Vol.4 調教
ターミナルの搭乗ロビーで待つYOUとテツローの前にCが現れた。
「待たせたな。なるべく人間らしく…という注文だったので新規のプログラムをいくつか入れておいた」
ICチップの入った指輪を渡す。
「詳細はこの中に…ああ、ついでにこれはマサのチョーカーに組み込んだメモリータグに連動してあるから、何処にいてもお互いにリンクしている」
指輪の使い方の説明を終えたCが「質問は?」と尋ねた。
「使い方は解ったが、そのリンクシステムというのをどういう時に使うのかが解らない。必要なモノなんですか?」
使う以前の問題だ──Cはテツローに目配せした。
ビギナーの扱いに慣れたテツローが、わかりやすく解説する。
「例えばお客さんが仕事に行ってる間マサちゃんはお留守番じゃない?その間物凄く寂しがるのよセクサドールって。何日も単体でほっとかれると自虐行為に走ったりするの。それだけご主人様との絆が深い証拠なんだけど、この指輪から専用パルスを飛ばしてやれば落ち着くわけ」
一人で留守番…確かにそうだ。
このまま連れ帰れば当然そういう毎日が訪れる。
休日と帰宅した後しか構ってやれない。
「これがあれば一人で大丈夫なんだな?」
テツローの目が光った。
「一人じゃないわ、単体よ。昨日から散々言ってるけどマスターは絶対人間扱いしたら駄目、呼称や言葉遣いにも注意して。あの仔の躯はヒトそのものだから周囲の人間は見分けがつかないの…当然、人間として接してくるでしょ?あなただけは何があってもクローン扱いするのよ、そうでないとマサちゃんも混乱して不幸なの」
「そう簡単に混乱するようなプログラムじゃないが、クローン扱いすることが基盤で成り立っている事だけはいつも頭の隅に…」
「わかった…で、マサは?」Cの言葉を遮った。
昨日の…マサとよく似た性奴の痴態が頭にある。
「向こうに待たせてある。その指輪で呼んでみろ」
「テストにはもってこいの場所よ、やってみて」
埋め込まれたムーンストーンを軽く擦った。
待つことしばし…
人気のないフロアーに走る足音が響いてきた。
ロビーのスモークガラスに華奢なシルエットが映る。
壊れかけたドアをすり抜けて、白いカッターシャツの青年が飛び込んできた。
YOUめがけて真っ直ぐに走り寄る。
いきなり飛びついてきた。
「うわ!」
腕に抱き付いて顔を押しつける。
いきなりの事に動転した。
「離れろ!」咄嗟に怒鳴る。
YOUの命令にビクッと躯を震わせ、飛び下がった。
叱られて震えている。
「そうそう、その調子。こっちが命令するまで勝手に主人の躯に触れさせては駄目よ」
テツローは一夜漬けで教え込んだ生徒の出来に満足そうだ。
「そろそろ搭乗ゲートに向かう時間ですよ」低い声がドアの向こうから聞こえた。
「あら?ボスが見送りに?前代未聞だわね」テツローはYOUにウィンクする。
「それだけ、このお客がVIPだってことさ」CはYOUに先に行くよう即した。
ロビーを出たYOUの足が異様な光景に立ち竦んだ。
ドアの向こうにGと…ターミナルのフロアーを埋め尽くす黒服の男達が群れていた。
肌の色も髪の色もそれぞれ違う…だが彼らに共通しているのはその鋭い眼光だった。
あの寂れた廃墟にこんなに大勢の人間がいたのか…
「YOUさんだ。これから俺達ファミリー最大のスポンサーになってくださる」
CはYOUの躯を前に押し出した。
男達が一斉に頭を垂れた。
だだっ広い、閑散としていたフロアーが人いきれに満ちていた。
「これでテラに帰ってもアンタ裏社会じゃ、ちょっとは知られた顔になる」ニヤリとCが笑った。
「俺達の情報は何処よりも早く正確なんだ」
だが、その眼は笑っていない…彼らと同じ…炯々と光っている。
「マサに手を差し出して」耳元でテツローが囁いた。
後ろで項垂れているマサに手を差し出す。
一瞬マサの顔が喜びにぱっと輝き、すぐにこちらの顔色を窺う怯えた表情に変わる。
やりすぎたかな──こんなにびくつくなんて…
仕方ない…こちらから手を繋いでやった。
おずおずとその手を握り返してきた。
