さくらの誕生日

 
 先輩が小さな花を咲かせている桜の鉢植えを差し出していた。
「なんですか? これ」
「……えーと、誕生日おめでとう、さくら」
「先輩? 今日は4月22日ですよ。私の誕生日、一月前に祝ってくれたばかりじゃないですか」
 なんだか、楽しかった想い出が少し色褪せたように感じて、つい語調が強くなってしまう。
 一体どうして……。
「さくらこの間の誕生日の時、最後に言ってたじゃない」
 え?
 最後……?
 
 
「先輩今日は本当にありがとうございました。とっても嬉しかったです」
「そうかな、何にも出来なかったような気がするけど。豪勢な食事とか、車で夜景見に行くとか……」
「そんなの、無くても、先輩が側にいてくれたから……これまでで一番幸せな誕生日」
「うー、さくら、本当に可愛い」
 ちゅ。
 抱きしめて、キスをしてくれる。
 嬉しいけど急に、それが不安になった。
「うん。ただ、ちょっとだけ」
「どうしたの?」
「幸せだったから少しだけ、誕生日は年をとるって事でもあるから、つい考えちゃう……」
「でも、さくらはずっと若いんじゃないの?」
「そうじゃない。逆。受け入れられると、思っているけど、ちょっと辛い。先輩が、私より早くいなくなっちゃうのが」
「さくら……」
「先輩がいなくなった後、私はまた先輩のいない誕生日を迎えるんだって、先輩と迎えた誕生日の何倍もの数、そうして過ごさないといけないって思うと……」
 言ってて、凄く恥ずかしい事言っているって気付いた。
「ごめんなさい、先輩。どうしようも無い事、最初から分かっていた事なのに、わがまま言ってしまって」
「わがままじゃないよ……やっぱり寂しいって思うのは、当然だよ。ごめんな、さくらの誕生日最後まで祝ってあげられなくて」
「ううん、先輩の気持ちだけで嬉しい。私やっぱり先輩を好きになってよかった」
「俺もさくらが好き」
 
 
「だから、俺ずっと考えたんだ。さくらの誕生日、最後まで祝ってあげたいって。でも、俺にはそこまで生きるのは絶対無理だし」
「それでどうして?」
「だから、毎月祝って、さくらが死ぬまでの誕生日、全部祝ってあげようと思った。今迎える誕生日だけじゃなくて、死んだ後過ごす誕生日を今祝っておけば、その時にも俺はいるんじゃないかって」
 先輩……。
「それ、なんか違う」
 でも嬉しくて、涙零れそうになってた。
「そうかなあ。良い案だと思ったんだけど。さくらに桜渡せるのも良いと思ったし」
「でも、先輩の気持ちは嬉しい。その鉢植え、ありがたく受け取ります」
「じゃあ、やっぱり毎年、精一杯楽しい誕生日にしよう。いなくなった後までさくらが笑えるような……」
「先輩……大好き」
「これからもいっぱい。さくらの寿命の分想い出作ろうな」
 
 
「でも、そうだったら、私も先輩の誕生日いっぱい祝ってあげないと」
「え、俺は良いよ。だって2ヶ月に一度は祝ってもらってるようなもんだし」
 2ヶ月に一度?
「なんですか?」
「さくらが、恥ずかしい姿を見せてくれるから」
 かあああああっ。
「先輩!」
 ちゅっ。
 真っ赤になったと思う私の頬に、先輩が微笑みながらキスをくれた。
 ……先輩が喜んでるなら、良いか。
 
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