カナリヤ





「俺のドコが一番好き?」
 そう聞いたのは夜もだいぶ更けた頃。
 コイビトドウシの時間帯。
「カカシさんの声が好きです」
 思ったよりも早く返ってきた貴方の答え。
「とても良い声をしているから、いつまでも聞いていたくなります」
 耳まで赤くしながらも、きちんと俺を見つめて言ってくれました。


 その時は俺の良い所をちゃんと言ってくれたのが本当に嬉しかったのに。
 今になって急に不安になってしまいました。
 声だけですか?
 声以外に貴方が俺を好きになってくれる所は無いんですか?
「カカシさんの全部が好きです」
 あの時、そう言ってくれたら良かったのに。





 捻じくれた根性の俺はすっかり拗ねてしまって、イルカと一緒の部屋で同じ時間を過ごしていても、必要最低限以外の言葉は喋らなくなってしまった。
 イルカも始めは不思議そうな顔をしてこちらの様子を窺っていたが、今ではすっかり当たり前のようにしていつも通りに寛いでいる。
 畜生、俺ノ声シカ好キニナッテクレナイナンテヒドイ。
 モッタイナイカラ、声ナンテ聞カセテナンカアゲナイ。


 テレビの音しか聞こえない部屋。
 分かりきっていた事だったのに、根性無しでもある俺は幾日もかからないうちに後悔し始めるようになった。
 イルカだってこちらが無視するのに、何時までも根気良く話しかけてくれる訳じゃない。すぐにお互いに会話が無くなるのは当たり前な話だ。
 虫が良すぎるのは分かってはいるが、イルカの声が聞こえないのはすごく淋しい。
 俺はイルカの声だって何だって全部が好きなのに。
 そりゃあ、長い時間一緒に過ごしてれば、ほんの小さな嫌な事ぐらい簡単に見つかるけれど、ひっくるめて見ればやっぱり全部が愛しい。
 けれどイルカの方はそうではないのだろうか。
 声以外にイルカが好きになってくれる要素は一つも無いのだろうか。
 声が好きだから、他の嫌な所は全部目を瞑ってくれているのだろうか。
 だったら声なんて出し惜しみしないで、いくらでも聞かせてあげた方が良いに決まっている。
 早いとこ謝った方が良いのかもしれない。
 カカシが話しかけようと口を開いても、もうその頃には言葉が魚の小骨のように咽喉に引っ掛かり、取り繕ったような咳払いしか出なくなっていた。
 なんて話をしたらいいか分からない。
 カカシはこっそりとイルカの顔を窺った。カカシの事なんてまるで気に掛けていないような顔でテレビを見てお茶を飲んでいる。
 もう飽きられちゃったのかな。
 歌を忘れたカナリヤにでもなった気分だった。





 朝、起きたら声が出なくなっていた。
 咽喉が痛い。
 まるでそこに金だわしを突っ込まれて無数に傷を付けられているように痛んだ。
 痛みに耐えかねてしきりに咳をしていたら、イルカが咽喉の中を見てくれた。
「咽喉の所が真っ赤ですよ」
 風邪みたいですね、顔も少し赤いから熱を測りましょう。そう言ってイルカは体温計を探しに席を立った。
 昨日感じた咽喉の引っ掛かりは風邪のせいだったのか。
 そう納得させてみても、カカシにはこれが天罰だとしか思えなかった。
 イルカの気持ちを試すような真似をして、神様に本当に歌を忘れたカナリヤにされてしまったのだと。
「スミマセン、イルカ先生」
「……あまり喋らない方が良いですよ。咽喉の治りが遅くなりますからね」
 掠れた声で精一杯謝ったのに、イルカから返ってきた言葉はひどくそっけなく冷たく感じた。
 やっぱりカナリヤは捨てられちゃうのかな。


「38度3分」
 今日はお休みですね、と言ったイルカは予想に反して嘘みたいに優しかった。
 カカシが無視していたことなど無かったかのように看病してくれる。
 熱を測り終えたカカシの額に頬を当てた後、軽くキスまでしてくれた。
「やっぱり熱いですね」
 久しぶりのイルカからのスキンシップに少し赤くなっていると、悪戯っぽく微笑まれた。
「ウチの母親の測り方なんです、今の。よく言われましたよ、“こういう時じゃなきゃ、恥ずかしがってキスさせてくれないでしょう”って」
 その言葉を聞いた時、本当にイルカの愛情が感じられた。まるでナルト位の小さな子供にでもなった気分だったが幸せだった。
「早く治して下さいね。カカシさんの声が聞けないと淋しいですから」
 声の事を言われても、もう下手な心配はしなかった。
 だってカナリヤは捨てられても子供は捨てたりはしないものでしょう?


 そうしてすっかりとこの声が治ったら。
 とびきりのイイ声でイルカの耳に囁いてみよう。
「俺の全部を好きになって」






お待たせ致しました。
108(煩悩の数)hitを踏まれたこはな嬢に捧げます。
こんな短文書くのにやたらと時間を掛けてしまって、えろうスンマセン。

お題は「カカシのセクシーヴォイスにメロメロなイルカ」、の筈が大分かけ離れてます。
全然メロメロじゃないですね、このイルカ先生。
もちろん、声以外もちゃんと好きだと思いますよ(多分…)。
おかん中忍に子供扱いされて喜ぶ上忍……それでいいのか?



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