第11章 我は不死の娘

「国が疲弊するとはこういう事だ」ヴァイロンは誰に言うでもなく呟いた。

眼前には打ち壊された家々に獣に食い散らされて散らばった白骨…家畜は家財道具や蓄えてあった食料と共に奪われたらしく、動くモノは死体の味を覚えた烏の群れだけだ。

「もう喰わねえのか?」傍らで馬らしきモノに跨る弟に声を掛ける。

「いらない…行く先々でこれだもの。食傷気味でヨトガもサータもとっくに寝てるよ」

オレンジのベールから覗く白い脛が夕陽を弾く。

川を渡ってから何処に行っても、行く先々に死霊が群がり、吸い込んでも吸い込んでも後から後から湧いてくる。

ずっと死霊にまとわりつかれて、もう見るのもイヤだった。

「今日はここに寝るか」黒駒から飛び降りる。

以前なら、睡眠も食事も必要としない美貌の魔道士は、こちらの事などお構いなしに「先に進もう」とごねたものだが、そんな言動は全く無くなった。

もっとも、ここまで人間らしく成りえたのはヴァイロンの努力のたまものだ。

二人でずっと旅をして“人間(ひと)とはこういうモノだ”と身を以て教えてきた。

勿論、幼い頃から蛮人の父と共に流離ってきたヴァイロンがとる休息では普通の人間とは比較にならないほど短い。

何日も不眠不休の強行軍で河を渡り、砂漠を横切り、高山を登り、雪原を越えてきた。

だから一日に一度は眠り、食事を摂るのは弟の手前を意識しての事だった。

散々に荒らされた家の中には半腐れの死体と本当に何の値打ちも無いガラクタだけが打ち棄てられていた。

壺の底に僅かに残っていた水は腐臭を放っていたが、構わずに唇を湿らし黒駒の前に置いてやる。

黒駒は起用に舌を突っ込んで生ぬるい水を舐めた。

騎手と同じく銀色の馬もどきには水も食料もいらないから、草も水も必要なのはヴァイロンの愛馬だけだ。

「何にも無いね…」銀色の鬣を掴んで、シェラムも家内に入ってきた。

「一つの盗賊団じゃない。村中皆殺しにされた後も次々に別の奴らがやってきて根こそぎ奪って行ったんだ」

「うん…今まで通ってきた村は全部こんな感じだよね。何でそんなに盗賊が多いの?」

「盗賊しか生き残る道が無いんだ。所詮素人の集団さ」

「じゃあ玄人の盗賊って?」

「バラカ諸島や黒海湾の海岸線の村を見たろう?海賊稼業の連中は一度狙った村はしばらく襲わない。少し蓄えがたまった頃を見計らって襲うのさ。だから働き手の村人は傷つけない。村を捨てないように打ち壊しも最小限にする。それぞれの海賊団が縄張り内の村々の状況を把握してるから成り立っている。見境無く縄張り以外の村を襲うことはない」

「そうか、黒海湾の海賊って海賊の中の海賊なんだもんね」その一員となって伝説の女海賊・ベリの名で呼ばれ大活躍をしたと自負しているシェラムの声は弾んでいる。

でも、そんな海賊もジンガラ海軍に追い回されていた…

「この辺りって軍隊は守ってないの?」

「国にそれだけの力がないんだ。こんな国境沿いまで兵を出すには金がかかる。第一、国がしっかりしてれば、領民が次々に俄(にわか)盗賊になって、同じ領民を襲ったりするもんか」

「そんな…だってステイジアは古くからの文化を継承する偉大な国だって…」

「ペリアスの蔵書に書いてあったのか?ステイジアが栄えたのはもう何百年も昔の話だ。ここには大昔から高度な文明を持った一族が国を興していた。その国が滅んで、知識や技術は断片的にステイジアに受け継がれてきた。今は僅かに残った知識も疲弊して邪な部分だけが取り沙汰され暗黒国家として恐れられている。お前がカリニアの塔で読んだ書物はみんな古王国時代の遺物さ」

確かにステイジアに関する知識は、その言葉一つにしても書物から学んだものだった。

河を渡る前から向こう岸には瘴気が垂れ込めていた――もしや…と思わなかった訳ではない。

だがペリアスの下で学んだ思い出を否定するような気がして、認めたくなかった。

それでも、こうして現実を目の当たりにすれば…

「邪魔!」半分腐り、半分干涸らび、所々黄ばんだ骨を見せる女の死体を蹴った。

陵辱の痕を残す死体では話し合い手にならない。

習い覚えた自慢のステイジア語すら疎ましかった。

「さてと…」死体を蹴散らして寝床を作り始めた弟を横目にまだ壺に舌先を突っ込んでいる愛馬の轡を取った。

「どこにいくの?」

「食い物を見つけにな」夕闇が濃くなった戸外を覗く。

「お前は腹一杯なんだろう?」夜目の利く身には、辺りに迫る闇も問題ない。

「もう吐きたいくらい…淫の気なら別腹だから吸ってもいいけど」死体から染み出した腐液がこびり付き、悪臭を放つ藁床も気にせずにベールを脱いで横になる。

「まったく…メッサンティアじゃ、散々やりまくったんだろう。もう足りないのか?」

詳細を教えたのはガイに懐いているヒドラだろう。

“まったく、もう…どっちが主人なんだか…”その銀の馬もどきは小さな蜥蜴に姿を変え、小首を傾げてこちらを見ていたがシェラムから睨まれると慌ててヴァイロンの長衣(キラット)に飛び移った。

