Sweet&Sweet

 
 久しぶりに、会える!
 世の中薔薇色に見える……訳は無いけど、そんな浮かれた気分。
 真一郎に、会えるんだ……。
 思わず、微笑みが唇の隙間から漏れていってしまう。
 部活の他大学との合同合宿……。
 仕方ないし、望んでいた事でも、それでも、寂しかった。
 雨が降った後の、少し奇麗な感じのする空気の中、彼のいる部屋の明りがだんだん大きくなってくる。
 それが嬉しくて、ついつい早足になってしまう。
 
 馬鹿みたい、私。
 会って、何を話したい訳でも無いのに……。
 ううん、本当は話したい事いっぱいある。
 他の人と話した事、真一郎を想って眠りについた事。
 悔しいぐらいに強い人がいて、もっと頑張ろうと思った事……。
 
 でも、きっと、また何も話せなくなっちゃうわね。
 合宿所にだって電話ぐらいついてるし、実際毎日してた。
 だけど、つい……繋がってる……この向こうには真一郎がいるんだって思うとそのことに安心しちゃってほとんど話せなかった。
 
 それでも、私やきもち焼きだから……真一郎と何度喧嘩したっけ。
 真一郎が、大学受験でS大を受けるって聞いた時も、大変な騒ぎだった。
 私は同じ大学に来て欲しくて、ずいぶん、酷い事も言ったような気がする。
 でも、真一郎が言ったあの時の言葉は、きっと一生覚えてるわね。
『スポーツ医学が充実してるのは、あそこが一番なんだ』
 とってもびっくりしたっけ。
『いま少しだけ、離れるかも知れないけど、一生瞳と一緒にいたいから、だからS大に行くんだ』
 問い詰められて、むすっとした顔での台詞だったし、もう二度と言わないって条件付きだったけど。
 
 しかも……その後、とっても恥ずかしい事とかいろいろされたけど……。
 どんな事されたかなんて……と……とっても言えません……。
 
 あ……頬が熱くなっちゃった。
 やだなあ。
 絶対真一郎、私が様子おかしいのに気付くわよね。
 意識しちゃって、余計に頬が熱持ってくる。
 全然、落ち着いたり出来ない。
 だって、久しぶりに会うんだもの……心の中で、少し期待しちゃってる。
「ああ、私……何を考えてるんだろう」
 思わず、ばつが悪くてそう呟いて見る。
 でも、もうタイムオーバー。
 目の前に真一郎の部屋。
 
 でも。
 う……なんてことないはずの真一郎の部屋のドアが、気恥ずかしくてとっても開けられない……。
 どうしよう。
 ドアの前を行ったり来たりしてみるけど、全然落着かない。
 今日は帰ろうかな……なんだか私おかしいし。
 
 なんて想っていると、がちゃ……と目の前の扉が開いてしまった。
「あれ……瞳じゃん……どうしたの? さっさと入りなよ」
 目の前で私を見つけた真一郎の顔がぱっと明るく嬉しそうに変わる。
 う、胸がきゅううっとしちゃった。
 私、帰らなくて良かった。そんな真一郎の表情を見れただけできた価値があったよね。
「あ、あ……シンイチロウ」
 声が裏返っちゃった……真一郎不思議そうな顔で見てる。
 どうしよう。
「急いで来たの? 頬赤いし、ね」
 ちゅ。
 あ……急に口付け……ん……。
 ぽぉーーっとしてる。
 駄目だよ真一郎。そんな事されたら、私くらくらしてるんだから……。
「さ、早く」
 真一郎は平気みたい。
 なんか、凄い悔しい。
 私ばっかりこんなにどきどきしてる。
 
 ええい、16、7の小娘じゃあるまいし。落ち着きなさい、千堂瞳。
 
「どうしたの? さっきから変だよ?」
「な、何でもないです……」
 ああ、私って真一郎にこんなに弱いのね。
「その言葉づかい止めようって言ったでしょ?」
「あ……」
 そうだった、忘れてた……。
「ごめんね真一郎」
「ううん。それより瞳はどうだった? 今回の合宿。強い人が来るって楽しみにしてたでしょ?」
「あ、うん……いろいろあったわよ」
 ああでも、やっぱりそんな事どうでもいい。
 真一郎が側にいる、そのことの方がずっと重要で……。
「そうか。俺のほうもさ……」
 話し始める真一郎。楽しそうなその笑顔が私の胸をせつなくさせる。
 もう付き合い始めて長いのに、いまだにこんな気持ちでいるのって凄い珍しい事じゃないかな。
 
