俺の創作活動


第4.5話 幕間

「ん、んん……んふ……あ、ぁぁ、駄目……マスターが起きちゃう」
……いや、しばらく前から気がついてるんだが、何やってるんだこいつは……。
着せておいたはずの制服を脱ぎ散らかして、すっ裸のまま俺の体に柔らかな全身を擦りつけている。
なんつーかすべすべでふにふにの柔らかい感触がたまらない。
何度も抱いた体だが、飽きは来ない。小動物並に熱い体温から、再びこいつが欲情してるのは間違いなかった。
だが、まあ、その裸の感触がえらく気持ちよくて、引き離す気になれない。
胸の先端の小さな塊がこりっと俺の胸板で転がされる。
「んぁっ……ますたぁ、ますたぁ……」
そう呼びかける声はなのに俺を起こさないようにか、ひどく小さく掠れていた。
ついと、その濡れた唇が俺の首筋を這う。
「ちゅ、ん、んんんっ」
直接肌同士の触れ合う暖かさと、ぷるぷると細かく震えが俺にも伝わってきた。
ああ、俺の汗を吸ってるのか。
って……どうして俺は全身で裸の志乃を感じてるんだ?
ようやく寝覚めで霞のようだった思考がまとまりを見せた。
がばっと起き上がる。
「……あ!」
途端に蒼白になる志乃。長く艶やかな黒髪が透けるほど白い彼女の背中の中ほどまでを覆っている。そこから腰、尻へのラインが美しい。
「何をしてた」
だからと言って、ちょっと許せる範囲ではない。
「……す、すいません」
「俺は、何をしていたかと聞いてるんだ」
見ていて可哀相になるほど志乃は小さくうなだれて震えだした。
「……あ、気がついて、マスターが隣にいて……匂いが……耐えられなくて……マスターが欲しくて……」
怯えるような志乃の台詞は、いまいち要領を得ないが、つまりこう言う事か。
「俺が傍にいて興奮した志乃は裸になって体を擦りつけていたってわけか」
「! ……は、い」
びくりと殴られるのを恐れる子供のように志乃が震えた。
「お前は俺の体でオナニーをしたってわけだな?」
「……あ、その。……それは」
「しかも、俺の服まで脱がせて」
まあ、確かに俺は志乃の事を奴隷か何かだとは思ってないし、使い魔だからといって、あまりに非情な事をさせるつもりはない。
だから、これまで特別に従属を強いた事はない。もっとも、そうすることに意味などほとんどないのだが。
「志乃、精神の自由領域を一時凍結」
俺の言葉に反応して、志乃の瞳から怯えがすうっと消える。
「はい、マスター」
物凄く機械的な喋り方。
「お前の俺といる時の表層意識での俺への依存度……いや、性的依存度はどれぐらいだ」
「マスターに対する性的依存は、表層意識での最優先項目です」
無機質に俺の方を見つめたまま志乃は微動だにしない。
「つまり、俺といる時は始終突っ込まれてないと落ち着かない状態だってことか?」
あまりにもあけすけな言い方にも志乃は全く反応を見せない。
「はい」
もしかしたら志乃に自由意志を残しているがゆえに、使い魔としての性に志乃の意識が食われているのかもしれないな。
「対処法は?」
「私にはわかりかねます」
まあ、そりゃそうか。
「あ。俺といないときの使い魔でない時の志乃の場合はどうだ?」
志乃が俺の使い魔だと意識しているのは、あくまで俺の傍にいる時のみ。もしくは、突発的な危険事態にのみその能力を発動させるようにしてある。
レイチェルに襲われた時は、貞操の危機だと判断したんだろう。要するに、アーティファクトが変化したのは使い魔の意識を戻したからだ。
「それほど高くはありませんが、夜中にマスターを思って毎日のように自分を慰めています」
やけに冷静沈着な声でそう言う事をいわれると、なんか生々しくて、こっちが恥ずかしくなってしまった。
「俺がマスターだって意識があるのか?」
「いえ、その時は恋人である『五月雨光喜くん』との行為と認識しています」
俺と一緒にいない時の志乃には自分が使い魔であることや、スパイであるという認識はなくしてある。何処からばれるかわかったもんじゃないからな。
「そっちの調整は上手くいっているみたいだな」
俺は少し考え込む。
その間じっと俺を見つめたまま動かない志乃。
「自由領域を解除する。ただしこの間の記憶は残さないものとする」
「はい……マスター……あの、あの……」
意識を戻してやったとたん、志乃がすがり付いてきた。
「なんだ?」
もしかしてまだして欲しいのか?
「捨てないで、捨てないで下さい……捨てられたら、私……」
お定まりの反応だが、まあ、確かに志乃からすればそれだけ必死にもなるだろう。
それに、何も志乃が悪いわけではない。結局の所エターナルパートナーなんて物を人間に行使した俺の責任だ。
「う、うぅ……駄目だってわかってるのに、マスターの匂いを嗅いだ瞬間、頭の中がぼうっとなって……あそこはぐしょ濡れで、マスターの唾液が欲しくて、肌 に触れたくて、犯して欲しくて……それしか考えられなくなって」
志乃がボロボロと涙をこぼしていた。
「こんな自分……恥ずかしい、最低だって、マスターに嫌われちゃうって思うのに、でも、止められなくて……」
志乃が弱い奴なのはよく知っていたわけで。俺は志乃をそっと引き剥がすと嘆息する。
「いや、そう仕向けてるのは俺だからな。だけど、そうだな、少し……お前に干渉するぞ」
これまではせいぜい俺といる時いない時の調整をしたぐらいだったが、ここまでエターナルパートナーの呪縛が強いとなると、少し考えた方が良いんだろう。
「はい、マスターのお気にいるようにしてください」
縋りつくような瞳で志乃が俺を見上げていた。
少し、胸の奥がうずいた。こんなでもこの人は、俺より年上で、二年前までは本当に憧れの先輩だったんだ。
「使い魔でいる時に受けた指示は覚えていろ。だが俺との性的接触の記憶はそのたびにリセットさせろ」
これで、何とかはなるはずだ。
「全てを……忘れるのですか?」
「俺との会話なんかは覚えていてもいいが、どれだけ凄かったかとかは忘れておけ」
まあ、忘れさせても、体が覚えているのかもしれないが……。
「それとも、もう少し感じない体にしてやろうか?」
「いやです!」
はっとしたように叫んでから口元を抑える志乃。また涙がぽろっと溢れた。元々は躾に厳しい、伝統のある家に生まれた志乃だから、余計に今の抑えられない自 分が恥ずかしくて仕方ないのだろう。
「重症だな、本当。まあ、とりあえず、そういう形で影響を見るぞ。もしあんまりどうしようもないようなら、食事の時は意識を封じるぞ」
「はい……」
見た目にも真っ青な顔色で、志乃は首肯した。
「じゃあ、今は、ちょっと落ち着かせてやる」
はっと顔を上げた志乃の瞳が期待するように濡れていた。
毛布を剥ぎ取り、既に堅く張り詰めた怒張を露にする。
「あ、はぁ……いいのですか?」
一応、さっきまでの事もあるから、志乃は必死で目の前のご馳走を我慢している。とはいえ、手はふらふらと握り締めたそうに前へ出ているし、視線はこちらに 向けているものの、意識はどう見てもそちらに向かっている。
「我慢できないんだろ? それに、俺もな」
なんだかんだいっても、エターナルパートナーは志乃にだけ掛けられている魔法ではない。俺にも掛かっているのだ。使い魔の興奮に主人が応えられなくては、 大変だからな。
まあ、使い魔に対しての強制力と比べたら、雲泥の差だが。
「ああ!」
目からボロボロと涙をこぼして、何度か頷くようにすると、俺へと抱きついてくる。
そっと、その顔を上げさせ涙をぬぐってやると、優しく唇を合わせた。
たまにはこういう優しい主人を演じてやってもいいだろう。
いつも同じでは飽きるからな。