「あれは、成り行きでさ…大体ガイが私を放って一人でどっかに行っちゃったから…」

「ああ、悪かったよ」正直、再び二人だけで旅する事に不安があった。

だがあの闘技場の凶行以来、自分を見失うことは無かった。

弟への殺意も…欲望も…綺麗さっぱりと消えている。

激情に駆られた自分を律しきれずに、やっと見つけ出した弟を放り出した事すら信じられない。

シェラムは少しも変わらずに「ガイ、ガイ」と甘えて、すり寄る。

また起きるかもしれない――だが、先々の事を案じて、くよくよと思い悩む頭を蛮人の息子は持ち合わせていなかった。

――なるようにしか、ならない――

左手を軽く払っただけで、辺りの空気が軽くなった。

ラカモンの環(リング)が残照を弾いて蒼く光っている。

「私も水が飲みたいな…だけど綺麗で冷たくないと嫌」出て行く兄の背中に無理難題を吹っ掛ける。

「戻るのが遅くなるぞ」自分がどんなに贅沢な要求をしているのか、全く自覚が無い弟に答える。

「いいよ、寝てるから…もう疲れちゃった」あくびをしながら手を振る弟を一瞥すると、兄は黒駒に跨った。

裸馬…といってもヒドラなのだが…の背に揺られ、馬上で眠ること三昼夜。

やっと揺れない寝床で手足を伸ばして休める。

「サータ、ここの奴ら喰っちゃって」指輪を外して床に投げた。

使い魔も満腹なのは解っているが、周りでひしめく怨霊、亡霊を一掃しないことには、うるさくて、いくら疲れていても安眠できない。

床に落ちた指輪に嵌め込まれた二つのルビーが真っ赤に光り始めた。

シェラムは遠ざかる黒駒の蹄の音を聞きながら、急速に眠りに落ちていった。


「おい!」生臭い藁床の上にしどけなく横たわる躯を突いてみる。

「死んでんじゃねぇか?」

「死体でも構わねぇ、やっちまおうぜ」

「おうよ、こんな美形、死体でもお目にかかれねぇ」

破れた屋根の間から差し込む月が真っ白な肢体をさらに青白く浮かび上がらせていた。

長い睫と通った鼻梁が影を落として深い陰影を刻む。

その影よりも漆黒の黒髪が月光を弾いて波打つ。

ふっくらとした紅い唇は微かに開かれて、白い歯が見える。

片方の肩が剥き出しになったトゥニカから桜色の尖りが覗いている。

寝姿というには、あまりに悩ましい媚態だった。

最初に槍の柄で突いた男が飛び退いた。

「どうした?」

「い、今動いた」

「生きてんのか?」

「馬鹿な!息してねぇんだぞ」

「何でもいいから、やっちまえばいいのさ」

「ああ、生きてりゃ、めっけもンじゃねぇか。散々よがらせて目覚めさせてやるよ」

「やめろ…」今まで後ろで様子を見守っていた初老の男が唸るような声を上げた。

「なんだよ、叔父貴。ちゃんとアンタにも輪姦(まわ)してやるぜ」

「そいつは…人間じゃない…」

「はあ?」

「息をしてない…でもこいつは確かに生きてる。見ろ!この艶やかな肌…」

藁床の前にひしめいていた男達は顔を見合わせた。

「じゃあ…何だっていうんだ?」

「ここはステイジアだ。こんな人間離れした男は魔界の輩に決まってる!」

「まさか?」

「逃げ出してきた男娼だろう?」

腰から下に掛けられたベールはボロボロだが、薄汚れたオレンジが売色の稚児だと身元を明かしている。

そこから延ばされた真っ白な臑から引き締まった足首…汚れてはいるがすんなりとした爪先までもが男達の欲情を誘う。

娼楼や遊郭にいた頃は、客が引きも切らない売れっ子だったろう。

それでも…年長者の言う通り、こいつはおかしい…とも思う。

人間離れした美貌――確かにどこかの朽ち果てた神殿に祀られていた神像が月の魔力で人間の姿に化けたとしたら、こんな感じかもしれない。

ゴクリ…と息を飲んで、もう一度様子を窺いに顔を近づける。

「うわああ!」近寄った男は槍を投げ出して後ろへひっくり返った。

少年の眼が開いた。

じっと男達を眺める。

ゆっくりと肩肘をついて半身を起こした。

月の魔力を欺くほどの絶世の美貌だった。

「だれ?」低く染み入るようなステイジア語が紅く濡れた唇から洩れた。

「息…してるじゃねぇか…」

「ああ…誰だ死体なんて言ったのは?」

「お前だって確かめたじゃねぇかよ?さっきは息してなかった…」

じゃあ、やっぱり化け物?それとも死体が息を吹き返したか…

男達はジリジリと後退した。