「……って、聞いてる? 瞳」
「――は、はい?」
 驚いた……気がついたら真一郎の顔があんなに近くにあるんだもん。
「聞いてなかったんだな……だから、ベッドに横になって」
 ベッドに横にって……いきなり?
「え。え・え……?」
「……もたもたしない」
 抱き上げられて、ベッドまで運ばれてしまう。
 あまりの事で、抵抗も出来ない。
「あ、あの……私今日は疲れてるし……その、明日に……」
「だから……でしょ」
 真一郎がそのまま、ずいと乗り出してくる。
「……待って、私シャワー浴びてくる」
「シャワー……そうだな、筋肉もほぐれるし。その方がいいか……」
 ほっ。
 今のまま抱かれたら、私きっと心臓爆発しちゃう……。
 少しは気持ち落ち着けて来ないと。
「ゆっくりとほぐしてきなよ」
「え……」
 真一郎……もしかして、私が緊張してるの気付いてた?
 恥ずかしい……顔から火が出そう。
 
 思わず、御風呂場に駆け込んで扉を締める。
「はあああああ」
 思った通り私は体中で緊張と興奮してた。
 真一郎の言葉に従って、それをゆっくりと解きほぐしていく。
 
 抱かれるのは、とても嬉しい事。
 真一郎と繋がっているのを感じられるから。
 嫉妬深くて嫌な自分が、その時だけは素直に真一郎を愛してるって言えるから。
 
 この部屋、最初に私が来た時、まだ引っ越したばかりの真一郎の部屋にもう女の子がいて。
 私何も聞かずに怒ってしまった後。
 悲しい表情をして「信じてくれないんだ」と言った真一郎の顔を見て私は凄く後悔したのに。
 それでも、私は不安になってしまう。そんな気持ちが流されるから。
 
 頬が熱い。
 シャワーの熱に目覚めさせられるみたいに体中が、敏感になっていく。全身で真一郎を求めてる。
 湯船に浸かりながら、嬉しい気持ちとやっぱり恥ずかしい気持ち。
 いつまでだって、真一郎に抱かれる前はこうなのかも知れない。
 昔、お祭りの当日より前日に興奮してたような気分。
 あ……もちろん、この場合当日だって良いんだけど……。
 心の中で自分に言い訳して、何やってるんだろと思い返す。
 ああ、どうせならこのまま真一郎が入って来ちゃう方が緊張しなくてすむのに。
 一回、御風呂場で抱かれた事もある。
 しかも……。
 ぼっ。
 やっぱり人には絶対言えない目に合わされたっけ。
 
「瞳、大丈夫? 長く入り過ぎてのぼせちゃってない?」
 真一郎の声。
 私何浸っちゃってんだろ。自分の家にいるわけじゃないんだから。
「ごめんなさい、すぐ出るから」
 立ち上がると、案の定少し立ち眩みがした。
 
 バスタオルに体をくるんで浴室を出ると少しびっくりした感じの真一郎が私を出迎えた。
「なんだか、やけに綺麗だな……」
「ありがと」
 ゆっくりと平静を装ってベッドの端に腰掛ける。
 でも、頬が熱いから真っ赤だろうな。
 御風呂上がりでなかったら、きっと気持ち見透かされてる。
 真一郎が近づいて来て、私は自然とベッドに倒れ込む。
「瞳……」
「ん、なあに……」
「あの、本当にそのかっこで良いの?」
「え? い、今更でしょ? 服着てって言うのも……」
 真一郎、私の服脱がすのが好きなのかな?
「いや、この方が嬉しいけど……じゃあ瞳、うつぶせになって」
「うつぶせ?」
 あ、あの……もしかして真一郎後ろから……?
 そ、そりゃ私も、ちょっとはしてみたいな、なんて……ああっ、そうじゃなくて。
 いきなりは、やっぱりまずいよ……。
「そう、じゃないとやりずらいよ」
 真一郎が僅かに頬を染めて視線を逸らした。そんなにしたいのかな……。
 今の真一郎、凄い可愛かった。
 ……可愛かったから、良いか。
「う、うん……わかった」
 うつぶせになろうとする間に、バスタオルがはらりと落ちそうになって、少しおたおたしてしまう。
 恥ずかしくて顔を上げられない……。
 真一郎の匂いが染み込んだ枕に真っ赤な頬を埋もれさせる……。
 背中に、手の気配を感じる。
 どう触ろうか、どこから触ろうか迷っているような手の気配がする。
 触らなくても、その気配だけで、体中が熱くなっていく。
 ふくらはぎに手が置かれた。
「ん……」
 真一郎がそっと手に力を込めた。
「あ……い、いたっ。いたたたた」
 な、何?
 真一郎力強すぎ……!
「あれ? そんなに痛かった?」
「痛いわよ! そんなに強くつかまれたら……ただでさえ筋肉痛気味なんだから……」
 目に涙が滲んでいた。
 思わず鼻声。
「でもなあ、ある程度強くしないとマッサージにはならないぞ?」
 
