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第五話
キュウシュウ事件直前辺りから、ゼロの様子は少しおかしいとカレンは感じていた。
前から秘密主義的では有ったけれど、その傾向がより強まっている気がする。
日本独立のための準備と称して、物資をある場所へと移送し、そこを要塞化しているらしい。
戦闘員としての側面を強く持つカレンにはその計画の全体像は全く見えてこないが、ディートハルトや藤堂が懸念を示している様子からしても、そこに戦略的価値があまり見えないのは確からしい。
それに、いくら協力者がいてもブリタニアにとっても重要地点であるその場所を要塞化するのは多くの危険を伴ってもいた。
けれどゼロのこれまでの功績がそれでも計画を進めさせていた。
「確かに利点はあります。サクラダイトの確保は容易になるでしょう、しかし」
カレンがゼロに呼ばれて彼の待つ部屋へ入っていったときもディートハルトはゼロに向かって声高らかに主張しているところだった。
「ディートハルト。君の意見は良くわかっている。だが、計画に変更はない」
「く……」
「これは必要なことだ」
「わかりました、ゼロ」
そういって一礼するとディートハルトは退室していく。
それを見送りながら、カレンは危機感を覚える。
あの男はいずれ危険になるかもしれないと。
「いいんですか?」
「気にするな、カレン。それよりも君に頼みたいことがある」
「はい。なんでしょう」
頷くカレンにゼロが説明を始める。それは思いも寄らない話だった。
ゼロはカレンにアッシュフォード学園に戻れというのだ。
「学園に? でも、私は……」
カレンの当然の疑問。
「案ずる事はない。枢木は君を捕らえようとはしない。だが、危険であることは確かだ。もし危険を感じればすぐにでも撤退して構わない。その際は協力者を用意してある」
ゼロは、逃走経路を示した地図をカレンの目の前へと広げた。
「念には念を入れてある。重要なのは目先のことだけではない。それに、今すぐには動けない理由が出来た」
「独立の話ですか?」
ゼロは頷いて軽く椅子に座り込む。
「確定した話ではないが、ブリタニアからこの日本に大きな介入がある」
「え?」
そう聞かされてカレンがすぐに頭に思い浮かぶのは……。
「まさか……敵の増援ですか?」
現在ブリタニアが戦っているのは主にEUで、それ以外は大した敵も居ない。EUの戦線は膠着しつつもブリタニア軍に有利に展開しているという話も聞く。だとすれば、そこを担当しているというシュナイゼル第二皇子が?
そう思ってしまうのも、カレンからすれば無理のないことだった。
「いや、そうではない。だが、それは我々にとって致命の事態となりかねない」
カレンにはもうそれがなんなのかさっぱりわからない。いや、分からなくてもいいのだ。私はゼロについていきさえすればいい。それでいいのだ。
「じゃあ私達はその介入を?」
妨害するのかといいかけたカレンにゼロは首を振る。
「そうでもない。それはある意味で我々を一つにするために大変役立つかもしれない。私はその策にあえて乗ろうと思っている」
「ブリタニアの策に?」
「そうだ。これは賭けでもある。そのために事前の情報収集が大きく明暗を分ける。そのためにもカレン。君は学園に戻って欲しい」
ゼロが作戦を説明するのは珍しいことだ。だから、カレンはやっぱり戸惑ってしまう。今回に限ってなにが有るのかを考えてしまうのだ。
「ご期待に沿えるか、わかりませんが」
カレンは、緊張にごくりとつばを飲み込んだ。
「わかっている。無理はしなくてもいい。君は何より、うちのエースだからな」
「はい!」
カレンは溢れる喜びに身を浸らせて、大きく返事をした。
カレンが去っていくのを眺めて、ルルーシュは自嘲の笑いを浮かべる。
なにが情報収集だ。
そんなことをカレンにさせる必要などどこにもない。何もかも、今はルルーシュの我侭に過ぎない。
以前のようにナナリーのためなどという免罪符はどこにも存在しない。彼は彼の求める『幸せ』を作りたいがために行動している。