欲望よりも少年の発する異界の気に気圧されていた。

「どうした?」戸口からのっそりと巨漢が入ってきた。

「お、お頭!」後ずさりしかけていた男達がうわずった声を上げた。

「てめえら、物見に出たまま帰ってこねぇと思ったら」そのシェム語は言葉というより唸り声に近かった。

「俺様に隠れて男娼と乳繰り合うなんざ、いい度胸じゃねえか」

いつの間にか外には丘の向こうで待機しているはずの仲間達が群れていて、次々と小屋に足を踏み入れてくる。

「ひょお!こいつは驚いた。どこの後宮から逃げ出してきたんだ?」

「そうともさ、メッサンティア一の賓宮にだってこれ程の上玉はいねえ」

「違うんだ、お頭!俺達も今さっき見つけたばかりで…こいつは息をしてなかったから」年長者の顔色は青ざめて表情は強張っている。

だが頭目は、仲間を出し抜こうとして見咎められた嘘と取ったようだ。

「おい、叔父貴。言い訳ならもっとマシな台詞を考えなよ」それでも実の身内には言葉使いが優しくなる。

初老の男は頭目の叔父だった。

だから仲間達も頭目を見習ってシャンチーと名を呼ばずに“叔父貴”と立ててくれている。

腕っ節は大したことは無いが、知識は豊富でシェム語にステイジア語、片言だがアキロニア語も解した。

それに呪術にも詳しく占いの真似事もしたので、予言というか助言のお陰で頭目自身が助かった事も何度かあった。

盗賊団で軍師というのは大仰だが、役割はそれに近い。

その叔父が恐怖で顔を歪ませている。

「お頭、こいつは人間じゃない…」

「ホントでさ。ホントに息を…」槍を落とした男も土気色の顔を震わせている。

先に偵察に出た五人が五人とも唯事で無い素振りを見せていた。

盗賊稼業で幾多の修羅場を潜ってきた頭目は、その尋常でない気配を察したが、仲間達の手前、気後れした態度を見せては拙いと虚勢を張った。

「へっ、そんならなおのこと、ここで抱いてみりゃいいじゃねえか」

「そうだ、そうだ」

「俺達全部に輪姦(まわ)されりゃ化けの皮が剥がれるかもしれねぇ」

「よせ、こいつは…もしかしたら…ケーミのピラミッドの真下にあるという地下宮の一族かもしれん」

「え?」

「こいつがしゃべったステイジア語はおかしい…まるで呪文の一節のようだ」シャンチーの指摘は正しい。

少年が漏らしたのは、たった一言……“誰?”という誰何だけだった。

だが、まともなステイジア語を聞き知った耳には、そのイントネーションは暗黒の地で本場の魔道や妖術を体得せんとした者達が唱える呪われた誦を連想させた。

「ひえ…」男達は一斉に身を引いた。

「そんな馬鹿な…」威勢のいい巨漢も例外ではない。

ケーミ郊外の廃墟群…それを創ったのはステイジアの祖先ではなく、太古に地上を支配した遠き星からの来訪者であったという。

彼らが自らこの地を去ったのか、それとも地の底に隠れたのか…または滅び去ったのか…今となっては定かではないが、その真下に穿たれたという地下宮殿の上にはピラミッドが建造されていた。

そこには建造主である一万年以上前のステイジアを最初に統治した王朝一族が葬られ、古代王国の礎となった宝石が祀られているという。

古代王家の王墓に埋蔵された秘宝ならば恐ろしい話ではない。

だが本来、墓であるべきピラミッドに一万年の間、邪悪なる神官に生贄を献げられながら生き続ける太古の王女がいたとしたら…

永遠の若さと美貌を保つために闇の王に身を献げた王女の邪な伝説は古今東西の詩人や画家の手によって広まっていた。

昼は地下の闇を睥睨し、夜の帳と共に地上を闊歩する。

太古の墓場で悪霊達と繰り広げる饗宴に招かれた魔道士やセトの神官達は自ら身を献げ、僕(しもべ)と化した。

その王女が奇怪な…それでいて耽美な物語で語られる時『永遠の美と命の象徴』として崇め奉るのは、耽美を愛でる芸術家達にとって当然であったろう。

そして讃えるだけではなく…興亡の末に次々と変わる時の権力者の誰もが不老不死による権力の継続を切望した。

時代を采配する者達の信奉を得て、彼らから供えられる幾多の処女や戦士の生き血で王女の美は更に輝いた。

それでも僕や信奉者の全てが王女の恩恵に預かれる訳ではなく…思し召しを受けたと思っても、二、三百年後には躯が強張り皺が生じ…やがてヒトの形を為さぬモノとなって生きさらばえるか、骨も残さず塵芥となって四散した。