「言葉で命じなくても調教次第で主人の動きに呼応することもできる。もっともそんな細かな芸のできる高性能なヤツは少ないんだが…」Cは先に立って歩き出した。
「こいつはセクサドール最新版だ。作者の俺にとっても最高傑作さ…大事にしてくれよ」別れの握手はマサに握られていない反対の手で受けた。
Gは無言で会釈した。
テツローはマサの頬をそっと撫でた。
「さよなら…可愛がってもらうのよ…」
何の問題もなく、自宅に戻ってきた。
マサを連れて…
太平洋シップベースからここまで、いくつもの身元チェックがある。
内心ドキドキしていたのだが、全く引っかからなかった。
チャンドラ・ヴァンシャのハッキングは完璧だった。
ソーマで登録された…つまり生まれたという事になっている偽造プロフィールでマサの身分は保証されている。
ターミナルを埋め尽くした黒服の男達…Gの組織を見くびっていた。
自分と年も変わらないように見えたGがボスとして束ねている組織など…なにせあのテツローが幹部なのだ、たいした事はあるまいと…クローンの横流しで利鞘を稼ぐ弱小組織だと高を括っていた。
とんでもない奴らだ──月宮でもTOPクラスの巨大シンジケートだ。
“最高のスポンサー…いや友人になって貰えそうだ”Gから贈られた銀のチョーカーがマサの首で輝いている。
大変な友人を持ってしまった。
家の中を説明しながらマサを連れて歩く。
マサは辺りを見回しながら、素直に付いてくる。
特にシャワーとトイレの使い方は念入りに教えねばならない。
“身だしなみと排泄はセクサドールの基本”とテツローに言われたからだ。
YOUがセクサドールに衣服着用を許したのは、自宅への人の出入りが煩雑なせいもある。
このビルは名義は自分だが建てたのは母親だった。
自宅とスタジオ、それに規模は小さいがレコーディングルームもある。
楽団事務所と直結したプライベート・オフィスも入っている。
関係者が打ち合わせやスコアの作成、音合わせなど毎日のようにやってくる。
普通の事務仕事ではない。
扱っているモノは“生の音”だ。
メールのやり取りで片づく代物ではない。
実際に顔をつきあわせ、それぞれの耳で聞き、判断していく。
まあ、仕事は出来る限り外で済ますようにしたとしても、メンテナンス会社からやってくる管理スタッフと家事労働を兼ねた清掃員…母親が雇っている家政婦がこちらにもやってくる。
ここで生活を共にする以上、存在を隠し通すのは最初から不可能だ。
隠すのはセクサドールであるという事だけでいい。
勿論、人が来れば奥に入るよう躾るが、顔を合わす時は…人間として振舞わせる。
多少の混乱はあるだろうが仕方がない。
主人である自分がクローン扱いすれば大丈夫…そうテツローも言っていた。
最後に寝室に行き着いた。
室内にもシャワールームとラバトリー、トイレが備わっている。
奥のクローゼットをかたづけてマサの専用スペースを作った。
セキュリティ会社直結のモニターカメラがOFFになっている事を確認し、マサに片手を差し伸べる。
そっと手を重ねてくる。
シップベースからずっと離れて歩くよう命令していた。
慣れぬ人混みをかき分け、人に突き飛ばされながら必死で付いてきた。
あの縋り付く視線が背中に絡みつくのを感じていた。
早く抱きたかった…
引き寄せて唇を奪った。
されるがままに舌を引き出され、吸われる。
「お前の名前は?」
「ま…さ…です…ご主人さま…」しっとりとした潤みを含んだ声だった。
ご主人様はまずい…人前で呼ばれたら困る。
「ご主人様をYOU様に言い換えろ」
YOUの腕に抱かれマサはうっとりと目を閉じている。
「はい…YOU様」
“月で拾った弟子志願の青年”という触れ込みにするつもりだ。
“YOU様”ではおかしいと思うのだが仕方がない。
まさか性奴に“先生”と呼ばせる訳にはいかない。
“使い分けが出来るほど発達した知能はない”とCも言っていた。
「よし、脱いで躯を見せろ」
白い頬がさっと紅潮した。
「服を着るのも脱ぐのも俺の言うとおりにしろ。勝手に脱ぎ着はするな」
