巻之八

あー、携帯鳴ってる…誰だよ?こっちはクタクタなのに…

レコーディングから休む間もなくライブツァー。

移動の間にはレコード店で、インストア・イベント。

地方では付いてきてくれるスタッフの数も限られるから、何から何まで一人でこなさなければならなかった。

Gacktのサポートメンバーでいたら絶対にできない経験だ。

そんなツァーも昨日の六本木にあるライブハウスでファイナル・ギグして、何とか無事に終える事ができた。

スタッフ、関係者揃っての打ち上げから帰ってきたのが──何時だったっけ?

もう外は完全に明るくて、通勤通学の人でけっこう道が混んでたなぁ。

心地よい達成感と疲労、気怠い酔い──ちょっと熱めのシャワー浴びて、ベッドに潜り込んで…

寝たと思ったら着信音が鳴り出した。

全く、もう…

のろのろと腕を伸ばし、携帯を掴む。

着信表示は…Ren?

慌てて出る。

「あ〜、masa今ひまー?」

「暇って…何か用なの?」

「いやー、久しぶりに飲まん?Youも来てるんだ」

「飲ま…って昼間から?」

「何言うてんの?もう夜7時過ぎとるで、夕飯兼ねてどう?」

「ええっ?」

慌ててカーテンを開ける。

窓の外は夜…だった。

部屋が明るいのはレースのカーテンを通して差し込む月光のせい?

そういや、身体が軽い…けっこうすっきりしてる。

爆睡しちゃったのか。

「Monkeyもさぁ、会いたいって──masa聞いてる?」

Renの声は屈託がない。

久しぶりに聞いたな…

会いたくなった。

「うん…じゃあ行こうかな…どこ?ああ、いつもの店だね」

電話を切って何気なく鏡を見る。

思ったより疲れた顔はしていない。

少しツアー痩せしたかなぁ…

鏡に近づく。

Youもいるって言ってたよね…

そういえば、あのドレッドどうしたかな…この前はいきなりだったんで、会った途端思いっきり笑っちゃったけど。

ああ、そうだYouに聞いてみよう、僕のギターの音…

大ちゃんに“masaの音って、跳ねるよね”って言われたんだ。

「どうなのかな?」

鏡に映る自分に問いかける。

鏡の中でオツヒコは笑う。

“それは人外の腕…仕方あるまい”

開けた窓から煌々と輝く月が見える。

Gackちゃん、どうしてるかな?

幾たび出会い、そして別れ、再び出会い…それでもヒトの世に在れば、この想いはいつか届くのだろうか?

“…神に時はない故の…”

たとえ儚い想いでも途切れずに伝えていけば、かの君にも、いつか…

潮の八百重(やおへ)を巡り、遙か海原の果てまで…

そうして今夜も波は歌う、月は囁く。

…むかしむかし、この辺りに紅い髪の童と、色白の美しい童がおったそうな…

                                                                  巻之八 完

                             GhostHunterG外伝 本朝白蛇伝 完

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あとがき

何とか本編U(神霊招く)を世に出す前にUPできました。

彼らの正体はこの本編Uの『あとがき』にかなり詳しく書きましたので、ここでは省かせて頂きます。

では、この『本朝白蛇伝』独自の事柄を若干付け加えます。

ヌカヒメ伝承(常陸風土記)は神蛇と交わり子蛇を産んで育てる蛇巫のお話です、三輪大物主の箸墓伝説とよく似ています─というか出自は一緒のような気がします。
美麗(うるは)しき三輪山の蛇神は古代大和朝では大王家の守護神でした。
敏達紀には捕虜となった蝦夷の首長を(三輪山の麓を流れる)初瀬川で禊させ三輪山に向かって大和朝廷に服従を誓わせたという記述が残っています。

斐伊川は八岐大蛇の血で真っ赤に染まったとされる川で、出雲簸川のことです。

諏訪の土着神“洩矢神”は出雲から進出してきた明神と争い、敗北して服従します。
この出雲族から選ばれた憑坐が大祝(現在は八才の童男、つまり現人神です)となって明神を降ろし託宣するのですが、実際は土着民守矢氏の降ろすミシャグチ神が憑きます。
託宣する依代が征服民となっただけで、入巫(にゅうぶ)する神官は変わらない…だから降りてくる神様は変わらない訳です。
このミシャグチ神は洩矢神が名前を変えた神と言われておりますが、どのような神様か、はっきり分かっていません。
資料によれば石と樹の精霊信仰で発祥は縄文中期…物凄く古い神様です。
ですから伝承も変容したり、途絶えたり(征服民によって意図して捻曲げられたり抹消されたり)は仕方ありません。

三つの分家は、これらの蛇神と因縁浅からぬ川と祀人の名を拝借しました。

ちなみに建御名方命の妃神の八坂刀売神(やさかとめのかみ)は海神の娘、つまり海の女神様です。

神送神事は出雲佐太神社で十一月二十五日に行われていた祭で、祭りの後には出雲のどこかの浜に海神の使いとして海蛇が上がると言われています。現在は神有祭となっています。
同じく出雲三大社の一つ日御碕神社の神事にも神官が祭日の決まった時刻に浜辺で待っていると海から藻に乗った子蛇が寄りつくという記事が“耳袋”に記されています。どちらもこの物語のような祭礼ではありません。
当たり前だと思うのですが、一応お断りしておきます。

この佐太神社の御神体は檜扇、神紋も扇地紙紋で、蒲葵が扇の祖という説に習って蒲葵主なる者を登場させました。
因幡白兎のお助けアイテムとしても“蒲の穂”が出てきますし古代では神聖な物だったのではないか…と思いまして。但し蒲葵樹(ヤシ科)と蒲(ガマ科)は全然違う植物です。

もう殆ど私の妄想の産物なので質問とかされても、これ以上はお答えできませんので…あしからず。

あ〜、あと沙竭羅の竜宮城は牛頭大王の妻、頗梨采女(はりさいにょorばりさめ)の実家です…くらいな所でしょうか。
(牛頭大王&頗梨采女の事も『本編Uあとがき』に載せましたので、気になる方はそちらを御覧ください。都牟刈太刀も簡単にですが書いてあります)

この物語は八篇の巻に分けようと思い書き始めたのですが、かなり四苦八苦…一応(八篇に)収める事ができました。

まあ、大した訳ではないのです。

八咫鏡、八尺瓊勾玉、八握剣、八俣大蛇、八雲立つ出雲八重垣──

この番外編に関係あるアイテム&キャラ&ステージで“八”のつくモノをおもいつくまま、ざっと挙げてみたのですが、けっこう有名なモノばかりですよね。
で“八”にこだわっただけです。←くだらないでしょ?ホント大したことなくて、すみません。

今回、大元になったネタは大ちゃん(奥村 大)が自分のHPのDiaryだったかSpikyの会報だったかで“masaのギターは音が跳ねる”と評した記事からです。だったらmasaの腕が千手観音並にあったらおもしろいんじゃなかろうかと…(笑)

今年は奇しくも六年に一度の『御柱祭り』、さらに二年続きで『御神渡り』がありました。
ついでに言うと五月五日(端午の節句ですね)は三年ぶりの月蝕です。

そんなこんなで終わる訳ですが、本編ともども感想お待ちしております。

                                            書・U・記/拝

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