もっとも何かの手違いで真昼の太陽を浴びたモノも塵と化して飛び散ってしまうそうなのだが…

「それなら朝まで待てばいい…」

頭目の後ろで腕を組んでいた長身の男が初めて口を開いた。

「なんだと?」頭目の後釜を…隙あらば地位を狙っている様子が見え隠れする手下を睨む。

「あの王女の僕(しもべ)なら崩れて消える」

「なるほど…崩れなきゃ人間か。確かにそれから抱けばいい」

「いや、抱くのは拙い。こいつは地下宮殿への献げモノだからな」

「何を言ってる?」

「お頭、もうここいらにはロクなモノは無い。ぶんどれるモノはあらかた奪っちまった。お宝があるとすれば…」

「スティックスのピラミッド群か…」頭目は唸った。

冥途の川と呼ばれ、水草も、魚も岸辺に生息する爬虫類に至るまで毒を持つと言われる魔の河スティックス…ケーミの廃墟はその河口に点在する打ち棄てられた神殿や都市やピラミッドだった。

「スティックス?」肩肘で躯を起こし掛けた姿勢のままだった少年の唇が再び動いた。

「お前達はスティックス河を知っているの?」今度はステイジアの言葉ではない。

男達と同じシェム語…だがこれも変わった抑揚だった。

ゆっくりと藁床の上に身を起こす。

差し出した手のひらには小さな珠が乗っていた。

この水晶球を得たメッサンティアの闘技場…瀕死の魔道士はスティックス河の畔で恩師ペリアスに逢ったと言った。

アイツは自分はもう何もいらないからと言ってこれをくれた

会ったのはステイジア…死の河スティックスのほとりだ

「この珠を持った男を見たことはないか?」あの魔道士がペリアスから水晶を譲り受けたのは何年前なのか…それは判らないが、他に尋ねる手段はない。

「それは水晶だろう?だったら探してる奴はケーミの地下にいるんじゃねぇか?」長身の男がゆっくりと前に出てきた。

青黒い髪を伸ばし、天然のウェーブが褐色の額から頬を覆っている。

シェム人にしては上背が高い。

特有の鉤鼻ではなく、すっきりと通った鼻梁をしている。

砂漠民との混血らしく彫りの深い顔立ちだった。

「あそこにはありとあらゆる宝石が埋まっているって話だぜ。そいつはそこで水晶を…」

「違う!」シェラムは男の言葉を遮った。

この水晶は初めから師が持っていたものだ。

そんな場所から持ち出した代物ではない。

「もういい、知らぬのだな?」だったらこれ以上問答しても時間の無駄だ。

まだ“睡り”は足りていない。

眠って回復するのは人体(ヒト)である部分だけだ。

躯から幽体と霊体を解放し、浄化する。

せっかくサータに清めさせた空間が、こいつらの穢れた気で再び濁ってしまった。

また一からやり直しだ。

「休息の邪魔だ。出て行け」ベンダーヤ皇太子にしてアキロニアの第二王子は謁見を願う群臣に命ずるが如く、苛ついた声で命じた。

「悪かったよ…その珠を持った男は知らないが、スティックス河には詳しいぜ」長身の男は再び背を向けて藁床に横になってしまった男娼に優しく声を掛け藁床に腰を下ろした。

「おい、やめとけ…もしこいつが地下宮の眷属だったら…」叔父貴が慌てて止めに入る。

「地下宮の眷属がシェム語を話すか?それにこいつが本当にケーミから這い出てきたんなら、どうしてスティックスの事を訊くんだ?こいつらにとっては栖(すみか)じゃねえか?」