 …………何?
「ま、マッサージ…………?」
「そうだよ、だから、特別授業みたいのでそういうのもあるんだよ。俺が腕前を披露してあげるって言ったでしょ」
 真一郎は今更何を? って感じで尋ねてくる。
 でも、私は……もう顔もあげらんなかった。
 ……うえーん。恥ずかしいよぉ〜。
「さーて、それじゃ今度は少し我慢してね。いい? 瞳」
 返事も出来なくて、ただこくこく肯く私。
 真一郎の手が。そこら中を揉み解していく。
 ちょっと痛いんだけど、その後のじんわりと血の通っていくようなのが気持ち良い。
「あ……ああ」
「どう?」
「うん……凄いのね……こんな事まで教えてくれるなんて」
「へへへ、よしっと……」
 真一郎が上に乗っかるようにして指圧をはじめる。
 うう……気持ち良いけど、私ほとんど裸なんだから……。
 きわどい所に触れるたび、マッサージだと判っていてもどきどきしてしまう。
 興奮してるの、全然おさまらないよ。
 もし、真一郎に興奮してるの知られたら……うう。
 私なんだか鷹城さんが真一郎の事いじめっ子だって言ってるの判るような気がしてきた。
「ん……う…ん……」
 声が口元に押さえつけた枕から漏れていって、とってもおかしな雰囲気。
 ……あ!
 真一郎の手がかすかに腰の上あたりに添えられる。
 ぐいっぐいっ。て押し付けられる。
 緩やかにだけど、そっちの気持ち良さ。
 思わず目をつぶって、真一郎の手の動きを楽しんでしまう。
 なんか……凄い……ぅぁん……んんぅ…………そ・こ……は。
 切ない――――。
 真一郎、切ないよ――――。
 そうして、次真一郎の手にぎゅっと力が込められた時、私は真一郎を振り返ってた。
「しんいちろう……」
 私キちゃってる。
 自分でもわかるくらいえっちな声。
 恥ずかしい……。
 でも、もう、止まんない……。
 
 
 僅かな時間。
 気持ちを確かめられるそんな瞬間。
 
 絡み付く手足。
 一つになっている私達。
 幻想の中の光景のように、時間が足早にすぎていく。
 
 そこには確かに、私が求めているものがあった。 
 
 それに導かれるように、私は高まっていく……。
 
 何度目かの後の荒い息をしている私の耳元に、真一郎の声がかすかに聞こえた。
「ふーん、吉本さんの言ってたとおり本当にあるんだなあ。女の子が興奮するつぼって……」
 ぴくっ。
 女の子が興奮するつぼ?
「しーんーいーちーろーう」
 息が整わないまま、私は真一郎を見上げる。
「え? 聞こえた……の?」
 真一郎、青ざめてる。
 ひょっとしたら最初から気付いてて、やったんじゃないでしょうね。うう、だとしたら許さないから〜。
「ご、ごめ……」
「初めてのデート、思い出しちゃったな……」
 真一郎の言葉を遮って話し掛ける。
 ふふ、動揺してる。
「映画見たよね……また、見たくなっちゃった」
「……明日、連れてけって事?」
 たしか、明後日は真一郎大学の講義あるものね。
「え? デートしてくれるの。でも、私達まだ学生だし、ワリカンにした方が良いよね」
「ぐ、ううう。い、いやあ。明日は俺がおごるよ。たまには俺も甲斐性のあるとこ見せないと。はははは…は」
 笑いが乾いてる。
 ま、これだけ苛めれば良いかな。
 あ……最後に。
「明日寝ちゃ駄目よ」
「え?」
「私をこんなにさせた責任とって、朝まで……してね」
「……善処します……」
 ふふ、朝までだって繋がっていたい。
 えっち? 良いじゃない……。
 だって、大好きなんだから、真一郎のこと。
 真一郎、愛してるね。
 
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