ショートストーリー3
『出発』の続き 〜台詞〜
稽古場の田中邦衛さんは本当に真面目な方で、『ヒモのはなし2』では根岸さんとともに軽くタップを踏む場面がありまして、休憩時間中も一人タップの練習をしておられました。・・以上、ごくあっさりクニさん話を終えまして、今回は記憶に残る、いくつかの台詞です。
主婦は主婦一般を主婦していろ!
『出発』で長男(風間杜夫)が妻(井上加奈子)に向かって言い放つ言葉です。当時、私はまだ主婦ではありませんでしたし、特に主婦に興味があったわけではありませんが、忘れがたい台詞でした。人の記憶のメカニズムについて専門知識を持ち合わせていませんが、なぜか人は重要ではない事柄をよく憶えていたりする、と強く思います。
この台詞はいろいろ応用がききます。「主婦」をほかの言葉に置き換えてみますと、たとえば「学生は学生一般を学生していろ!」とか「老人は老人一般を老人していろ!」、さらにペットに向かっても「犬は犬一般を犬していろ!」と命令できます。また「政治家は政治一般を政治していろ」では胡散臭く、「社長は社長一般を社長していろ」では下心の存在を感じます。
だから「主婦」がいちばん面白い。主婦という職業のアイマイさ。夫が劣勢に立ったとき、伝家の宝刀的に理不尽に叫ぶと、空虚にして有無を言わせぬ迫力があります。じゃあ主婦って何さ、根元的な問いかけを提起しつつ、いくばくかの愛情すら私は感じたものでした。あまりに瑣末な事柄に入り込んでしまったとき、突然一般論を横暴に投げ込むわけで、その文脈の反則技が生む異化効果で、そのリズムのよさに笑いを誘われます。
言っていいことと、いけないことの判断能力を、常識っていうんだよ!
これも決め台詞。相手が明らかに言い過ぎたと思われたときに、憤然と言い放つのであります。「能力=常識」という図式は、厳密に言えばネジれていますが、これも大声で言いきることで反論を封じます。「言っていいことと悪いことがあるわよ」とネチネチ責め立てたいところを一刀両断です。「常識」に欠けることは大いに恥ずかしいことでしたから。いまはどうでしょうか。「ジョーシキ」とカタカナにされているのを見るにつけ、常識への敬意は風前の灯火という気がします。常識が無くたって恥ずかしくない、常識なんて大したことじゃないのだ、おそらく。
人それぞれ、おのれの役割を演ずることに必死になっていて、役割をまっとうすることに価値がありました。過剰なまでの「役」への没頭ぶりが哀しくも可笑しいわけです。没頭するにしても、そうした姿を傍らで眺めるにしても、常識という共通項が無ければ了解されません。もう、こういう手法は古いのかと思わざるを得ない昨今であります。
化粧をしないのはルール違反だ
これもエッセイの中で、つか氏が書いていました。誰でもいきなり「役」を獲得できるわけではない。「役」に自分を近づけるにしろ、「役」を自分に引き寄せるにしろ、試行錯誤、それなりの努力がいるわけで、「役」を身につけても、それを維持するための努力がまた必要です。職業としての役者だけじゃなく、日常の中で人は何かを演じています。化粧をすることは役づくりのことだと私は考えました。「天性の役者」というのは、無意識に役づくりできる人を指すのだと思います。
『出発』はホームドラマです。劇的になりそうにない状況をいかにドラマチックな位置に高めていくか、登場人物はみんな一生懸命です。
一生懸命なんてね、人として生きる最低限のことなんだよ
一生懸命であることが免罪符にはならない。一生懸命に生きるのは、あたりまえのことだと舞台は主張します。人のいいお父さん(田中邦衛)は家出までして、親父の威厳を保つのです。哀愁のお父さんがひとり舞台の中央にたたずめば、あとは装置も小道具も何も要りません。そこには、ただただ一生懸命な姿がありました。大それたことをしでかすことを求めてはいません。小さなことの積み重ねでいいのです。小さなことを大事にしさえすれば。一人旅のささやかなエピソードをしみじみ語るお父さんは、十分お父さんの役割を満たして、大きな愛しい存在でした。