明らかに狼狽している。
「どうした?」あの時と…ステンレスの台から起きあがった時と違う。
“そうか、これが羞恥のプログラムか”
こちらに背を向けてカッターシャツのボタンを外す。
肩を滑ってカーペットに落ちる。
テツローが見立てたというブラックレザーのパンツに指が掛かる。
脱ぎかけたところで手が止まった。
こちらの視線を感じて小刻みに震えている。
「マサ、全部脱げ」
その声でセクサドールは一気に下着までも落とし、肌を晒した。
美しい…息を呑んだ。
華奢な背中から腰のくびれ…本体が女性と頷ける。
いや、女性のように丸みを帯びていないぶん、臀部にかけてのラインはほっそりと、それでいて引き締まっている。
あの鞭を受けて仰け反る♀の…赤い打ち傷に彩られた背中を思い出す。
ズクン…MariaVで覚えた邪な性欲が頭を擡げた。
照明の光度を一杯に上げる。
「こっちを向け、手を後ろで組め」
顔を背けて唇を噛む──前を隠すことが禁じられ…それでも素直に従った。
臍に通されたシルバーのピアスが鈍く光を弾く。
Cの手術は完璧だった。
あの“入れ墨”の痕も、継ぎ足した皮膚との切れ目も全くわからない。
ごくり…喉が鳴った。
「俺の服を脱がせろ」
一瞬のためらいの後、近づいてきたマサの指がシャツのボタンを外した。
背中に回ると後ろから袖を引き、肩先から脱がせる。
前に戻ると、自分からひざまずいた。
ジッパーに指をかけて、ピッタリと仕立てられたパンツを降ろす。
セクサドールとして植え付けられた“記憶”が自然に次の行動を起こさせる。
最後の下着に手を掛けた所で動きが止まった。
勝手に動いてしまう躯にマサの羞恥心が戸惑っているのだ。
“百戦錬磨の男娼の記憶をもつ純情可憐な童貞なのよ。最初はこっちから誘導して、いいタイミングで命令してあげて。すぐに貴方の好みを覚えるわ”テツローの教えに従う。
「それを取って…仕えろ」
こちらを仰いだ顔が真っ赤になって歪んでいる。
今にも泣きそうだ。
こんな言い方で解るのか…そう思ったが“すっごくスケベな事一杯知ってるんだけど、躯は未体験だから…”というアドバイスを思い出す。
すでに先が濡れかけた男根にそっと触れる。
捧げるように両手に持ち、唇を近づける。
だが唇を開いたまま躊躇している。
熱い吐息がかかる。
「うっ」それだけで達きそうになる。
耐えた。「マサ、咥えろ…」
小刻みに震える唇に、すっぽりと呑み込まれた。
舌先を裏筋に当てながら、ゆっくりと上下に出し入れする。
右の指が男根の根本を握り、締めたり弛めたりを繰り返す。
左の指が陰嚢を揉み、時折、人差し指が肛門から会陰を擦った。
絶妙なテクニックだ。
こんな経験はしたことがない。
マサの肩を掴んで射精を堪える。
唇を這わせながら、じっとこちらを見上げている。
目に涙が浮かんでいた。
精神(こころ)と躯──どちらがどちらを裏切っているのか…
髪を握って喉奥深く突き立てた。
「飲め!」
最初はなんの抵抗もなく飲み干していたのだが、途中で咽せた。
唇から滴る精液がせわしなく上下する胸乳を汚している。
顎に手を掛けた。
乱れた黒髪の下を涙が伝う。
「今度粗相をしたら鞭だぞ」蹴り飛ばした。
「ぎゃ!」カーペットに倒れた。
慌てて起きあがると頭を擦りつけて平伏した。
「おゆるし…くださ…い…お…ゆるし…」
肩に赤い指の痕がくっきりと付いている。
「ヱネマシリンダーと浣腸液を作って持ってこい」
ぎょっとして身を竦める。
「これからは脱いだらすぐに持ってくるんだ」
そうすれば口腔性交をさせている間に効いてくる──時間の無駄がない。
のろのろと起きあがり自分の荷物として渡された鞄からシリンダーケースを取り出す。
鞄の中にはバイブや革手錠、ボールギャグなどの調教グッズと餌入れや水飲みといった飼育セット…それだけがマサの荷物だった。
濃縮されたグリセリンに合成剤を混ぜた薬瓶を持って、ふらつく足でラバトリーに消えていった。
YOUも鞄から鞭とブージー、薬剤セットを取り出す。
