 ぎくっと固まるシャーリー。
「何のことですか?」
「ふふふ、乙女心満載の可愛らしい手袋だったわね。どこで手に入れたのか、私にもそのうち教えてね?」
「あ、う……」
 異様に鈍いルルーシュはこの会話を聞いても、何のことかは当然のように気づかなかった。
「乙女心満載の手袋ってどんなんです?」
「乙女の恋する気持ちがつまったいじらしい手袋なのよ」
「はあ」
 さっぱりわかっていない様子のルルーシュ。
 下を向いて真っ赤になっているシャーリーの頬をつんつんつついてミレイはにこやかに笑う。
「さあ、みんな頑張りましょうか」




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