第一陣の光景。
「おお、ちゃんとしたお風呂なのだー」
大きな水音を立てて美緒は風呂に飛び込む。
「こら、美緒ちゃん。身体洗ってから入らないと駄目でしょ。リスティ、背中流してあげるからこっちいらっしゃい」
「いいよ、恥ずかしいし」
「リスティ、これでもくらうのだー」
美緒は器用に両手を組み合わせて水鉄砲を作ると、お風呂のお湯をリスティの顔に当てる。
「……やったなぁ、美緒」
リスティも応戦しようと水鉄砲を作るのだがうまいこといかずに明後日の方へととんで行く。
「あはは、へたっぴなのだー」
「ちょこまか動くな!」
「美緒ちゃんもリスティも止めなさいってばー」
とりあえず、平和な光景であった。
そのころリビングでは……
「で、何で真雪さんここにいるんすか?」
「あ〜、別にいいだろ、あたしがどこにいようと」
「別にいいんすけどね」
「……愛は怖いんだよ、愛は」
「へっ!?」
第二陣の光景。
「おお、岡本少年、育ち盛りだなー」
「ち、知佳ちゃぁ〜ん」
「ごめんね、みなみちゃん。その程度は我慢してね。……きっと薫さんよりは……」
仁村姉妹にもてあそばれているみなみがいた。
「耕介ッ!」
「何すか、真雪さん」
「……分かってんだろうな?」
「……分かりました……」
耕介は深々と溜息をつくと、「十六夜さん、御架月。薫が風呂入ってる時間にちょっと練習したいんだけど、付き合ってくれないかな?」
「私は構いませんが……?」
十六夜は少し不思議そうな表情を浮かべて耕介に問い返す。「耕介様はお疲れなのでは?」
「だからって修行を疎かにするわけにはいかないしね」
「そうですか。分かりました、耕介様。私でよろしければお手伝いさせていただきます」
「僕も良いですよ、耕介様」
(……すまない、二人とも。俺は今非常に嘘をついてる……)
後ろめたい気持ちにさいなやまされながら二人の笑顔を見つめる耕介であった。
そして、第三陣の光景。
部屋から降りてきた薫はリビングで、
「十六夜……?」
と、見慣れた人影を探したが見つからなかった。
「十六夜さんならみかちゃんと一緒に耕介さんの修行のお手伝いに行ってますよ」
丁度テレビを見ていた愛がそれに応える。
「ああ、そげんですか。……それではうちはお風呂はいりますので」
「ごゆっくりー」
「はい」
「けけけ、神咲のやつ行ったな……」
それを密かに物影から見る怪しげな影があった。「さて、と。いつもの場所に移動するか」
「……真雪、邪悪なオーラを放ってる」
「まぁ、いつものことだし」
その怪しげな影の後を二人分の小さな人影が侍るように付き従っていた。
「……いいお湯加減……」
久しぶりになる『さざなみ寮』でのお風呂タイムを薫は満喫していた。身体洗っているときから何となく見られている気もするのだが、どこを探してもそれらしい影も気配も感じられないので、
(疲れとんね)
と、一人何となく納得していた。
「そんにしても便利になったんね」
湯船のヘリに頭を乗せて風呂釜の制御装置を見上げながらポツリと呟く。「十六夜がいたら一々驚いたかんね……」
久々に何の妨害もない静かなときを薫は過ごしていた。
「おうおう、やっぱり神咲の発育は良いねぇ、けけけ」
「やっぱり真雪は邪悪だ」
「ぼーずに言われたくねーな」
「お姉ちゃん、リスティも静かにしないと薫さんに気づかれるよ」
「大丈夫、知佳。そのためのボクたちだから」
「うう、薫さんごめんなさい。私にはお姉ちゃんとリスティは止められませんでした……」
「何言ってるんだか。この手を考えついたのは誰だろうねぇ?」
「冗談で言っただけなのに」
「この真雪さんにそんな冗談が通じると思ったのか?」
「確信犯だね、知佳」
「うう、どんどん黒く染まっていくよ〜」
HGS患者二人に守られながら天井裏から密かに隠し撮りをする真雪であった。
一方、耕介は……