「つまり、俺は悪人ということだ」
そんなことは前からわかっていた。何度も自分がそうだと口にしていた。だけど、結局何かを逃げ道にしていた。ナナリーのため、昨日より優しい世界のため。
でも、一度それらを全て成し遂げた後、また、この時間の中で何かをするというのならば。俺はやはり、俺にとっての大切な世界を守りたいのだ。
そのために周りを巻き込んで苦しめるだろう俺は、許されない悪人なのだろう。
「逃げはしないさ。罰も受けよう……」
それでも。
それでも、俺の望んだ『幸せ』が手に入るなら。
「俺は……」
胸の奥の鈍く疼く痛みに、ルルーシュはそっと目を閉じた。
「なんだこれは?」
寝転がっているC.C.は自分に渡されたものを怪訝そうに見ていた。
「ウィッグ他、変装用具一式だ」
ちらりとサングラスやウィッグを見た後、不思議そうにまたルルーシュへと視線が戻ってくる。
「……こういうのが趣味か? 変わっているな」
「違う! お前が寄越せといったから持ってきたまでだ」
「私が? いったかそんなこと」
怪訝そうな顔をするC.C.にルルーシュは少し考えるそぶりを見せた。
「いや、正確には今日口にすることになる、だな」
「……ははぁ、例の未来の話か。だが、お前が未来の情報を得たことで色々変わっているんじゃないのか? 私が必ずしもそう言うとは限るまい」
「お前が今日一日学園に出てくるつもりがないならそれでも構わないがな。世界一大きいピザを作ると聞いて部屋でじっとしていられるか?」
「ほう、それは楽しそうじゃないか」
嬉しそうに笑うC.C.にルルーシュはため息をついて答えた。
「だから、出て来るときは必ずそれで変装してから出て来い。……本当はこのまま部屋にこもっていてくれるのが一番ありがたいんだがな」
「だったら教えなければよかろうに」
「どこかで勝手に知られて対応に手間取るぐらいならこの方がいい」
「つまらんな」
「そんなことで遊ばれてたまるか」
出て行こうとするルルーシュにC.C.が真面目な顔で問いかける。
「なあ、ルルーシュ。お前どこまで知っているんだ?」
ルルーシュは出て行く寸前で立ち止まり、顔を向けずに答える。
「C.C.、俺たちは契約で結ばれている。そうだろう? お前が望むというなら、俺は……かなえてやろう」
そこまでいうと、ルルーシュはそのまま外へ出て行った。それを見送って、C.C.はぱたりとベッドに横になる。
「……そうか、知っているんだな」
らしくもないか弱い自分の声に、C.C.は自嘲気味に笑った。
学園祭当日、朝早くから仕事のあるルルーシュは朝食も早々に生徒会室にやってきていた。ナナリーはロロに任せてあるから、後で来るだろう。
「あれ、シャーリー……こんな早くから?」
驚いたことに、ルルーシュが扉を開けて中に入り込むとシャーリーが既にやってきていた。
“なんとなく寝起きが悪そうなイメージがあったんだがな”
「おはようルルーシュ。うん、ちょっと眠いけどね」
そういって、シャーリーは小さくあくびをかみ殺して見せた。
「本当に眠そうだな。そんな無理しなくても良かったんじゃないか?」
「わ、なんかルルーシュが優しい」
からかうようなシャーリーの言葉に思わずルルーシュは鼻白む。
「シャーリーは俺をどんな人間だと思ってるんだ」
「え……それは、なんというか……あ、本当に優しくないとか思っているわけじゃないよ!」
なんだか必死な否定の言葉が返ってきて、ルルーシュは思わず頬に笑みが浮かぶのを抑えきれない。
「もう、なんで笑うの」
「いや、すまないな。それより、シャーリーもやっぱり学園祭は楽しみなのか?」
「それはそうだよ。ちょっと大変そうだけど、ね」
少し苦笑気味に笑っていたシャーリーが、ちょっと心配そうに表情を変えた。
「ルルーシュは楽しみじゃないの?」
ふと、ルルーシュはあまりにも自然すぎて、シャーリーが彼のことをそういっているのに今更気がついた。いや、呼称だけじゃない。その言葉の距離とでもいうものが、昨日までよりもぐっと近くなっている気がしていた。彼女がそう呼んでいた頃の懐かしさが胸の中に溢れて、一瞬彼の動きは止まってしまう。