さあ今回はどうしましょうか。「台詞」でしたが、台詞だけじゃ収拾つきません。で逆に台詞のないものをということで、すなわち好きなサイレント映画です。無理矢理だな。
『キートン大列車強盗』(1926年アメリカ)
実に80年前の映画です。私は70年代の半ば「ハロー!キートン」シリーズとして上映されたものを見ました。「ビバ!チャップリン」シリーズが興行的に成功したので、3大喜劇王が取り上げられましたが、キートンはあまりヒットしなかったみたいです。
というのは当時、私は(たしか)新橋の試写室でキートン映画を見る機会がありましたが、これが試写されたもののすぐに一般公開はされませんでした。無声映画でドイツ語字幕(当然私はドイツ語わかりません)というオニのような試写会でしたが、それでも映画の面白さは十分わかりました。説明抜きのため、映画はまさしく活劇そのものでした。
バスター・キートンはストーンフェイスで取っつきにくい印象がありますが、そのアクションたるや凄まじいの一語に尽きます。ちょうど私はウエットなものが好きでない時期で、チャップリンよりもキートンのほうがはるかに好きでした。
調べると、最近DVDが出ています。幸せなことです。ちょっとラインナップ並べてみます。
『キートンの探偵学入門』『キートン将軍』『荒武者キートン』『キートンの馬鹿息子』『キートン半殺し』
なかなか愛すべきタイトル群であります。
2005/01/29
よろしかったでしょうか
どうも.。きのう久しぶりに郵便局に行ったら、『あらー○○さん、しばらく見えませんでしたねー、どうしたのかと思ってましたよー』と局員さんに声をかけられました。はい、自他ともにヒマジンと認める落花生です。
最近気になる言葉といえば、『〜でよろしかったでしょうか』というフレーズです。電話がかかってきていきなり『○○さんでよろしかったでしょうか?』と当たり前のように、ときにたどたどしく確認してきます。なぜ『○○さんですか?』とシンプルに、あるいは『○○さんのお宅ですか?』と古典的に訊ねないのか。そんなに自信がないのか。人は内容に自信がないとき、ことさらバカていねいな表現をとるのです。なにか下心があるのか。いまはそれが丁重な態度だと定着しているのか。「あいあい○○さんでよろしかったですよ〜」と親しい人に対してだったらフザケるところですが、だいたいが知らない人なので「ええ…」とテンション低く答えます。
先週の朝のことでした。家族が出かけ、朝ごはんも食べて、さあ寝よう!と自称夜行性レス職人落花生の、うしろ指さされ生活でありますが、そんな早朝、電話が鳴りました。
『○○さんでよろしかったでしょうか?』
さわやかで元気いっぱいの若い男性の声。なんだよ、朝っぱらからセールス電話か・・。
「はあ…」
ボケおばばモード突入の返答をかまします。ま、ホントに眠いのですよ。
『こちら○○駅前派出所の者ですが、実はお宅の○○くんが…』
とたん眠気ふっとびました。新手のオレオレ振り込め振り込まんかいワレ詐欺かも、という思いも若干よぎりましたが、こんな早朝、まだ銀行もあいていない時間、それはないわな。
「ええ!なんですって!!」
交番のおまわりさんから電話!うちの子が!思えば何かしでかす気配があまりにも希薄なため、かえって心配がつのる子でありました。
息子のポンスケ(仮名)は今年成人式でした。人生に一度きりの華やかなカドデです。よおし、成人式で暴れて来い!暴れてこその新成人だ!思う存分荒らせ!若いエネルギーを爆発させろ!燃やせ!・・しかし結局成人式は欠席しました。ワルにはなれない宿命の善人であるがゆえ・・では決してありません。日にちを間違えておりまして、気づいたら地元の成人式は終了していました。なんて間抜けな子、なんて間抜けな親。親子で成人式の日を間違えていたのでした。だって1月15日でしょう成人の日は昔から!なんだよ1月10日って。式典が1月9日って誰が知るか!・・あとでよく見たら、通知のハガキに日時はしっかり明記されていました。・・1月11日のお汁粉の日を忘れることはない母です。