「だから、俺達をだまそうとして…」

「そんなら夜明けまで待つさ。ほれ、東の空が明るくなってきた。さっきも言ったようにこいつが眷属なら…」

「そ、そうだな…」

シャンチーをはじめ頭目も、一様に頷いた。

もう少しで破れた屋根からも扉が壊された戸口からも暁の光が差し込み、この部屋一杯に陽光が満ちる。

そして…

朝日が横たわる少年を包んでも、その躯から白い煙が上がることは無かった。

崩れもせず、粉々になって飛び散る事もなく…

夜明けの太陽を受けて一際白く輝く肌を目の当たりにした男は、堪らずにオレンジのベールを剥ぎ取った。

「お前…腰布…着けてないのか…」まくれ上がったトウニカから覗く真っ白な太腿を凝視する男の声が掠れている。

「俺がスティックス河に連れて行ってやる…」さっきは“生贄にするから手を出すな”と言っておきながら…

下からじっと見上げる漆黒の瞳に抗しきれずに覆い被さる。

「あっ、おい、待て!」当然一番に味見をするのは頭目のはずだ…

だが少年の腕(かいな)がしなやかに長身の男の背に回され、トウニカが捲られ青白い臀部が顕わになると、その場で凍り付いてしまった。

自分が唾を飲み込む音が耳に響く。

瞬きも忘れて見入る二人の痴態のあまりの淫靡さに、自然と下履きの下に手を突っ込み自分のモノを擦りだした。

口づけも前戯もない――そんな余裕があろうはずがない。

荒い息を吐きながら、逸物を取り出し、相手の膝を押し広げ腰を浮かせると、窄まり目掛けて押し挿れた。

柔々と推し包み奥へ誘う暖かな肉壁と、所々にある凄まじい圧迫の環が生まれて初めての快感を呼び起こし、あっという間に吐精した。

「俺はカイル…お前は?」男が表情も変えずにただ組み敷かれる少年に掠れた声を掛けたのは、抜かずに…いや抜けずにそのまま三発を放った後だった。

「べリ…」少年は裡に萎えた男根を納めたまま、息も乱さずに答えた。


銀灰色の蜥蜴が床にめり込んだ鉛色の環(リング)を掘り出し、起用に尻尾に嵌めた。

主から手放された環(リング)からはルビーを思わせる石の輝きが消えている。

「くそっ!あいつ…」また勝手にいなくなった。

今度は置き手紙も無い。

どういう事の成り行きかは不明だが、使い魔のサータを放りだしたまま…今度は愛刀の方を持って行った。

戸口から土間には新しい足跡が無数に付いている。

昨夜、盗賊の一団がやってきた事は間違いない。

そしてシェラムは、そいつらに付いて行った。

あの性悪魔道士が夜の闇の中で、どんな大人数の敵といえど、拉致や誘拐といった失態を演じるなどありえない。

それが証拠に、新たな死体も血糊の一滴も無い。

つまり争った形跡が無いのだ。

あるのは…男の放った精の匂いが、まだ残っている。

「また新しい男を咥え込んだのか」思わず舌打ちする。

まさか…一旦気を遣ると淫神のごとくに変貌するシェラムが、その男に惹かれ付いて行ったとも思えないが…

干涸らびた大地には、びっしりと盗賊の足跡が散乱し、昨夜押し入った連中が残したモノがどれなのか見当がつかなかった。

「おい、ヒドラ!お前の主人はどっちに行った?」

ヴァイロンは一晩中掛かって辿り着いた泉から汲んだ水を…弟の為に運んできた水を一気にあおった。

蜥蜴は小首を傾げ、尻尾に嵌めた指輪をじっと見ていたが…

急に外に走り出すと、慣れた様子で黒駒に飛び上がり、長い首を駆け上がって頭のてっぺんに乗った。

――と…黒駒がゆっくりと馬首を返した。

ヒドラの銀色の鬣が逆立って南の方向を示している。

家出したシェラムを追ったヴァイロンは、一度は見失い失意のままタランティアに戻った。

弟の行き先の手がかりを求めて尋ねたアシュラ教の高僧ハドラタスから渡されたのが、この火竜(サラマンダー)のヒドラだった。

“この火竜が必ずシェラム様の元へ導くでしょう”――その通りだった。

大概は黒駒の頭の上で、時には懐に潜り込んで、その鬣と尾の先で行き先を示した。

ペリアスが授けたラカモンの環(リング)はあらゆる妖魔、悪霊を退ける。

その大魔道士ペリアスをして“冥界、魔界広しと言えども右に出る者無し”と言わせしめた霊力を誇るシェラムでさえ、環(リング)の力を発揮されると、まともには抗しきれない。