テツローがセレクトした薬剤セットの大部分は多種多様な催淫剤で、残りは潤滑剤だった。
最初から媚薬を使うつもりはない。
“ウブなのは最初だけだから、せいぜい楽しんで…躯がエクスタシー知ったら、そのうち自分から腰振りだすわよ”テツローの言わんとすることは解る。
そういう淫らなマサを見てみたい…とも思うが──それは調教が進んでからの楽しみに取っておく。
薬剤セットから白色ワセリンを抜いた。
当然これにも合成麻薬が配合されている。
肛門括約筋の神経を麻痺させる為だ。
勿論完全に麻痺させては締め付けと前立腺への刺激が抑えられるので、痛みを緩和させる程度までしか効かないようにできている。
“最初は痛がるだけで丸太抱いてるみたいかもしれないけど、それはお客さんが最初の男って証拠なんだから大目に見てやって”くれぐれも返品などしないでくれ──テツローは先に釘を刺した。
“どうしても早く快感を得たい時は催淫剤使って。でもそれってオーナーの調教テクニックがないって事よ”そうまで言われては仕方がない。
“高い買い物なんだから、じっくりと時間をかけて好みの性奴を創るの…調教の醍醐味を堪能しなきゃ勿体ないわよ”
高い買い物か…最初から言い値で購うつもりだったので気にはしていないが、Cは闇市で競り落とされた最高価格のおよそ30倍だと言った。
“セクサドール一体の取引でこれだけの金が動いたのは前代未聞だ”自分のボスが吹っ掛けたプライスに身内の彼もあきれ顔だった。
マサがベイズンに温湯で溶かしたグリセリン合成液を満たして現れた。
正座してシリンダーの入った箱を差し出す。
大小会わせて5種類のシリンダーが並んでいた。
最初だから…と思ったが30tや50tではすぐに効いてこないだろう。
500は懲罰用に使うとして、普段なら100か200…
「これに入れろ」YOUは200のシリンダーを指さした。
マサの喉がゴクリと鳴った。
自分の手でシリンダーに浣腸液を詰める。
手つきはぎこちないが、扱いは正確だ。
主人に差し出すと、後ろ向きになって頭を床に着けた。
腰を高く掲げる。
白磁の双丘が震えていた。
白色ワセリンを指につけると肛門の周りに塗る。
次に柔々と揉みほぐしながら序々に裡に入れる。
「あふっ」マサの腰がピクリと撥ねた。
指一本の所まで潤滑剤を塗り込めると一番細い拡張ブージーを入れてみる。
痛がりもせずあっさりと入った。
最初に傷を負わせては治るまで使えない。
場所が場所だけに排泄にも支障がある。
括約筋が鍛えられるまで当分注意が必要だった。
それだけはテツローにレクチャーされなくても知っていた。
経験者なのだから…無理矢理犯される辛さと、その後の惨事は味わった者しか解らない。
ワセリンに濡れ光るアヌスを見つめる目が一瞬、消し去りたい過去の思い出に陰った。
ブージーを抜いてシリンダーの先を入れる。
ゆっくりと中身を注入する。
「あひっ」白い背中が撓んだ。
200tの浣腸液を腸内に注がれアナルバルブで栓をされた。
上から見ても腹部が張り出したのが解る。
白い腹からグルグル…と音がする。
マサは俯せのまま躯を丸めて襲ってくる便意に耐えている。
躯中に噴き出す汗が白い肌を濡らし照明ライトを反射する。
YOUは脇に腰を下ろし愛奴の男根を擦っていた。
最初は萎縮したままだったが今は固く勃ちあがり、先走りの液がYOUの手をしたたり落ちてカーペットに染み込んでいく。
眉を寄せ、目を瞑ったまま唇を噛み締めていたマサの顔が仰け反った。
YOUの手を弾く勢いで男根がさらに屹立した。
手を離す。
「あ…」達く寸前で愛撫を止められ、閉じられていた瞳が開いた。
「もう一度教えた通り言ってみろ。今度閊えたらもう200入れるぞ」
髪を掴んで涙で汚れた顔をこちらに向ける。
虚ろな視線が彷徨う。
覚えが悪い、言い間違えた、淀みなく言えない…その度にYOUは下腹を押しつけ、アナルプラグを奥に突っ込む。
さらにベイズンに残っていた浣腸液をシリンダーで注入する。
すでに腹の中のグリセリンは500を越えていた。
腹痛と排泄感と快感だけが躯を支配している。