「耕介様、もうおやめ下さい!」
「耕介様、それ以上は体に毒です!」
「……989……」
「ひざが笑ってます。そんな状態で素振りをなさったら危険です!」
「耕介様ッ!」
後ろめたさからか必要以上に自分をいじめていた。
とりあえず風呂場復活初日は一部を除いてつつがなく過ぎていった。心配されていた新型の風呂釜を誰も壊すことなく、何とか使っていけそうと言うことと、自動お湯焚きモードのお陰で耕介の仕事が一つ減ったということが判明した。
しかし、彼らは忘れていたのだ。今のメンバーの中には風呂釜を壊す要因を持った者が『一人も』いなかったと言うことを。……そして、その問題の人物が『帰国』する日が刻一刻と近づいてきている事実に気づくものは誰一人たりともここさざなみ寮にはいなかった。
そして、運命の日がやってきた。
「ただいま〜、耕介君、愛さん」
「ゆうひ、おかえり」
「おかえりなさい、ゆうひちゃん」
英国から帰ってきた住人を満面の笑みでオーナーと管理人は迎え入れた。
「他のみんなは?」
「何か用事があるみたいで皆さん出かけちゃいました」
「ま、何か企んでるのは間違えないだろうから楽しみにしておけよ、ゆうひ」
「そか、それは楽しみやな〜」
「けけけ、流石の愛とてわざわざあたしがバスでここまで戻ってきているとは思うまい」
「やっぱり真雪はこういう事に関しては悪魔のように頭が冴えるね」
「お姉ちゃんやっぱり止めない?」
「やだ。折角イギリスから帰ってきたヤツのためにもあたしはあたしにしかできないことをやる」
「それはそれでなんだかそこはかとなく違うような……」
「シーッ、知佳。ゆうひが来る」
「あ、そうそうゆうひちゃん。お風呂場が完成したんですよー」
「そうなんやー。それは楽しみやな〜♪」
(……おかしい。これはおかしいぞ、耕介。こんなチャンスを逃す真雪さんじゃないはずだ。ならば敵はどこにいる!?これ以上被害者を増やす前に、何とかしなくては……)
「……君、こ…け君、耕介君?」
「……え?」
「え、じゃないで〜。さっきからなに考えてん?うちが話しかけとるのにな〜んやか深刻そーな顔しちゃって。そんなにうちが帰って来ちゃまずかったん?」
「あ、悪い悪い。ちょっと考え後としててさ。……ま、確かにメシを豪勢にしなきゃならないからそういう面ではちょっとめんどくさいかなぁ」
「うう、愛さん。耕介君がいじめる〜」
「耕介さん、いまのはひどいですー。ゆうひちゃんに謝ってください」
「……ゆうひ。お前、愛さんにこういう冗談通じないの分かってて泣きついてるだろ?」
「うちさんしゃいだからわからな〜い」
「……覚えてろよ」
「……」
「うちに都合の悪いこと忘れるにきまっとるやないか。とゆーわけでお風呂入りますさかいに耕介君はついてこないよ〜に。……それとも一緒に入りたいんか、耕介君?」
「人をからかうなっつーの!」
「わーい、耕介君が怒った〜」
ゆうひははしゃぎながら更衣所の扉を閉めた。
「……あっ!」
「どうしました、愛さん!」
突然驚いたような声を上げた愛にただならぬものを感じた耕介はこれ以上緊迫できないとばかりの声で聞き返す。「何か不都合でもありましたか!?」
「さっきの冗談だったんですねー。良かった、耕介さんちゃんとゆうひちゃんが帰ってきたこと喜んだたんですね〜」
余りもの答えに、いや、そういうキャラクターだと知ってはいたのにその答えを聞いた瞬間、耕介の膝が砕けたのは言うまでもない。
「目標、風呂場にはいるのを確認」
「良し、そのまま追跡。撮影班は所定の位置に着く」
「……お姉ちゃん、リスティ」
「目標、風呂釜の制御パネルを見て首を傾げてる」
「了解。ならばその角度で……」
「……止められないんだね、やっぱり……」
「おお〜、新しゅうなっとるなっとる。文明の進歩なんやなぁ〜」