だが、この地のモノから誕生した火竜(サラマンダー)はラカモンの環(リング)の影響を受けなかった。

逆に蛇神セトの眷属であり闇から召還されたサータは、ヴァイロンが接すれば砕けて消えてしまうだろう。

それを察したのか長い旅を共にしてきたヒドラは置き去られたサータを自分の身に付けて主人の兄を待った。

ヴァイロンは忌々しげに鞍に革袋を結びつけると跨った。

革袋の水は半分以上飲んでしまった。

見つかるまでに全部飲んでしまうかもしれない。

そうしたら、今度はあいつに水を汲んでこさせよう…またしても置いてけぼりを喰った兄は黒駒の腹を蹴った。


今、ベリの裡には頭目の男根があった。

馬を持っているのは頭目と叔父貴のシャンチーと副頭目を気取るカイルだけだ。

そのカイルの男根は萎えたままだった。

朝まで少年の躯を独占したのはいいが射精し続けた結果、腎虚になってしまった。

確かに若い。

若さ故の昂ぶりだった。

それでも“死の恐怖”を感じ、途中で躯を離そうとはしたのだ…だが出来なかった。

まさに精を搾り取られた抜け殻だ。

カイルの本能が察したように、実はシェラムが吸い取ったのは生気だった。

勿論、淫気も吸ったが、来る日も来る日も死人の霊魂ばかりで、生きた人間の生命力に飢えていたから生気が何よりの御馳走だ。

カイルの後は当然、頭目が代わった。

鞍の上に乗せられ、背後から貫かれながらスティックスへの道を辿っている。

荒れ果てた森から岩場…枯れ草だけが茂る、かつて草原であった台地…足場は悪い。

馬上で揺られる度に、裡を抉られ、普通の男娼なら肛門から血を流して悶絶しているところだ。

だが、悶絶しかかっているのは突き挿れた頭目の方だった。

鐙から独特の匂いの汁が滴っている。

それはベリの肛門から溢れた頭目の精だ。

もう何度…いや何十回注いだか解らない。

もう粘りも無く、血が交じって薄い緋色をしている。

それでも馬上で腰が揺れる度に奥へ呑み込まれ、蠢く肉襞に包まれた男根の先から押し挿った何かが射精管を這い上がり、増殖して広がり、ありとあらゆる管を内から犯している。

「ベリ様…ベリ様…」頭目は髭面を背後から擦り寄せて、譫言のように男娼の名を呼んでいた。

犯している側であるはずなのに、声色が女のようだ。

「なあ、本気でスティックス河に行く気か?」

点々と滴る精液を踏みながら背後から付いてきた手下の一人が堪らずに声を上げた。

「こんなガキの言う事を何できかなきゃならねぇんだ?」

「そうとも、あんな悪魔の河なんぞに行くこたぁねえ!みんなで輪姦(まわ)して、さっさと放り出そうぜ」隣で歩を進めていた男も同調する。

「うるせえ…ベリ様が望んでるんだ。黙って付いてこい…」いつもの通り怒鳴りつけたはずの声が掠れて力が無い。

「何がベリ様だ。腑抜けにされやがって」その体たらくな様を見て取った手下達が、一斉に駆けだして、前を遮った。

「お頭、いやクヌン…もうお前の指図は受けねえ!そのガキを差し出して、ついでに馬もよこしな」

「てめえら…」前後を挟まれて歯がみをしながら腰の分厚い山刀の鞘を払った。

だが剥き出しの尻は相変わらず淫靡に蠢いているし、睨みつけるはずの目は充血して視点が合わない。

迫力の無い事夥しい。

おまけに、頭目を倒す前に、始末しなければならない二番手の厄介者も精魂吸い取られ、酔っ払いのように躯を揺らしながら何とか鞍にしがみついている有様だ。

権力交代には、またとない好機だった。

「放せ…」その時馬上の少年が後ろから抱え込む頭目の腕を払った。

「えっ?」

白木の杖を抱えた少年が馬上から、いやクヌンの股間の上から眼前に飛び降りてきた。

手下達の思いがけぬ反乱に、馬を下りて様子を窺っていたシャンチーの前に立つ。

「な、何だ?」

男娼は答えない。

じっと叔父貴を…いや、その背後の空間に目を注いでいる。

太腿を夥しい精液が筋を引いて垂れていく。

胸元から首筋には吸われ、しゃぶられた嬲りの痕が点々と散っている。

その艶めかしさと毒々しさ…それでいてひれ伏したくなるほどに高貴な美貌に圧せられて、シャンチーは握りしめていた手綱を離すと身を翻して逃げ出した。

「そのピラミッドには諸国から魔道士や妖術師が集まるのか?」その背中に少年の問いが浴びせらえた。

足が止まる。

“逃げなければ…やっぱりこいつは人間じゃない!”恐怖で膨らんだ頭の命令を足はきかない。

少年の気配が近づく。

膝がガクガクと音を立てている。

「でも辿り着く者は僅か…そして秘力を得て戻ってくる者は伝説に詠われる程に希少価値…間違いないね?」

“こいつは例の…ケーミの郊外にある廃墟の事を訊いている…”そう悟った途端、背筋が凍り鳥肌が立った。

少年は再びシャンチーの前に回り込んだ。

「お前に憑いている背後の霊(もの)達がそう言っている。だが彼らの知識はかなり古い…だからお前に直接訊ねる」

“そうだ…何よりも恐ろしく…惹かれるのは人の魂まで射すくめる、この視線…”初老の男は黄ばんだ歯をガチガチと鳴らした。

「コーラジャの首都カニリアからシェムの砂漠を越え、スティックス河を渡りケーミを訪れた魔道士に心当たりは無いか?」

「ピラミッドを訪ねてやってくる魔道士は何人もいる…」魅入られたまま、嗄れた声を絞り出す。

「あそこにはこの世で最強の魔力と深淵の秘術が眠っている…だがそれだけじゃない…代々の王家が蓄えた金銀財宝がある…一時はかのアキロニアの蛮王を撃破した秘宝『アーリマンの心臓』もアケロンのザルトータンに奪われるまでは、あの地下に納められていたという…」

「ザルトータン?」アキロニアに帰国後、東宮に籠もって読みあさった戦記にその名が記されていた。

『アーリマンの心臓』により甦った最高神官ザルトータンが三千年前に滅びた古王国アケロンの再興を期してネメーディア王と旧アキロニア帝国の嫡子に担がれてコナンを打ち負かし、忠臣や愛国の士は悉く誅せられた。

