Just Married!

  
 学校から帰ってきて郵便受けを覗くとそこに二通の手紙が入っていた。
「ふうん?」
 まだ引っ越したばっかりなのに。
 とりあえず、部屋へ戻ってから見ようっと。
 私はその手紙をつかんで部屋へと歩き出す。
 がちゃ。
 誰の気配もない部屋、新築独特の匂いがする。
 私は買ってきた食材を冷蔵庫に手早く詰め込んで、とさっとソファに座り込む。
 目の前にあるテーブルに手紙を置く。
 カチン。
 手を付いた時に指輪が鳴った。
「えへへ……」
 輝くプラチナのリングを自分がつけていることを思い出して……やっぱりにやけちゃってるなぁ。
 リングには「For Nanase From Shin−ichiroh」と字が刻み込まれている。
 もちろん左手の薬指、エンゲージリングだ。
 ちなみに石はアメジスト……七瀬には紫が似合うからだって。
「誰から来てたのかな?」
 いつまでも眺めているわけにもいかないしね。
 手紙には、幾つかの友人の名前そして、二つの電報……。
 一人は吉本勝。
 結婚おめでとうとただそれだけの字がそっけなく踊っていた。
「……送ってくれたんだ。祝福してくれるんだ……」
 
 勝は今の私にとっては幼馴染。
 告白された事もあったっけ……。
 結婚するって言ったら、とっても反対されたんだよね。
 もちろん勝がどう想おうと構わない事だけど、やっぱり長く親しく付き合ってきた幼馴染に否定されたままでは嬉しくないよ。
 だから、中身はそっけなくても、私は凄く嬉しかった。
 
 もう一人の差出人は綺堂さくら。
 びっくりして、中身を開けて見る。
 
 結婚おめでとう。幸せを祈ります。
 
「さくら、どこで知ったんだろう……」
 さくらとは、一度街角で出会ったきりだ。ほんの少しの邂逅。もし、一緒の場所に居たら友達になれたと想うのに。
『私、変わらないでしょ? だから同じ所には留まれないですから』
 さくらはにっこり笑うとそう言って私にさよならしていった。
 でも、さくらはさくらなりに気にかけていてくれたんだなと判る。
 
 嬉しい……な。
 真一郎もきっと、これを見たら喜ぶだろうな。
 なんだか、ようやく結婚したんだなって実感沸いて来たかな……。
 
 怒涛のような1ヶ月だったなあ。
 1ヶ月前……私の16歳の誕生日に結婚申し込まれて、次の日に両親に話して即座に役所に結婚届を出してきた。
 それから、このマンションに移り住んで……結婚式は来月か……。
 私は別に6月の花嫁なんかじゃなくて良いよって言ったのにな。
 嬉しいけどさ……真一郎が私の為にと想ってくれた事だからね。
 でも、ずっと前から予約してたみたいだけど、もし私に断られたらどうするつもりだったんだろう。
 絶対無いけど……えへっ。
 
 両親はすぐに許してくれた。
 だって、もう前々から正式にお付き合いしてたからね……さすがに即同居する事にはお父さんも渋ってたけど。
 お母さんなんか逆だったものね。
『早いところ、七瀬と真一郎さんの子供を見せてね』
 って微笑まれた時の真一郎の顔ったらとっても可愛かったな〜。
 
 ……子供かあ。
 でも、実は結婚して1ヶ月経つけど、まだ4回しか真一郎とエッチした事無いんだよね……。
 真一郎は社会人で私は高校生だから仕方ないって言えば仕方ないんだけど。
 しかも……私真一郎に一度も最後までさせてあげてない……。
 悔しいな。
 私も今の体じゃ経験ほとんど無いし、その真一郎との4回だけだから。
 当たり前だね。他の男に抱かれるなんて絶対嫌だもんね。
 でもそれにしたって……初めての時を除いた3回とも真一郎がいく前に気絶しちゃってんのよね……。
 うう……。
 目が覚めると真一郎がそばに居て、まだボーっとしてる私の顔見て『可愛い』って言ってくれるんだけど……
 私も真一郎の……見たい……。
 きっと可愛いのに……。
 うう……感じすぎる体ってのも、考え物だわね……。 
 
「あ……いけない、もうこんな時間、そろそろ食事作らなきゃ」
 面倒だから制服の上からエプロン付けて、と。
 料理は最初真一郎が作ってくれるって言ってたけど、やっぱり……私が作りたかった。
 本当は真一郎が作ったものの方がおいしいところが悔しいけど。
 でも、私だってそこそこ料理は上手なんだよ。
 これでも、結構古い人だしね、私は。
「そうだ、真一郎をエッチな気持ちにするような料理にしようっと……」
 そう決めたのは良いけど……どういうのがエッチな気分になるんだろう。
 出来れば、感じやすくなってくれると良いかな……。
 今日こそはなんとしても先にいってもらうんだ。
 
 精のつくもの、精のつくもの……へえ、鹿の角なんてのもあるんだ……。
 でも、感じやすくするようなのは、無いなあ。
 でも、こういうのいっぱい入れたら、興奮してそうなるかな?
 ちょっと試してみようかな?
 