そう幾分かオーバーなくらいゆうひは新しいお風呂に感動していた。ある意味で耕介と似た反応を示す娘である。知佳あたりがその場にいたら、
「ゆうひちゃんってば大げさなんだから〜」
といった突っ込みがあったのだろうが、今は一人きりだから当然誰も突っ込んではくれない。
「うう、うちは孤高な狼さんなんや……」
とワケの分からない一人ボケ突っ込みをしながらシャワーに手を伸ばす。
まぁ、知佳がこの場にいるのは読者サイドだけが知っているこの際公然の秘密である。
(おかしい……)
耕介は焦っていた。さっきからイヤな予感がしてしょうがない。間違えなく、真雪がこのさざなみ寮にいるという事が彼には直感で分かっていた。これ以上悪事に加担するわけには行かない。そう覚悟を決めると薫の部屋をノックする。
「はい」
「……御架月か?十六夜さんは?」
「姉様なら薫様と一緒に出かけられましたが?」
「……そうか。だったら御架月、お前に手伝ってもらいたいことがある」
「急に改まって何ですか、耕介様?」
「このさざなみ寮を覆っている悪しき野望を打ち砕くためお前の力を借りたい」
「……はい?」
「このさざなみ寮のどこかに真雪さんがいるのは間違えない」
「……真雪様なら知佳様とリスティ様と一緒に病院に行ったのでは?」
「甘い。あの人がこんなチャンスを逃すわけがない。間違えなくこのさざなみ寮のどこかにいる」
「そういうものなんですか?」
「そういうものなんだ」
「はぁ……」
「とにかく、あの人を捜して欲しい。見つけたら直ちに俺に報告してくれ。……今度ばかりは止めてみせる」
「良く分かりませんけど……、やってみます」
「ああ、よろしく頼む」
その時、風呂場から、
「なんやこれ〜」
と、絹を引き裂くような叫び声が聞こえてきた。
「ゆうひ?御架月、一刻も早く真雪さんを探し出してくれ、良いな!」
「あ、はい」
まだ状況を把握できてない御架月をその場に置いて耕介は物凄いスピードで階段を下りていった。
少しばかり時間を戻す。
身体を洗い終わったゆうひは湯船に使ったものの少しばかりお風呂のお湯がぬるい気がしたので湯沸かししようとパネルの前に来ていた。
「……」
ここでゆうひはやっと自分の置かれている立場に気がついた。そう、前の風呂釜はここまで『ハイテク』ではなかったのである。「うう、うちが機械に弱いことを知っての狼藉やな……」
まぁ、そんなことはないのだが、ゆうひにはそうとしか思えなかった。実際、さざなみ寮でここまで機械に弱いのはゆうひ意外いなかったので、誰も湯沸かしで悩むものなどいなかった。もし分からないとしても一緒に入っている誰かしらが分かるので、任せっきりにしているものも少なからずいたことにはいたが、そういう連中も回を重ねるごとに何となく理解していった。ゆうひもそういう風にしていけば理解できたのだろうが……この場合の不幸は一緒に入る者もおらず、回数を重ねるという機会にも恵まれなかったと言うことだろう。
「……これかな?」
ゆうひはとあるボタンを押し豪快にレベルゲージを高める。
「お風呂の湯量を増加します」
「……へ!?」
機会声の案内が流れるとともに猛烈なスピードでお湯が湯船に注ぎ込まれる。「ちゃうがな!……って、一人ボケ突っ込みし取る場合やあらへん!えっと、これ!」
人間慌てると不幸が倍増して帰ってくるモノである。今回の場合もそういえよう。
「お風呂の温度設定が変わりました」
「ありゃ?」
今度は猛烈なスピードで水が増えてきた。どうやら設定をぬるくしてしまったらしい。「ま、まずいで〜」
見る見る間に何故か湯船からじゃんじゃん水が溢れ出始めた。
流石のゆうひもここにいたって自分のミスをすんなりと認め、冷静に対処法を考えようとした。しかし、彼女に流れる関西人の血がそれを許さなかった。
「……何やろ、この紅いボタンは」
……ちょっと待て。作者も予測しない手は打たないよね、ゆうひさん……?