アキロニアで一番美しい生首となるはずであったアルビオナが間一髪で助けられ、アシュラ教徒ハドラタスと荒野の魔女ゼラータが放浪を続けるコナンに救いの手を差し伸べたのもこの戦いだった。

「父上…いやコナン王がそのピラミッドの地下に入った事があったのか?」

「そうだ…コナンはザルトータンを裏切り『アーリマンの心臓』を盗んで逃げた奴を追ってケーミの廃墟に潜った。そしてルビーを奪還したという。それでザルトータンは滅びたのだと…」

その通り。戦記にもコナン王の述懐として、同じような事柄が記されている。

戦記は、このように続いていた。

コナンはそれをアシュラ教徒の首魁ハドラタスに託した…と。

もしこの男が本物の『アーリマンの心臓』を見ればその輝きがルビーなど及ぶべくもない…その宝石の中に封じ込められたモノが発する目眩くような紅炎を発して脈打つ宝石とは名ばかりの魔の代物であると悟ったであろう。

未だ運命を知るよしもなく第二王子として暮らしていた幼児期――シェラムはそれをミトラ神殿の地下の洞でデキシゼウスから見せられた記憶がある。

「これこそがアキロニアの権勢の象徴でございます」燃えさかる宝石は幼いシェラムの目には正に“生命の焔”そのものに映った。

ザルトータンを屠ったハドラタスは宝玉をアシュラ教の元に置かず、アケロンが滅びし後ずっと安置されていたミトラ神殿に返した。

それは異教徒ながら『アーリマンの心臓』が諸刃の剣である危険を悟っていたからだ。

だから――「クマリの御身にて『アーリマンの心臓』を拝するはお薦めできませぬ」それが自分を生き神と崇めるアシュラの高僧の言葉だった。

「幼き身にて故国を出られ、アキロニアに縁を結ばれた殿下の星回りを解するには是非とも国勢の証『アーリマンの心臓』を御覧頂かねばなりませぬ」逆にミトラ教の最高神官デキシゼウスは再三再四ペリアスの元に使者を送り、最後には自らが出むいて幼い王子を密儀の洞に招いた。

そして恩師ペリアスは――

「儂にはおぬしの天命が占えぬ。ハドラタスの卦には“否”と出、デキシゼウスの卦には“是”と出る…同じ天空の星々を覧じながら、時に正反対の卦を生ずる…お前が宿す運命は複雑過ぎる。『アーリマンの心臓』に心惹かれたならデキシゼウスと共に行くがよい。全てはそなた自身が決める事じゃ」と言った。

あの時、見ておいてよかった…と今のシェラムは思う。

エペミトレウスの力で甦り、ヒトの身で無くなった現在の自分が『アーリマンの心臓』と接したら…互いの力がぶつかり合って大爆発を起こすかもしれない。逆に呼応しあったとしても力が増大し過ぎて同じく壊滅を招くだろう。

いや、全く予想も付かない…文字通り人知を越えた結果が生じる可能性もある。

だからこそヒトの身を捨てずに魔道士となった師ペリアスは敢えて、その結末を探らなかった。

“否”としたハドラタスの卦はアースラ大神の気を募った分、化身クマリの先を読んでいた。

“是”としたデキシゼウスの卦は、あの時点では合っていた。彼は私の命運が『アーリマンの心臓』の力でもっと先まで読み取れるかと、あの洞に誘ったのかもしれない。

“否”の運命も“是”の宿命も“不読”の天命も…全てが正しかったのだ。

だが、今になってペリアスが結末を知りたいと望んだとしたら…

成り行きとはいえ、英霊エペミトレウスの持つ霊力――父コナンの愛刀に瞬時にして不死鳥の力を与えるほどの強大な“生命体(エネルギー)”を、そっくりそのまま愛しい弟子の遺骸に注いでしまった。

それ故、新たな命運を開いてしまった弟子への責任を感じ、少しでも先を読むモノを得んと魔道発祥の地ともいえるステイジアを目指したとしたら…

タランティアの離宮で何度も恩師の行方を占った。

その師から譲り受けた…幼い時から、これだけは肌身離さずにいた水晶球は南に行くほど曇り、黒くのたうつ河をぼんやりと映した先は白濁して何も見えなかった。

それはペリアスが自らの意志で行方を隠すために施した事だと…タランティアではそう思っていた。

だが…

“違うかもしれない”――実際にステイジアという国に入って思いは変わった。

何か途方もなく大きな力が、外からの監視を強力に拒み、跳ね返している。

黒くのたうっていたのがスティックスという河だ…ここまで来てやっと解った。

だから恩師はその先に…スティックス河の向こう岸にいる可能性が高い。

この男達から得た情報では、向こう岸にはケーミという古い港街があって、さらにその郊外の廃墟に強大な力を持つ何かが群れをなして潜んでいるらしい。

こいつらと街に入るのは時間が無駄だ。

疲弊したといっても役人はいるだろうから、咎め立てされて要らぬ詮議を受けるのは、やっかいだ。

運良く役人の手をすり抜けたとしても、街の人間の目はごまかせない。

彼らはよそ者を排除したがる。

それはメッサンティアで懲りていた。

上手く街外れを迂回して郊外へ出る道はないか?