「いや、楽しみだよ。ただ俺たちに楽しんでる暇はなさそうだけどな」
嘘じゃない。こうして、学園のみんなともう一度学園祭がやれること自体が彼にとっては嬉しいことだった。それも、彼の大切な人々誰一人損なうことなく。
「あ、でも、最後に花火打ち上げる時は大丈夫なんだよね?」
「ああ、その時間はもう仕事はあらかた終わっているはずだからな」
こうしてシャーリーと話していられるのはあの雨の日以来か。
あれ以降、彼はずっと忙しくて、学園にまともに来ることすら出来ていなかったから。
キュウシュウでは以前の記憶と変わらぬやり取りをし、自分が変えようとしなければ事態は記憶どおりに進むことを再確認した。そのために費やした時間はスザクを救う意味も有り、決して惜しくはなかったがこうして学園に来る時間を奪ってしまっていたのは確かだった。
結局、以前と同じ補修をやらされたときにはげんなりしたが、仕方のないことだ。
「そういえば、時間作ってくれという話だったけど、今じゃまずいのか?」
その言葉にはっとなるシャーリー。
「う、うん。そうだね、二人っきりだし……あのね、ルルーシュ!」
勢い込んでシャーリーが口を開いた矢先、二人の視界の端で扉が開いて、リヴァルが入ってくる。
「おはよーっ。お二人とも早いねえ……ってあら、二人して見詰め合って、こりゃ悪いところに入ってきちゃったかな?」
からかい気味の様子で扉から外へ戻っていこうとするリヴァルにルルーシュはすっ、とシャーリーから離れてオーバーに呆れた様子をしてみせる。
「何のことだ、リヴァル。ちょっとシャーリーから今日の段取りについて質問を受けていただけだ」
そういって、同意を求めるように取り澄ました顔でシャーリーを見る。
「う、うん」
「ガスバーナーなら倉庫にあるから、早めに取ってくるよう指示は出しておくよ」
「あ、お願いね」
シャーリーは、そういえばまだどこにあるのか点検していなかったと思い出す。でも、そんなことルルーシュに聞いてもいなかったのに、どうしてわかったんだろう?
「なーんだ。せっかくいいシーンかと思って期待しちゃったのに」
「変な期待をするな。まったく」
“この二人っていいコンビだな。二人とも表に出して信用してるって感じじゃないけど、すごく自然で心許してる感じ。わたしも……そうだったのかな”
シャーリーの心に軽く浮かんだ疑問も、普段どおりの二人のやり取りを見ているうちにすぐ消えていった。
指揮車の中で方々に指示を出しながら、ルルーシュはユーフェミアが来るのを待っていた。
必ず来るとは思っていても、彼の変えた事柄が色々と影響を与えている可能性は否めない。特にロロがナナリーと一緒にいるとユーフェミアがナナリーと出会わない可能性すらあった。だから、少し悪いと思ったがロロには会長との連絡役のような形に回ってもらった。
ここでユフィと話すことに深い意味が有るわけではない。
話そうが話すまいが、ユフィは特区日本を推し進めるだろうし、ルルーシュもまた対応を変えたりはしない。
それでも、彼女に会っておく理由があった。
今度こそ叶えてみせると誓ったのだから。
俺の夢と幸せをつかみたいと思ったのだから。
そのために為すべきことがある。
色々と考えながら、ルルーシュはピザの調理会場へと目を向ける。
今のところ順調に進行しているようだ。
ガニメデを操って、スザクが器用にピザの生地をこねている。もちろん事前にある程度はこねたものを集めているからスザクのしていることは全体を繋ぐためだけにしていることだが、中途半端にしては途中で生地が分裂しかねない。地道ながら割と重要な作業なのだった。
「そして、なんと使われているジャガイモの総量は!」
リヴァルがその地味な作業の間を持たせるように派手な口調でいかにこのピザが凄いかを説明している。度胸も愛嬌も有るからこういうイベントの司会役は適任だ。もっとも、弁が立つというわけではないから、それはノリと勢いの代物なのだけど。
その視界内に、会場の端できょろきょろと誰かを探すシャーリーの姿が目に映る。