駅前交番の二人のおまわりさんは「こち亀」の、バイクをおりた本田さんと寺井さんを足して2で割ったような素朴で親切な方々でした。
財布と定期券とケータイを忘れたからって交番に飛び込むポンスケって・・。またタクシーとばして届けに行くポンスケ母(私)って・・。こんなんでよろしかったでしょうか。
2005/02/10
『いつも心に太陽を』 〜コンビ〜
書き始めるキッカケは何でもいいのですが、いつも書き出しでグズグズしています。今度トップをどの壁紙にしようかとか、色の組み合わせはどうしようかとか、後回しにしてもいいようなことを延々試し続けた挙げ句、ふと書く気になります。
1979年2月、渋谷パルコ劇場。平田満ひとり会。ひとり会ですが、何人も出演しています。とにかく平田さんで何かやろうというのがキッカケでした。そして相手役に風間杜夫。この二人で何をしたら面白いか。女はほとんど出てきません。ですから結果、ホモ芝居となりました。水泳選手の風間さんと、彼を支える平田さんの愛の物語です。
稽古場は、取り壊される寸前の古い建物の2階か3階だったと記憶しています。劇場の裏だったから、その跡にパルコパート3ができたんじゃないのかなと思います。
あなたたちは、いつも心に太陽をもって、生きていきなさい
芝居の序盤で、ほぼ全裸に近い姿の平田さんが、学校の教師として、生徒たちに力強く説く言葉です。きれいで前向きな台詞ですが、登場する男どもはもうほんとに気持ち悪い。ウリセンの重松さんは濃いヒゲをたくわえ、バーのママの石丸くんは着物がお似合い。こいつら、ごっつい逞しい肉体の連中が、心の奥深いヒダを露わにしてくれました。
男2人組というのは、とても魅力的な存在です。どうしてこんなに心ときめかされるものなのか。私が女だから、絶対に手の届かないものだから、安心して夢中になれるのかなあと漠然と思っています。映画でも男2人組は大好きです。1970年代、アメリカの刑事アクションものが数多くあり、見る機会も多かったわけですが、だいたい男2人、コンビで活躍します。グッとくるところは、湿っぽくない友情。刑事は職業上の関係ですから、文句言いながら仕方なく行動を共にするわけです。でも時折、言葉にしないキズナが垣間見えて、そこが大変よろしい。
話、飛びますけど、たとえばテレビ番組のヒッチハイクの2人組は、私にとっては娯楽アクションムービーの面白さでした。感動というより快感。感動というと、大げさで生真面目で重かったりします。だけど、彼らは気持ちよく爽やかでした。
モリオとミツルは、ホモ関係ですから、いわゆる「相棒」的おもしろさとは異なります。でも、つかさんは狙っていたであろうが、妖しい隠微な感じが醸しだせない。愚鈍なまでにストレートなミツルと、誰にでも調子のいいモリオ。この2人の関係をとことん突き詰めていって、互いの真情が露呈して、最後は別れです。チャラチャラ軽やかに去っていくモリオが快感です。残されたミツルの、妥協のない不器用な姿は、感動でした。
さて、推理小説の名コンビといえば、ホームズ氏とワトソン博士です。
シャーロック・ホームズの冒険(コナン・ドイル)
私は小学生のとき初めて読んで、男2人組の魅力に目ざめました。なにがいいって、ホームズが相棒のワトソンを馬鹿にするところ。馬鹿にされながらもワトソンが、ホームズの天才ぶりを手放しで賛美するところ。「初歩だよ、ワトソンくん」誉められて少し赤くなってるであろうホームズを想像すると、たまりません。もうエクスタシーです。