「ふふふ、なんやかうちに挑戦してる見たいやなぁ、このボタンは。……確かお約束の台詞もあった気がするんやけど〜、何やったかな?」
いや、お約束も何も、ここまで風呂を暴走させれば関西人としてはオッケーでしょ、ね、ね。
「おもいだしたで〜!確か、『折角やから、うちはこの紅いボタンを押してみるんや〜♪』」
おひ、神の声を無視して本気で押すな!
「ピーッ、緊急停止ボタンが押されました」
「お、正解やな〜」
そうだったのか?むぅ、これは予測外の展開だ……。
緊急停止ボタンの威力か、お湯とお水は止まり、風呂場に平和が訪れた。
が、
「風呂釜の全機能を停止します。危険ですので使用者は風呂釜側から待避してください、繰り返します」
「……え……」
ゆうひは一瞬頭の中が真っ白になった。「危険って、なんのことや?」
「カウントダウンを開始します。10、9、8、7、……」
おひ、本格的よのぉ。風呂釜に成原成行謹製とか書いてあるんじゃなかろうか?いや、感心してる場合じゃないだろうが!
「えっと、えっと、こういう場合は主電源切ればいいんよね?」
それも違うと思うんだが……。
「えい」
「全機能停止します」
「うんうん」
「緊急電源に切り替えます。カウントダウンを再開」
「なんやこれ〜」
……予測よりもかなり違う絹を引き裂いたような悲鳴をゆうひはあげたわけです、はい。
「おお、良い画が録れるねぇ〜」
「……真雪、なんか様子が変だけど?」
「そうかぁ〜?まぁ、面白ければそれで良いじゃん。やっぱり生きるからには一生笑って暮らすもんだろ」
「それはそれで用法が微妙に違うと思うよ、お姉ちゃん……」
「それはそれ、これはこれってやつだ。気にするな、知佳」
「そうそう、やるからには楽しまなきゃ、知佳」
「……やっぱり二人を止められないんだね」
「でもボクには嬉々として知佳が手伝ってるように見えるけど?」
「ははは、気のせいだよ、それは」
何故か乾いた声で笑う知佳。だが、周りは当然そんなことを気にしなかった。
「やっぱりゆうひがいないと、年末の『大人だけの忘年会』ネタが盛り上がんねーよな〜」
「なんですか、その『大人だけの忘年会』って?」
「おう、それはな。20歳以下お断りというさざなみ寮大人組の特権だよ。当然内容も20歳以下お断りばかりだ。なにせあのバ神咲がいないからやりたい放題で楽しいんだな〜。……って、誰だ、今の?」
「え、わたしじゃないよー」
「ボクでもない……」
「……と言うことは……出たな!妖怪ッ!?」
「人のことを妖怪あつかいせんで下さい、仁村さん」
「……やっぱりお前か、バ神咲」
「ついに見つけたとですよ、仁村さん。こないだからどうも気配があるのに分からなかったとですが……こんなところとはね」
どこかの隙間から入ってくる一筋の光が『十六夜』の刀身を照らす。「いつもなんのために録っているか分からなかったとですが……なるほど、そういう行事があったんとですね。道理でこないだ神奈さんから『薫も成長したわねぇ〜。神奈さん感激』とか言って抱きつかれたわけとです」
「ちっ!神奈さんも余計なことを……」
そういいながら真雪はどこからか取り出した木刀を構える。「ぼーず、もってろ」
「了解」
真雪から投げ渡されたビデオカメラをもってリスティはベストポジションに移動する。
「リスティ、それを渡すとね」
「渡せと言われて渡すやつはいないと思うよ、薫」
そう言いながらもビデオを回し続ける。
「知佳ちゃん、リスティを止めるね」
「……薫さん、お姉ちゃん止めてくれたら止められるけど」
「……なるほど。全ての元凶はやはり仁村さんとですか……」
「そんなの言うまでもないだろうが」
やや呆れ気味に真雪は答える。「とやかく言ってないでかかってきな、返り討ちにしたる」
