さくらの愛、永遠の愛
好きになった……。
人間を……。
ずっと、
ずっと前から、
私は人間が好きなんだ……。
いろいろ嫌な目にもあった。
好きじゃない人間もいっぱい居る。
でも、それは人間を嫌いになる理由にはならない。
一族の中にも嫌いな人は居るんだから。
たまたま好きになった人が一族以外の人間だっただけ。
私は後悔していない……。
私は今幸せだから。
「別れはどんな二人にだってある。人間同士でも、一族同士でも……」
私が尊敬していた人の言葉だ。
「問題は、片方がいつまでも若い事、そして残された方はその後も生きつづけると言うことだ」
その人はもう居ないが、私はこの言葉思い返すたび、その人がそれでも笑っていたことを思い出す。
……悲しさは沸かない。
ただ……透き通るような哀しみだけが満ちる。
「愛は永遠には続かない。だけど、愛は常に永遠なんだ……」
その人はいつも最後にそうなぞめいた言葉で話を止めた。
私はすぐにはその意味を理解できなかったものだ。
結局、その言葉の本当の意味がわかったのは、あの人が死んだ時だった。
「さくら、私はもう逝くよ……」
私は手を取り、ずっと首を振っていた。
「悲しまないでくれなんて、言わない。だけど、一つだけ贈りたい言葉がある」
「なに?」
泣き疲れてしゃがれたその声は、自分でもひどい声だと思った。
「さくら、私は一生君を愛し続けてきた。永遠の愛……いつか君は私に尋ねたことがあったね。私のそれは時として形を変え、弱りもし、強くもなった」
私が強く手を握り締めると、安心して続きを話しはじめた。
「確かに『生きている愛』だったよ。そして、今この瞬間、私は永遠に君を愛している」
あの人は私に静かに微笑みかけた。
「私はさくらに幸せになって欲しい。私がいなくなった後で、誰かが君の心を開くだろう。君が寄り添いたいと思う相手が現れるだろう」
そんな事考えたくなかった、その時の私には。
「その時は迷わないで欲しい。私と君のこの一瞬は永遠なのだから。誰にも侵す事の出来ない、真実なのだから」
私はもう、なにも言えずにただむせび泣いていた。
「だから君はその新しい恋人の手を取りなさい。私は君がそう生きてくれる事を望んでやまない……」
その数時間後、危篤に陥ったあの人はそのまま天に召された。
だから、私は今、とても安らかだ。
結局その後誰とも結婚する事は無かったが、私の周りには常に愛しい人々が居た。
そして、大勢の人々に囲まれ今、私は終焉を迎える。
永い永い時……私がこうまで幸せで居られたのは何故だったのだろうか。
くす……。
結構興味深い議題だな……。
私は、あの人との一生を思い返しながらどこにその秘訣があったのかと没頭し始める。
そのうち、大いなる眠りが私の意識を攫っていった……。
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