2005/03/16
花の名前
知る人ぞ知る気鋭のライター「でいたん」氏のブログ、毎日楽しみにしているのですが、先月見て以来、気になっていたのが「豆乳花」。豆乳デザートですね。先週遠出した際コンビニで発見。キャッと飛びついて買いました。
で帰宅して即、賞味。これがデカいんだわ。ミニカップ麺ぐらいある。ひとりで食べきれるかなと思いながら、カップに豆乳プリンと黒蜜を開けてグチャグチャかき混ぜます。ちょうど居合わせた息子のポンスケ改めガンダムスコ(仮名)がこのグチャグチャ状態を目撃して、いわく「愛のエプロンで○○が作る料理みたい」。なんという不穏当発言。ふん。ヒタイにシワ寄せることもなく完食してやりました。うまかった。あと味がいい。先割れスプーンはね、きっとプルンプルン豆乳がスベラないように、ってことだと思います。
Asian Dessertですから「トールーファ」って読むんですね。柔軟剤みたい。豆乳花は「とうにゅうか」でしょ。水中花は「すいちゅうか」だもの。百歩譲って「まめちちばな」。どんな花だ。そんな花があったら見てみたいもんです。
野に咲く花の名前は知らない だけども野に咲く花が好き
70年代フォークですね。ほんとに花は好きですけど、花の名前を知りません。あんまり花に興味がない証拠かもしれません。花は移ろいゆくものだから、そのときどきだけに集中していたい。チューリップやヒマワリは大丈夫ですが、種類によっちゃバラとキクを間違えます。
先日、日記に庭の木について書こうとしたとき、この木の名前があやふやなんで調べました。一部で「沈丁花」という説があり、それにしちゃ匂いがあまり強くない。どうも違う気がする。
十年前、いま住んでいるこの中古住宅に引っ越して来たとき、庭に「白樺」がありました。前の住人のこだわりなのでしょうが、この温暖な房総平野に白樺はマッチしません。軽井沢あたりでマフラー巻いて微笑んだりする背景に似合う木でしょう、白樺って。庭の白樺はそりゃあよく育っていましたよ。雨樋を完膚無きまでにふさいでいてくれました。わあっこんなとこにシラカバが!という意外なヨロコビが、これヤバイよヤバイよというデガワ的シラバカ境地に変わるのに時間はかかりませんでした。
植木屋さんに頼んで、白樺撤去、他の何か適当な木をオマカセでミツクロッて植えてもらいました。その際、たしかに木の名前を聞いたハズなんですが、ほどなく失念。家族間では「庭の木」と呼ばれ愛されています。ニワトリは庭にいる鳥だから、庭にある木はニワノキでしょう。
春に白い花を咲かせる庭木。モクレンとかカタクリ。ニリンソウ、トサミズキ。ハルザキクリスマスローズなんてのもある。で、どうもコブシかタムシバらしい。語感から「タムシバ」を推したいとこですが、葉の形からすると「コブシ」が正解と判断しました。コブシか。北国の春だな。トランクさげて上京だよ。
しらかば あおぞら みなみかぜ こぶし咲く あの丘 ふるさとの ああ北国の春
なるほど、白樺とコブシはつながっているんだな。
さて、とりとめなくなってきたので、今回は「はな」で思いついた海外ミステリ小説。
『はなれわざ』クリスチアナ・ブランド(ハヤカワミステリ文庫)
「花」とは何の関係もございません。「離れ業」です。イギリスの本格古典長篇ミステリ小説です。緻密なプロット、周到な伏線、見事などんでん返し。
同じ作者の『招かざる客のたちのビュッフェ』(創元推理文庫)
という短編集の中の『ジェミニー・クリケット事件』もいいです。スリルに満ちた謎解きゲーム。戦慄の結末が忘れられません。
謎解き、好きです。トリック、アリバイ、一人二役、密室、意外な動機などなど。謎が解明されてカタルシスを感じるのが推理小説の醍醐味ですが、謎のまま余韻を残して終わるというのも、悪くありません。
2005/04/20
『広島に原爆を落とす日』 〜オーラ〜