困ったような顔をしているのがここからでも良くわかる。懐から取り出した携帯を開け、通話ボタンを押しかけて数秒、思いとどまって再びシャーリーの姿を見ると、一人の男となにやら話をしていた。
“誰だ? 見た事のない顔だが……”
よくよく考えれば、学園祭のこの日ルルーシュの知らない人間がいること自体はおかしくない。だが、見も知らぬ男にシャーリーの笑顔が向けられているのを見るのは、落ち着かない思いを心中に掻き立てる。
やはり携帯でも……としばらく煩悶している間に、男はぺこぺことシャーリーに頭を下げると行ってしまった。何か、道でも聞いていたのだろう。
だが、シャーリーのほうはまだ誰かを探しているような様子だ。
まあ、今のは明らかにシャーリーの探していた人物とは違うだろうから、当然のことではある。
俺を探しているのかとも思ったが、それこそ彼女の方から携帯にかけてくるだろう。一度目のあの時もシャーリーはそうしていたし。そういえば、あの時彼女が言いたかったこととはなんなんだろうな。結局あの後会う約束をしたときにもシャーリーは現れなかった。
「お兄様?」
彼がぼうっとシャーリーを見続けている間に、いつの間に入ってきたのかユーフェミアがナナリーの車椅子を押して立っていた。
わかっていたはずなのにあまりに不意打ちで、ルルーシュはびくっとして立ち上がってしまう。
「こんにちはルルーシュ」
変装ともいえないサングラスを取ってユーフェミアが微笑みかけてきた。
それを見て、逆にルルーシュの気持ちは落ち着いた。
「ああ、こんにちはユフィ」
普通に挨拶を返すと思っていなかったのか、ちょっと意外そうな顔をするユーフェミア。
「ここじゃあなんだな、場所を外そう」
ユーフェミアを促してルルーシュは出ていく。
そのとき、ちらりと目を向けた視界の中でシャーリーがロロに話しかけているのを見つける。
ドクンと胸が脈打つ。
全身があわ立つような悪寒に包まれて、身体が硬直する。
いや、そんなことはない。今はあの時とは違うのだから。それでも、刻み込まれたいやな熱が去らない。
「ルルーシュ?」
ロロに連れられ、シャーリーが校舎の影へと消えていく。
「すまない、ちょっと待ってくれないか」
そういってルルーシュは駆け出していく。走りながら、携帯でシャーリーを呼び出す。もどかしいぐらいに上手く操作できない。
「でてくれ、シャーリー」
何とか通話ボタンを押して携帯を耳に当てたルルーシュだが、前をあまりにおろそかにしすぎていた。校舎の角で前からやってきた人物と思い切りぶつかって、ルルーシュは青草の匂う地面へと倒された。
「あいたっ。もう、ルルーシュ? なんでこんなところ走ってるの」
探している当のシャーリーを目にして、ルルーシュは呆然とする。彼女もまた衝突で後へと倒れこみ、少々あられもない格好で地面に座り込んでいる。
「あれ……携帯が」
シャーリーの視線が地面に落ちた二つの携帯に引き寄せられる。
「そうだ、わたし、電話受けようとしてたんだった」
拾って、着信を見て、シャーリーの目がルルーシュへ向かう。シャーリーは困ったような顔で携帯を閉じた。
「えーと、何か用事?」
「あ、いや、その……ロロは?」
「はい?」
「いや、さっきロロと一緒にいただろう?」
「あ、うん、いたけど。ちょっと会長に伝言頼んじゃったから。まずかった?」
全身から、どっと力が抜ける。というか、本当にどうかしているとしか思えない。ロロが信用ならなかったわけじゃない。そんなことだったら彼を無茶な手段を使ってまで身近に置こうとしなかっただろう。けれど、ああして見てしまえば彼女を失う恐怖を抑えられなかった。
そう、もう気づいてしまっているのだから。
彼女を喪うことが自分にとってどれほど耐え難いことなのか。
「そうか、良かった」
「なにが良かったの?」
きょとんとしているシャーリー。
「ああ、すまない。会長の所に行ったならいいんだ」
とっさにルルーシュはそう言い訳し、ゆっくりと起き上がる。まだ倒れたままのシャーリーに向かって手を差し出し、視線だけを逸らす。
「そんな格好で座り込んでると、その、だな……」