それでもマサは主人の命令に必死に従う。
「YOU様…マサにお情けを…ください…はしたない…躯ですが…精一杯勤めます…どうかト…イレに…行かせて…くだ…さい…」
散々復誦させた言葉だ。
悶えながら、それでも何とか言い切った。
「いいだろう。出してこい」その足にマサが接吻した。
立ち上がりかけて膝を付いた。
這いずって進んでいく。
ハアハアと荒い息が室内に響く。
“最初にしてはやりすぎたか…”殆どカラになったベイズンを見る。
シャワールームに入る。
鞭の次は飴か…“出来たら必ず褒めるのよ、ご褒美をあげるの。褒めて貰いたくて懸命に尽くすようになるから”
ちょっとした事でいい、モノを与えるのは癖になるからダメ──テツローの指示は簡単なようで結構難しい、頭を使う。
「マサ、来い」
トイレからよろめきながらマサが出てきた。
まだ足がふらついている。
「あっ」その躯を抱え上げた。
シャワーの真下に降ろす。
腰から崩れ落ちた。
何をされるのかと怯えているマサの上にボディソープが注がれた。
「よく我慢したな、洗ってやる」
YOUの手が身体中を這い回る。
グリセリンの中には媚薬とまではいかないが…興奮剤が調合されている。
それが腸壁から吸収され、マサの肌を敏感にしていた。
「あん…あ…う…」
僅かに触れても反応してしまうのに、ボディソープを塗りたくられた躯を容赦なく擦られ失神寸前まで追い込まれた。
“だいぶ慣れてきたな”YOUは足首を持つと、力を失った両脚を大きく割り開いた。
マサの躯はビクビクと震え、なすがままに翻弄される。
ヌルッ…柔らかくなったアヌスに指が差し込まれた。
「あふぅ…」痛みではない…艶めかしい吐息を漏らす。
さっき途中で止められた快楽が再び襲ってくる。
それを即すように主人の手が勃ち上がりかけた男根に伸びた。
もうこれ以上の刺激には耐えられない…
「お許し…」思わず陰部を手で覆った。
「ぎゃあああ!」上から熱湯が降ってきた。
白い肌がみるみる真っ赤に染まる。
「甘い顔をすればつけあがる。今度拒んだら手錠で繋ぐぞ」
シャワーを止め、バスタオルを投げつける。「躯を拭いてベッドにこい」
白い背中が赤く火照っている。
押し倒そうとしたが悲鳴を上げて躯を反転させた。
痛みで抗うかと思ったが、逃げない…俯せのまま目に涙をためてこちらを見ている。
カッとして、ついシャワーの温度をMaxにしてしまった。
「痛いか?」後悔する。
“調教するって興奮するし楽しいけど、冷静にやって。責めすぎるとキズモノになって使いモノにならなくなっちゃうから”今更ながらにテツローの注意は的確だと思う。
「おいで」つい優しい声になる。
躯を擦り寄せてきた。
“まあセクサドールなんて使い捨てだから責め殺すのが目的で買うお客のも居るけどね、お客さんはそんなつもり無いんでしょ?”それにこちらの胸の内も心得ている、本当に凄腕の接待係兼コーチだ。
顔を仰向かせて唇をついばみ、胸の突起に指を這わせる。
“何か問題が起きたらマニュアルを見て。初心者オーナーが陥る失敗の対処法が色々載ってるから”──そうだった…
固くしこった乳首を摘みながら、ベッドサイドでマニュアルを起動させる。
《スパンキングしすぎて背中の皮が剥がれた》──ああ、なるほどね…よく似たケースが載っている。
取り敢えず回答通りにやってみる──
「マサ、上に乗れ。自分で納めてみろ」
「失礼…します…」直ぐに言葉が出た。
こちらの胸に手を置いて躯を支え、腰を跨ぐ。
「精を…頂戴します…」これもプログラミングされた台詞だ。
こちらの男根を擦りながら自らの肛門に導く。
腰を落としかけてビクッと震えた。
呑み込めない…顔が歪んでいる。
「どうした?」大きく割り開いた膝が震え、白い太腿の間で勃ちかけた男根が勢いを失っている。
「いえ…」こんなはずじゃない、自分は後ろで達くように躾られた躯なのだ。
もう、ずっと…こうして主人に仕えているはず…なのに痛みが襲う──躯が受け付けない。
もう、ずっと…でもここは初めての部屋…もう、ずっと?