暑いです。6月としては記録的なことです。こちら千葉の田舎はまだ朝晩いくぶん涼しくて救われます。真夏の都会は、室外機の吹き出し口みたいにヌワッと、まとわりつくような暑さです。そんな暑さで思い出す夏があります。
1979年8月、渋谷パルコ劇場。「風間杜夫スペシャル」というサブタイトルでした。『戦争で死ねなかったお父さんのために』の続編というか姉妹編というのか、主役が同じ人物・・と思ったら、どうも違っていました。『戦争で・・』の主役は、平田満が演じた「岡山八太郎」です。風間杜夫が演じた「山崎」は主役じゃありません。このときの山崎さんは、南の島では岡山さんの上官で、現代ではお蕎麦屋「長寿庵」のご主人です。『広島に・・』の主役は、「ディープ山崎」です。白系ロシア。劇的なるバックボーンを求めて、「混血」です。
しかし、「ディープ山崎」って名前は芸名みたいで笑います。ディックとかデイブは普通にありますけど、ディープはオチャラケてる気がしました。ですから、誰よりも日本を愛しながらハーフであるがゆえに苦悩する姿は、ともすれば滑稽で、共感というより、道化師を見るような距離が存在します。それでも徐々にシリアスな場面に転換していくわけで、のほほんと生きてきた私は、彼との距離を測るための、自分の位置さえなかなかつかめませんでした。ありったけの想像をめぐらせても、その深いところにたどり着くのは困難に思えました。
「はっけいろしあ」という言葉がキーワードのように、ディープ山崎さんは「白系ロシア」を連呼していました。戦時中のお話が不思議な響きを持ちます。演じる風間さんは、本番の舞台で明るいブルーのアイシャドーを塗っていました。近くで見ると、その鮮やかすぎる色彩に凍りつきます。百戦錬磨のマネージャーの豊田氏(当時、銀粉蝶のファン)も「濃すぎる」と言っていました。ロシア人は眼が青いという思い込みで、なかなか目玉そのものは青くならないので、周りを青々と強調した結果でしょう。おそらく風間さん本人の意思じゃなくて、演出家の指示だと思います。
「女ひとりを幸せにできずに国家が救えるか!」
とディープ山崎は叫びます。早い話、戦争で戦うより恋愛をしていたほうがいいということです。
「デモにいくよりキミと会ってるほうが楽しいじゃん」
というのは『初級革命講座飛竜伝』の熊田留吉の台詞です。いまでは当たり前の台詞でしょうが、当時は理論だの理屈が尊敬されていまして、そのブッチャケぶりは、かなり新鮮に感じました。
山崎が愛する女性「夏枝」を演じたのが、かとうかずこ。その前年に『サロメ』でデビューしまして、本格的な芝居は初めてでした。全体として主題がブレて、わけわかんなくなってますが、サザンの『いとしのエリー』に合わせて踊る場面など、心の琴線に触れる場面は数多くありました。
私の知る限りでは、いまもって、つか氏演出の、この舞台の再演はない・・と思いましたが、調べたら、この年の秋、大阪公演がありまして「予告編」も上演されていました。私、地方公演には一度も連れて行ってもらえなかったので、記憶に残っていませんでした。形を変えて、その作品の神髄は別の作品に受け継がれていると思います。
以下、オマケをふたつ。
◇予告編◇
演劇の予告編が上演されるというのは、寡聞にして知りませんが、私は一度だけ見たことがあります。おそらく、この年4月の紀伊國屋ホールの『熱海殺人事件』の楽日だったと記憶していますが、熱海の本番終了後、この『広島に原爆を落とす日』の予告編が上演されました。すごかったですよ。作る側が面白がっちゃって。映画でも予告編って本編より面白いことがよくありますけど、これは貴重でした。なにしろ3ヶ月後の舞台とは全然違うものだったから。お客さんに見に来てもらうため、というところから始めたわけですが、短い時間の中に、その場に居合わせた役者全員(と一部裏方)が登場、しかも全員にそれぞれ見せ場がある、濃密な舞台でした。