「きゃっ」
ルルーシュが見返してみると、座りなおして、こちらを上目遣いで睨むシャーリーの姿。
「スケベ」
「いや! 違う。俺は」
何か言い返そうとして、シャーリーのその姿を思い出し、頬が熱を持っていくのを抑えられないルルーシュ。
「もう」
シャーリーは嘆息すると、そっとルルーシュの手を取った。
「立たせてくれるんでしょ?」
「あ、ああ」
そして、シャーリーの手を取って立ち上がらせた瞬間、後ろから声がかけられた。
「こんな所にいたのね、ルルーシュ」
追いかけてきたらしきユーフェミアがそこに立っていた。なにやらにこやかな笑顔で後ろのシャーリーにも笑いかけている。
「あ、す、すまない、シャーリーまた後で!」
言うなりルルーシュは今度はユーフェミアの手を取ってその場から駆け出していく。
「え、ち、ちょっとルルーシュ!?」
シャーリーの声が追いすがってきたが、止まるわけには行かなかった。
「あーもうっ!」
その声に含まれている苛立ちは、先ほどまでよりもずいぶんと大きいように感じられて、ルルーシュは走りながらも嘆息する。
「はあ、はあ……」
当たり前のように走っているうちにばてたのはルルーシュのほうだった。
「一体なんだったんです?」
ユーフェミアの言葉にも、手を上げて待ってくれとアピールすることしか出来ない。しばらくひざに手をついた形で息を整えていたが、結局そのまま芝生の上へと座り込んでしまう。
「ルルーシュも普段はこの学校で楽しそうに過ごしているのですね」
その横へとユーフェミアも腰を下ろす。その視線の先には例のピザ会場があって、ルルーシュはその様子をぼうっと見ながら場所が少し違うが結局前回と同じ状況になったなと考えていた。
「ユフィは、ナナリーと話をしたんだろう?」
ようやく息が落ち着いて、ポツリとつぶやくようにルルーシュはそう口にする。
「ええ」
「どんなことを話したんだ?」
「あなたのこととか、スザクのこととか、学園のこととか。あ、そういえば、新しいお兄さんが出来たとかいってましたけど」
「ロロのことか」
「本当にマリアンヌ様の?」
「……そういうことになってるな」
その言葉に何か感じ取ったのか、ユーフェミアの形の良い眉がしかめられる。
「あの、ルルーシュ」
「勘違いするなよ。ロロは、別段黒の騎士団の関係者ってわけじゃない」
昔と違ってな、とルルーシュは心のうちだけでそう言葉にする。
「そうなんですか」
「ああ、俺は俺なりにこの学園生活を大切に思っているんだよ」
ぐるりとユーフェミアが辺りを見回す。
「ええ、活気があって、いい学校ですね。こんなふうに過ごしていけるなら。イレブンもブリタニア人も関係なく」
「なあ、ユフィ……」
「なんですか?」
決定的な言葉を口にしようとして迷う。結局どうでもいいような言葉が口をついて出た。
「スザクとは上手くいったんだってな。おめでとう」
「ど、どうして、それを……あ、スザクから聞いたのですか?」
ルルーシュは曖昧に笑う。
「もう、スザクったら」
いいながら頬を押さえる、ユーフェミアは年相応の少女らしく可愛らしかった。
思わずもっとからかいたくなってしまう。
「しかし、いつ、スザクと出会ったんだ。やっぱり軍の関係でか?」
「いえ、最初は私、ちょっと脱走して」
「脱走?」
「声が大きいです、ルルーシュ!」
ユーフェミアの声の方がずっと大きいと思ったが、ここでそんなことを突付いて物事を荒立てない程度の処世術はルルーシュにもある。
「あ、ああ、すまない。それでどうしたんだ」
「それでですね、下にいたのがスザクだったんです」
ルルーシュの顔がさっぱりわからないと如実に表現している。それを見て、ユーフェミアがちょっとしょんぼりとした。
だが、すぐに気を取り直すと、彼女は楽しそうにもう少し細かく状況を語り始めた。
あらかたの話を聞き終えると、ルルーシュは「そうか」と口にして笑った。
幸せそうな彼女と親友を祝福しつつ、ちょっとだけ心の中で、他人ののろけ話は聞くもんじゃないなと思い。
かつて自分が破壊してしまったものの大切さを思う。