「ところで……」
「はい。なんでしょう?」
気絶させるほどには激しくしなかったが、それでも、今日二度目と言う事もあり、志乃は十分に満足したようだ。
俺に寄り添って寝ている笑顔がとても満ち足りたものだった。
「なんで巫女装束なんだ?」
確か以前まで志乃が戦いのときに来ていたのは、陰陽師の式服のようなものだったはずだ。
「それは、マスターがあんまり色気が無いからって……巫女装束の方がなんか色々興奮するって……」
恥ずかしそうに言う志乃だが、なんとなく嬉しそうだ。
……いや、俺のほうが恥ずかしい。
なんだこのあまあまべたべたな展開は……。
「帰る」
「……え?」
「どうやら、もう放課後だ。お前も午後いっぱいサボりだったって事だ」
「……そうですね」
そうは言いつつも俺も志乃も落ち着いている。
まあ、代役を作るのぐらい俺にとってはなんでもない事だしな。
「というわけで、色々忙しいから俺は帰る。志乃も今日は事件があったからあっちでの会合があるだろう」
「……はい。それではマスター、また」
ぺこりとお辞儀をすると、志乃は瞬時に衣服を身につけて屋上を出て行った。
うーむ、早業。ちょっと着替えているのを見ていたいとか思ったんだが、やっぱりそれはまた恥ずかしいものなんかね。
「さて、俺の方もレイチェルの報告を聞いたり、バカ相手に話をしないといかんのだろーな」
ちょっと先の展開を想像して、思わずめげた。
「もう少し寝てよーか?」

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後書き
なんつーか。あんまりどうでもいい話なので4話では割愛し、5話に入れるには冗長になるので同じく。
のため4.5話。
まあ、一応疑問の感じる人のための解答的幕間。
一応伏線らしきものがないことも無いような気はするが、別にこの伏線など見ていなくても、つじつまは合うのでやっぱりどうでもいい話。(笑)