 う……あんまりおいしくないかな?
 こうなったら、こうしてこう……。
 
 ふう、なんとかそれなりの味の物に仕上がったな。
 昨日は出張から帰ってきたばかりで我慢したから……今日はする、よね……。
 明日は二人ともお休みだし、真一郎早く帰ってこーい。
 
 8時。
 ……
 9時。
 …………
 10時。
 ……………………
 コチコチ
 時計の規則正しい音しかしない……。
 遅いぞ……真一郎。
 すねちゃうぞ……。
 
 ……
 はっと気づいたら寝てた……。
 真一郎は……帰ってきてるみたい。
 肩に毛布がかかってる……。
「起きた? 七瀬」
 真一郎……。
「あ、うん……お帰りなさいっ……あなた」
 あなたって言うのは少し恥ずかしいんだけど、真一郎が照れてるのを見ると嬉しくって。
 時計をちらと見てみる。
 11時。
「ご飯、もう食べてきたよね……」
 こんな時間だもんね。
「いや、食べるよ。七瀬が作ってくれたんでしょ? これ」
「う、うん……」
「だったら、ご馳走だもの……」
 真一郎は嬉しそうだった。
 
 暖めなおして私も一緒に食べる。
 ん……それなりにおいしいかな?
 真一郎はにこにこしながら食べてる。
「おいしい?」
「おいしいよ」
 なんだか、嬉しくて体がぽかぽかしてくる。
 努力したかいがあったな……。
 
「お風呂入る?」
「うん……七瀬も一緒に入らない?」
 どきん……痛いぐらい胸が高鳴った。
 へ、変だな。なんでこんなにどきどきするんだろう。
 頬も真っ赤で……なんだか……じゅんって……
 ……あっ、あの料理……私も食べちゃったんだ……。
 馬鹿馬鹿、私の馬鹿!
 あーもう、全然意味無いよ〜。
「どうしたの? 一緒に入るのは嫌?」
「い、いやじゃないよ。そりゃね真一郎と一緒なんだし……あの、そのだけどさ。うぅ……入る。一緒に入ろう」
 真一郎の顔見てたら、断りきれないよ。
 もう、こうなったら……頑張るしかないよね。
 
「真一郎……」
 私が入っていくと真一郎はすぐに抱きしめてきた。
「七瀬……好きだよ」
「あ……」
 あれが、当たってる……。真一郎も興奮してるんだね。
 そ……。
 手を伸ばしてみる。
「う……七瀬。そこは……」
「頑張ってみる……ね」
 
「あ……やだ……真一郎、恥ず……かし……」
 みんな見られちゃってる。ずっと、真一郎の……してるだけで濡れちゃってるのも……。
「そんなに開かな……で、ん、あうぅん!」
「可愛い七瀬……」
 言葉が私を燃え上がらせていく……。
 
 胸に真一郎の口がすいつくようについばむように、襲い掛かる。
 私は、真一郎の思うがままに奏でられていく。
「はぅ……あ・ああ……んふ……真一郎、く……ふ」
 頭の中にもう真一郎を先にいかせるなんて感覚なくなってた。
 ただ、こうして真一郎と愛し合っていたい……。
「も……切ないよ……」
 真一郎が、頷いた。
 
 ベッドの上……いつのまにか……。
 真一郎と一緒になってる……。
 舌を絡め合うキス。互いに抱きしめ合う。
 頭の芯がしびれるように心地良い。体中、真一郎が触れるたび抑えきれないものが高まってくる。
「ぁ……め、駄目ぇ。私、わたしね……」
「七瀬ぇ」
「大好き! 大好き……ああぅ……真一郎!」
 耐えることも出来ない大きな波にさらわれていくその瞬間、自分の中に暖かいものを感じた。
 
「凄かった……」
 ぽーっ。
「可愛いなあ、七瀬」
 また言われちゃってる……。
 でも、良いや。
 一緒にいけたもんね……。
 どっちが先いくとかじゃなくて……両方とも求めるままに気持ち良くなれるのが一番だよね……。
 なでなで……。
 真一郎が頭をなでなでしてくれる。
「真一郎……」
「あ、ごめん七瀬撫でられるの嫌いだって言ってたっけ」
「ううん、もう良いよ。ずっと、真一郎と恋人のつもりなのに、年の差あったから子供扱いみたいで悔しかっただけだから。だから今はもう良いの。今は真一郎の奥さんなんだもん」
「そっか」
「うん、昔から変わらない真一郎の癖だしね」
 きっと照れてるんだな。気持ち良くなってくれたんだ……。
「あ、そう言えばね……」
 私が二人の電報の事を言うと、真一郎は少しびっくりしたみたいだった。
「そっか……あの二人から……」
 真一郎が複雑な表情をした後、凄く優しい瞳で私を見る。
「うん、嬉しいよね……」
 こうしている事が、なんだか凄く不思議でそれなのにこれしかなかったような気持ち。
 今この時通じ合っていた。わたしたちの気持ちは……。
 
「真一郎……もっかいしよう?」
 もう一度、真一郎を感じたい。
「うん、七瀬……」
 きっと真一郎も同じなんだね。
 
 大好き……あるのはただそれだけ……。
 長い間待ち望んでいた場所に、私達はいるんだってこと。
 
 だから、
「大好き……真一郎」
 
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