「ユフィ……考えてることがあるんだろう?」
「え?」
「行政特区日本」
一言一言噛み締めるように言うルルーシュに今度こそ、ユフィの様子が劇的に変化する。
「……どうして?」
その声に恐れが多分に含まれているのを感じ、ルルーシュは下を向く。
「やめる気はないか?」
「なぜです?」
「失敗するぞ」
「失敗させません」
「いや、したんだ。既に一回な」
「何の話です? ルルーシュ一体なにが言いたいんですか?」
「忠告だよ、それと君の信念を確かめたかった。それだけだ」
「私は、どんなに反対されても、やめる気はありません。そんな中途半端な気持ちではないつもりです」
ルルーシュは頷く。本当は聞くまでもないことだった。ルルーシュは既に知っているのだから。
「それでも、ユフィ。君がどうしてもやるなら……」
その言葉にユフィが息を呑む。
「俺は君に協力してもいい」
「え? 本当ですか!?」
素直にルルーシュからの協力が得られるなどと思っていなかったのだろう。小躍りせんばかりに彼女の気配が揺れた。
「本当だ」
「良かった、きっとスザクも喜んでくれると思います」
「ただし、俺は君をただのAREA11副総督や特区責任者といった肩書きで終わらすつもりはない」
ずっと逸らしていた目をルルーシュは彼女の瞳へとしっかり向ける。
「どういう意味ですか?」
「俺は君にブリタニア皇帝になってほしいんだよ、ユーフェミア皇女殿下」
ざあ、と強い風が二人の間を駆け抜け、呆然とするユーフェミアの髪から帽子をさらっていく。そのまま巻き上げられた髪があたりに踊った。
その様子を近くの木立で見ている人間がいた。逃げ出したルルーシュを探していたシャーリーだった。
「え、嘘……本当のユーフェミア皇女、殿下……?」
自分でもなぜそんなに驚いているのかわからないほどに動揺して、シャーリーは近くの樹にふらりと倒れかかる。押さえようとした手に力が入らず、シャーリーはそのまま背中を預けるようにしてもたれかかった。
彼女の頭の中では今聞いたこと、見たことがいつまでもぐるぐると回り続けていた。
to be continued
あとがき
ようやくお届けすることが出来ました。RELIVE第5話です。
そして、話的にもようやく進行し始めたという感じが強いです。これから先は、かなり私の独自色が強くなるはずです。ストーリー的には。もっとも、ここから先も世界観、キャラクターなどは本編になるべく忠実に作っていくつもりですので、大丈夫です!(と無駄にテンションを上げてみる)
そんななかで、シャーリーとルルーシュの中をどうやって進展させていくのかが書いている私としても楽しみです。
さてさて遅くなった言い訳じゃありませんが、つい最近出たばかりのR2のDVD5巻を買ってきて見てしまったのですね。やっぱり見てしまうとこう浮き沈みが激しいというか、また例のシーンのシャーリーがちらつくようになってしまったというか。
やっぱり、症状がぶり返してしまいました。……病み上がりに無理は禁物ですよね。
うう、シャーリー……。
そうそう、そういえば、こういう作品は逆行モノと言うらしいですね。しかし、逆行ってことは、後に向かって進むわけでGS美神の横島が呪いかけられて(美神のキスで解呪される)過去へタイムスリップしていく回とか、ラキア2巻(電撃文庫:著 周防ツカサ)みたいな作品なら納得なんですけど、この作品みたいなのは逆行と言うよりやはりやり直しか再挑戦モノですよね。正直誰がつけたのか知りませんが変なジャンル名だと思います。
しかし相変わらず時系列がまっすぐ順番に並んでいません。しかも視点はころころ変わるので読みにくいかも。まあ、それぞれの段落ごとに一話みたいに思って見てもらえると良いのかな。まあ、全体を統制して書いてないのでこれから先もこういうことは頻繁に起こると思います。
2009/1/13 栗村弘
BGM 折笠富美子「晴れのち夏の雨」坂本真綾「tune the rainbow」 他
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