「望むところです」
「……でも二人とも情けない格好だよ」
「うるさい、知佳。そんな言わないと分からないことを言うんじゃないっ!」
知佳の指摘通り、狭い天井裏、二人とも匍匐前進のような格好で各々の得物を構え戦っていた。
ちなみにこの騒ぎを聞きつけた者は何故かさざなみ寮中だれもいなかった。
……あ、そういや気づく可能性があるの愛さんだけか……。当然気づかないわな、それじゃ。
二階から駆け下りてきた耕介はそのまま、
「ゆうひ、どうしたっ!?」
と、叫びながら風呂場に突入した。
そこで耕介が目にしたものは、湯船から溢れ続ける膨大な水とパネルの前で立ちつくしている裸のゆうひであった。
「……」
「……」
しばし二人とも言葉が出ずに見つめ合っていたが、
「耕介君の、えっちー」
と、ゆうひが叫ぶや否や、どこから手にしたのかけろよんのオケを耕介の顔面向けて全力投球した。
鈍い音とともに耕介に当たったオケはそのままスローモーションのように水で溢れる洗い場にパシャッと言う音をたてて落ちた。
数瞬あと、
「……俺が何をした……」
と、呟き、そのまま前のめりで耕介は鼻血を出しながら洗い場に水柱をたてて轟音とともに沈む。
「あ、耕介君、堪忍や〜」
すぐにゆうひは耕介の頭を水から引っ張り出して膝に乗せる。
「0。爆発します」
「……へ?」
カウントダウンを終了した事を伝える機会声のあと、何故か壁一つ向こうから爆音が聞こえた。
「お、耕介。役得だね」
「なになに」
既に止めるのも忘れてリスティのそばに知佳は躙り寄る。「おお、お兄ちゃんやるねぇ〜」
そんな二人を尻目に、
「神咲、終わりだ!」
「そんな剣撃あたらんとです!」
と、端から見るとやや間抜けな熱い戦いを続けていた。
「0。爆発します」
「……リスティ、いやな予感しない?」
「知佳もか」
リスティと知佳はお互いに目をあわせる。「……でも逃げるにはもう遅いみたいだね」
轟音が鳴り響くや否や、丁度リスティと知佳の真下からお湯の柱が猛烈なスピードで立ち上がり、二人に直撃が来る。
「薫さん、お姉ちゃん……ごめん!」
「なんだって?」
真雪が知佳の不穏な台詞を聞きとがめたその時、リスティと知佳はお互い力を使い、お湯の柱を自分たちからそらした。そしてそれは丁度鍔迫り合いを始めた真雪と薫に直撃したのである。
「ずあちゃぁぁぁっっっ!!」
二人同時にやや意味のとれないようでとれるような悲鳴をあげるとそのまま当たりを周り転げる。
「……今の猛烈な湯気でビデオ壊れちゃったよ、真雪」
「ずあちゃぁぁぁっっっ!!」
「薫さん、大丈夫?」
「…………!?」
二人とも答えることもままならずそのまま暫く転がり続けていたという。
そのあと、すぐに愛は風呂釜業者を呼んで状況を説明したのだが、業者の方も、
「いや、そんな機能無いはずですが……」
と、しか答えられずに、そのことについては原因不明のまま有耶無耶にされた。
さざなみ寮のメンバーにとって幸運だったのは、その原因不明の爆発を初期不良として風呂釜業者が扱ってくれたことだろう。風呂釜業者としては変な噂を立てられたくはないし、さざなみ寮の住人たちも脛に傷を持つ者も多く、これ以上の詮索を嫌ったためと言える。風呂場関係の修理は運良くさざなみ寮は一銭も出さずにすんだのである。
例の紅いボタンにしても説明書を読んでも業者に聞いてもそんなものは無いという結論から、
「あれは神様がうちのために用意してくれた取って置きのボケやったんやなぁ〜」
と、一人で納得していたところを、
「そんなことあるかいっ(あるわけなかとです)!」
と、何故か息のあった真雪と薫のダブルハリセンクラッシュをゆうひが受けたと言うことだけ補記しておく。
(おしまい)