マサの頭は混乱する。
カリ首の先が入った所で動きが止まった。
“またか…”
焦れたYOUの手がマサの腰を掴んだ。
「余計な事は考えるな」
一気に下から貫いた。
「ひいいいい!」仰け反った。
合成ワセリンの効果と浣腸で肛門内が緩んだおかげで傷つくことなく奥まで挿入できた。
YOUの腰がゆっくりとせり上がり、落ちる。
薬が効いている──それでも初めての異物を迎え入れた排泄器官に痛みが襲う。
「あ、いや…うごかないで…あ…」
抽送されるたびに圧迫感で下腹部が破裂しそうだ。
「痛い!痛いよ」主人の眼前に全てを曝し、顔を打ち振る。
だが頭の何処かで“これでいい”と声がする。
これでいいんだ…ほら気持ちいい…
“可愛がってもらうのよ”──あれは誰の声だったろう?
抜き差しするYOUのカサがマサの啼き所を捕らえた。
「あん…」声が艶めいた。
屹立した男根から先走りの液が溢れる。
自分の手で擦った。
「YOU様…」押し寄せる波の中で恋しい名を呼んだ。
「感じるか?」
「はい…達っちゃい…ます…」セクサドールの規定通り“絶頂を迎えた”と主人に申告する。
「マサ、達ってもいいぞ」
マサ──主人に名を呼ばれると躯が震える。
主人のモノを躯に納めている。
やがて裡に注がれる。
自分だけが愛されている…
「ああ!YOU様!」折檻された背中の痛みまでもが快感に変わる。
YOUの腹にマサの精が飛び散った。
同時にYOUもマサの中に射精した。
「お慕い…もうしております…」主人の男根を舌で清めながら呟く。
植え付けられた台詞に初めて心が乗った。
怯えの表情は消えた。
満ち足りた思いに浸りながら、中に残る精液を吸い出す。
唇を放し、そっと頬擦りする。
これに生涯仕えるのだと誓う。
記憶と躯が一体化した瞬間だった。
もう混乱は起きない。
“愛しい方…”仰臥したままの主人を見る目が潤んでいる。
「シャワーを浴びたら寝ろ」指さしたクローゼットの隅にキルトマットとブランケットが置いてある。
「はい…」
立ち上がったマサの太腿を鮮血の混じった精液がしたたり落ちた。
YOUが“初めて”という証だった。
背中の火傷は火膨れにはなっていないが、赤みが酷くなっている。
“明日は服を着せるのは可哀想だな”
“こっちが外で仕事すればいい。二、三日…いやマサがこの生活に慣れるまで、誰も家に入れないようにしよう”
クローン相手に気が咎めるなんて──テツローが知ればYOUの不甲斐なさに憤慨するだろう。
躯を重ねたクローンに人間に対する時と同じ感情が芽生えた事をYOU自身は気付かない。
シャワールームから響いていた水音が止んだ。
マニュアルで最初の性交後の処置を確認しようとしたが…旅の疲れとマサの調教に疲れた身体に睡魔が襲った。
“明日でいい…”PCを切る。
こちらに平伏した後、マットに横たわったマサを眺めながらYOUは深い眠りに落ちていった。
Vol.4 調教 fin