「テンションの風間!ダンディズムの加藤!ストイシズムの平田!」と、ナレーターの高野くんが叫びます。満員の客席にはいられなくて、私は照明室で見ていました。終了後、お客は舞台の感動というよりただただ呆気にとられていました。
大阪公演の「予告編」は舞台が完成した後のものですから、また別の内容ですね。高野くんのナレーションのトーンが同じであることは想像に難くありません。
「女を描けないと言われたつかこうへいが、それならばと、男だけの男のための男の演劇、ハードボイルド演劇!」というナレーション、その開き直りが好きでした。このときは「男だけ」と言ってましたが、愛する女性のために原爆を落とすというストーリーになりました。
この年、つかさんは相当忙しくて、芝居の公演のほかにも、角川映画『金田一耕助の冒険』(監督大林宣彦)の脚本を一部担当したりで、新作の芝居を作り上げるのが3ヶ月という短い期間でした。新作よりも、旧作を大胆にリニューアルするスタイルのほうが多く見受けられます。
◇私は何故芸能人の私生活を知りたくないのか◇
全く大げさなことではなく、なーんだとガッカリするほど他愛のない、取るに足りない日常のヒトコマです。あとから思えばバカみたいなことですが、そのときはとても重大かつ衝撃の事態でありました。偶然思い出してちょっと微笑ましかったりするエピソード。
稽古場で作った台詞を記したノート台本を、届けに言ったことがあります。テープ起こしをして、できたてのホヤホヤ台本を、主役のK氏のもとへ。K氏自身ではなく、その家族の人が取りに来るという話で、私は地下鉄の駅の出口の階段を登ったところで、待っていました。わかるかなあ。人通りの少ない昼間、歩道の先のほうを私はじっと注意していました。
自転車に乗って現れたのは、K氏本人でした。ボサボサの髪にサンダルをつっかけて、よいしょよいしょと自転車を漕いできます。舞台の上でも稽古中でも、その役にのめり込んで、迫力あるオーラを放っているK氏です。それが・・。憮然とうつむき加減で、ご苦労さん、つぶやいて、前のカゴにノートを入れ、またヨイショヨイショと自転車を漕いで去っていくK氏のオーラゼロの後ろ姿を見送り、私は思いました。金輪際、芸能人のプライベートなんて小指の先ほども見たくない、と。
「カッコいいことは何てカッコ悪いんだろう」
「カッコ悪いことは何てカッコいいんだろう」
私が現実に、その逆説を無理なく受け入れてもいいなと思えるようになるのは、まだまだ先のことでした。
2005/06/30
実録 行列のできるサイン会
某月某日、某書店前。すでに夕刻とはいえ、真夏の暑さは衰える気配を見せない。一歩店内に足を踏み入れれば、別世界のような冷気に包まれるのだが、自動ドアを隔てて、うだるような蒸し風呂地帯が広がっている。・・真夏のイベントは冷房の中でやってほしいわ〜。
報道陣はいかめしくカメラ設営中。そのマスコミ包囲網の外側に一般客が、足軽隊よろしく待機しています。それでも少しでもよりよく見えるベストウオッチングポイントを求めてウロウロ。そんな、さまようヨロヨロの私に、通りすがりの人が声をかけてきます。
「誰が来るんですか?」
都心の駅前です。人だかりがしているので、何だろうと寄って来る人もいるのでしょう。本日のイベントの看板もあるにはあるのですが、天井近く上の方に掲げられていて、目立ちません。それより大勢の報道陣が目を引きます。
「上島竜兵」
と私は答えます。すると、相手は「あぁ〜」とテンション低く納得して去って行きました。「ウエシマって誰?」とは問い返されません。さすが知名度あります。そして「(笑)」感が漂うのでした。
「上島竜兵さんサイン会」
という横長の看板の下にステージがあります。低い教壇のようなステージ。それを半円形で取り囲む報道陣。その後ろ、黄色いロープでバッチリ区切られた沖合の彼方に、一般客&野次馬が群れ集うという構図。
