その時その時に思った事を
綴ってみました。

駄猫戯言〈だねこのたはごと〉7
そして誰もいなくなった…

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むかし、いうてもそれ程昔ではねえだが…この家の隣に空き地が広がっとろうが、春から秋にかけて、そりゃあ、いろいろな野鳥がやって来るだぁね。

そん中でも一際大きく目立ったのが雉だで。

朝まだきを破る鳴き声はそこら一帯に響き渡るし、でかい尾羽を震わせ飛んでくるもんだで、住んどる人間様にとっちゃ傍迷惑だけんど、“春じゃー”思う時でもあるわなぁ。

秋にゃあ、銀色に輝くススキの中をよ、ズンと濃くなった青や赤の羽根を見せびらかしながら闊歩する姿は、そりゃあ綺麗なもんだでよ。

この空き地を縄張りにした雉が朝に夕に現れるようになって三年目の春にの…ようやっとオス鳥がメスを連れてやってきたんよ。

この家の者達が皆、温かく迎えたことは言うまでもないわいね…一人いんや一匹をのぞいてはの。

でれっと日は過ぎて草萌えから梅雨になって…しばら〜く、つがいでは現れなんだ雉夫婦が梅雨の晴れ間のある日、ひょっこりと姿を見せたんじゃ。
なんと後ろに可愛い五羽の雛がおるわいね。

親鳥が背に乗せて運んで来たんじゃろねぇ…「子育て中だったんだね」二階から見下ろす家主一同も喜ぶ事しきりじゃった。

と、草むらに入った親の後を追う雛の一番後ろに身を低く構えた灰色の縞模様が─

どこから、いつ這い出たもんか、家主の隙をついて逃げ出した駄猫が、そろそろと雛の後ろについて草陰に入って行きよる。

雛は親鳥を追うのに必死で後ろに迫る危機には、全く気付かん。

“親に知らせなくちゃ!”

家主一家は二階のベランダに居並び、親鳥に後ろを振り向かそうと近所の目も気にせずに大騒ぎしたんじゃが、鳥と言うても畜生の哀しさよなぁ、人間ばかりを気にして後ろの雛を振り返ろうとせん。

そうこうしているうちに草むらから姿を現すたびに雛は一羽減り、二羽減り…

空き地の真ん中で、母鳥が後ろを振り返った時には、大きな灰色猫が悠然と尻尾を揺らし立ち去っていくところじゃったんだと。
鳴き声たてて、慌てて探しても後の祭りじゃわな。

その慌ただしい羽音と声に刺激をされたんか、いつのまにか、再び駄猫が舞い戻っておっての。あっという間に襲いかかって母鳥を組み敷いとったと。

けたたましい鳴き声に羽毛が飛び散ってもう、辺りは大騒ぎでの。

慌てた家人は母鳥を救いに、一目散に空き地へ走りよった。

人の近づく足音で駄猫は、あっさりと獲物を放したけんど、片翼が傷ついんじゃろうな母鳥は何度か羽ばたいた後、斜めに傾いだまま飛びさって行ったそうな。

首根っこを家人に押さえつけられた駄猫が、そのまま家に連れ戻されたのは言うまでもないがよ。

それからこの空き地に雉がやって来ることはなくなったちゅうこっちゃ。

こない梅雨の晴れ間にゃあ、あの雉一家の受難日を思い出すわいなぁ…
とっぴんぱらりのぷ。

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