トークショーはよく見えませんでした。でも、どっと沸き上がる歓声の中に、聞き覚えのある笑い声が含まれているのは、聞き逃しませんでした。腹式呼吸の発声だよネ。腹から笑え!というお手本のような笑いでした。遠洋のカモメにまで届くわ。有吉さんの生の笑い声を聞けて、有吉さんの存在を確認できて、私は満足でした。
その日あらかじめ購入していた本を携え、著者のサインをいただくために、ヒツジたちは階段の列に並びます。テレビのワイドショーが一般人にもインタビューする旨、説明があったようななかったような。いずれにしても、行列の前のほうには若い女の子たち、後ろにはオモシロ野郎どもの一団が控えておりましたので、カンペキ部外者意識でボーっとセミの抜け殻状態で並ぶ私。考えることはただひとつ・・暑い。
「ひとりでいらしたんですか?」
というようなことを突然、訊ねられました。いつのまにか傍らにマイクを持った女性がいたのです。なんてこった。ぱんなこった。私の、こっちに来るなよ絶対来るなよぜええたああいい来るなよっ!オーラが足りなかったのです。来てしまいました、レポーターさんが。
「ええ、…コドモと」
と私は、私の斜め後ろで、イヤそうな顔を隠そうともしない、イヤなものはイヤなんだよ顔のヤツのほうを振り返って答えました。コイツは本日の私の連れ、いわゆる息子です。
「えっ、お子さんと!?」
と、レポーター嬢。絶滅種の虫を見つけたような驚き。失礼な!「仲のいい親子ですね」ぐらいのお世辞は言っても損はありゃしません。それが社会の潤滑油というものです。彼女は、さらに訊ねてきます。
「どこがいいんですか?」
ど、どこがって、あなた、人気あるからサイン会を、こんな目立つ場所で開催するんじゃないか。どこかいいところがあったら言ってみなさい的な投げかけで、相手に即答を求めるのは、お手軽です。できれば、まずアナタがダチョウさんのいいところをひとつふたつ挙げてから訊ねてください。
「だって、面白いでしょ」
と私、やや憮然と返答。どう面白いのかという突っ込んだ展開にはならず、彼女は息子へマイクを向けます。
女「ダチョウ倶楽部の中で誰がいちばん好き?」
子「竜ちゃん」
女「竜ちゃんのどこがいいの?」
子「芸風」
芸風って・・本のタイトルやんけ。以上で息子への一問一答、終了。
そのほかにも、「1人3冊買うように」という上島さんの言葉から、私が「1家に3冊」と言うと、「3冊目は誰に?」という質問になり、ホントはすでにアマゾンで注文してたものを含めての話なんですが、そのへん説明がメンドーだったので、もう1冊は「主人用」ということになり、彼女の驚きがさらに増し、信じられない馬鹿一家を見る眼差しになりました。ちなみに夫は、オトコのハダカよりオンナのハダカ、笑いよりエロです。
いよいよサインの順番となりました。上島さんはときどき「くるりんぱ」を披露。私のすぐ前の人にやっていました。本にサインをする上島さんは、ちっちゃく丸まって一生懸命です。とにかく会場は暑いので汗だくです。上島さんの後ろで1人の女性(マネージャーさん?)がセンスで上島さんを仰いであげていました。私はさっきのインタビューでドキドキを使い果たしてしまって、わりと普通に、手持ちのミニウチワで横から仰いで差し上げました。
握手をすると、上島さんの手は柔らかい肉厚のグローブみたいで、思いのほか大きく、私の手をすっぽり包み込みます。温かい体温が伝わってきます。う〜ん、握手ってエロスだわ。
翌日、全部のワイドショーを見たわけではありませんが、私たちのインタビューの放送はなかったようです。あれは本当にテレビのインタビューだったんだろうか。カメラあったっけ?「女の人の横にちゃんとカメラの人がいたよ」と息子の証言。
有吉さんが映っているかどうかチェックするのは楽しいけれど、自分が映ってるかどうかのチェックは気が重い。午後見たワイドショーに、それらしきものがありました。別の人へのインタビューが放送されていました。そこで私は悟りました。昼間の主婦向けの番組です。オバサンに対してインタビューが行われたのだと。な〜る。
2005/08/18
11月の悲劇
どうも。きのうケータイ屋さんへ行ったら、『昨日までの君を抱きしめて』のインストゥルメンタルが流れていてゴキゲンになった落花生です。ぼくらはもっとしあわせになれるはずだろう〜そうだろう〜♪・・そうだそうだ幸せになるのだ、と大変よい感じだったのです。それが嗚呼、数時間後には奈落の底へ突き落とされることになろうとは!誰が予想しただろうか?いや誰も予想しない。(反語的完結)
私のケータイを機種変更しました。EZチャンネルに対応している新しいものにしました。はい、『君と映画をみた』というauケイタイサイトが目当てです。そして帰宅後、家事一般をヤッツケタのち、いそいそとNEWケータイで、たどりつきました。EZアップチャンネル登録。ポチッ。・・しかし、ガーン・・ここで私は冷徹なる事実を知ることとなりました。以下、携帯サイトより引用です・・。
【金】 シネマコレクション キミと映画をみた。 デートで観る映画はコチラ!
キミと映画をみた。★毎週金曜日配信★
●どんな番組?
「映画」と言えばやっぱりデート!初対面の芸能人男女が映画でデートしちゃう♪見ているだけで恥ずかしくなっちゃう、この企画。今回はどんな展開になっちゃうんだろう〜・・・。
登録は無料です!
11/11配信:イン・ハー・シューズ
なんと元猿岩石の有吉弘行さんと2000年ミス日本グランプリ天川紗織さんが幸せをあきらめない女性たちに贈る、この秋一番の感動作「イン・ハー・シューズ」でデート♪女性と男性で印象が違う様子。コメントに注目だ〜♪
なななんですと!「11/11配信」!!ええっ!つまりもう配信は済んじまってるってこってさあ!私すぐに事態を飲み込めませんでした。が、何度見ても「11/11配信」の文字に変化はありません。ああ、タイムマシンで昨日に戻りたい。そうだろ。そうだよなあ勝俣。
「四谷三丁目マル笑倶楽部」という太田プロダクションオフィシャルファンクラブがあります。そこに入会すると、毎月「四谷三丁目(笑)だより」という会報が送られてきます。この会報には、所属の若手芸人さんたちのオンエアスケジュールなどが掲載されていて、とてもありがたいものなのです。11月の有吉さんのところに、<「君と映画をみた」←11/14のみ配信>と、あります。でも、11月のはじめにこの会報が来た時、すぐにケータイを変えない私が悪いんです。迷いに迷っていた私の優柔不断さが招いた悲劇だったのでした。
私、ショックのあまり、冬ごもりのために手当たり次第ヤケ喰いをするクマと化しています。来週、11/18は「探偵事務所5」だってさ。ノッチさん登場。ちょっと楽しみ。
では最後に、紹介されていた「プロフィール」を記しておきます。
★プロフィール★
【名前】 有吉弘行
【生年月日】 1974/5/31
【出身地】 広島県
【趣味】 長州力のスクラップ集め
【特技】 柔術
長州力のスクラップ。・・知らなかった。
2005/11/13
そのうち書くかもしれない11の短編
紀伊國屋ホールに新巻鮭が降りた日
街で見かけた松田優作
軽井沢タヌキ伝説
お笑い好きなら一度は人前でお笑いを演じたことがあるとは限らない
有楽町ビデオホールの思ひ出
はじめて生で見た有名人 松島トモ子さん 近所のお蕎麦屋さんで
はじめて有名人に足を踏まれた瞬間 ギュウゾウさんwithトカゲ
はじめて生で猿岩石を見た日
はじめて握手をした日
恐怖!押し入れに棲むビデオおばけ
蹴りたい後頭部 眠たい夜中 午前2時にテンションを上げる方法
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