「お前はケーミという街に詳しいの?」しばらく思案に耽っていたシェラムは、再びシャンチーに向かい口を開いた。

答えはない。

訊いた相手は眼を見開いたまま、呼吸さえも止まってるかに見える。

まさに失神寸前だった。

それは息も絶え絶えで鞍にしがみついているカイルも、勢いで抜いてしまった山刀の重みでふらつくクヌンも同様だ。

眼前で起こっている惨劇の衝撃で誰もが凍り付いている。

得物を手に前後を取り囲み、今にも飛びかからんばかりの勢いであった手下達が全員真っ黒になって地面をのたうち回っている。

いや、いた…と言った方がいい。

今、あちこちに転がる人間だったらしい黒い固まりは、既に死体になり掛かっている。

時々グビグビと蠢くモノがあったが、呻き声も聞こえなくなった。

黒いモノ……それは地面から沸き上がってきた。

あっという間に男達の躯を覆い尽くし、目と言わず鼻と言わず、口からも中に入り込み、手当たり次第に鋭い顎で抉り取ると小さな肉片にして地下の巣穴に運んで行く。

悲鳴と絶叫が乾いた台地に響き渡り、三頭の馬は怯えて嘶いた。

蟻だった。

服の隙間に潜り込んだ小さな凶虫は、柔らかい場所を探しては、皮膚を噛みきって裡に潜り込むと、内臓を食い破る。

鋭い顎で噛みきられ、蟻酸で溶かされる痒みと痛みに文字通り七転八倒する手下達は、逃げる事もできずに蟻だらけの土に伏している。

「助けてくれ…」シャンチーが嗄れた声を絞り出し、逃げようと身を翻した。

「動くな!」男娼の腕がすばやくその身体を羽交い締めにした。

「お前には私の体液が付いていない…動けば蟻に襲われるぞ」

「ひえ…」叔父貴はさっきよりも、もっと派手に震えだした。

「カイル、クヌン…お前達の男根には私の裡からしみ出たモノが付着しているから動いても大丈夫だ。馬を先に進めろ」

そう言うとシャンチーを抱き取ったまま馬の鐙に足をかけ一気に乗馬した。

「お前は、こうして私の腕の中にいる限り大丈夫だ」何が起きたか解らずに固まったままの叔父貴の耳元に囁く。

「こ、こいつらは?ベリ様…」クヌンが震える腕で、やっと山刀を鞘に収めた。

「蟻の餌になって貰った。食いでがあるだろうが、こいつ等の食欲は限りが無いから今夜獣が集まる頃には骨になっているだろう」

ゆっくりと馬の首を回し、カイルとクヌンの間に入った。

「こいつらは最初からスティックス河に行くつもりがなかったし、ケーミという街に行くには大人数で目立つ。邪魔だから消した…」

「うう…」裏切ったとはいえ何年も寝食を共にしてきた仲間達だ。

「カイル…お前は“スティックス河に連れて行く”と言って私を抱いた。契約は果たして貰う…」

「クヌン、お前は私に帰依した。だから助けた。これからも私の手足となって働けばイイ思いをさせてやろう」

「シャンチーだったな?今夜はお前に抱かれてやってもいいぞ…その代わりケーミのピラミッドで知っている事は全部しゃべって貰おう」

片手なのに慣れた手つきで手綱を操る男娼の腕の中でシャンチーの躯の震えはこれ以上に無いほど激しくなり、顔は土気色だった。

「いらぬ時間を取った。急ごう…だが、その前にクヌン、先が腫れ上がっているソレをしまえ」

その口調は生神クマリにしては人間臭く、次期皇帝にしては下卑ている。

そして人外の者と自称する魔道士としても…。


ケーミは南の大国ステイジアきっての最重要都市である。

国王はさらに年代を遡る古き都、ラクサラに居住しているが、その統治はこの河口の港湾都市には及んでいなかった。

ケーミを支配するのは、砂漠に連なる廃墟に力の源を求める古代神、人頭蛇体の暗黒神セトを信奉する神官達だ。

ステイジアは異国人を嫌う。

純血を尊ぶ。

よってケーミに住まうのはステイジア人のみであった。

例外はクシュ人を筆頭にもっと南に位置する未開の暗黒諸国から連れて来た黒い肌の奴隷達だが、ステイジアの民にとって彼らは人間ではない。

その為、大河スティックスが流れ込む海洋との接点にありながらこの湾岸には漁船らしき船影以外の船は見あたらなかった。

ここに船を繋げる外国船は王都ラクサラに向かう外交使節団に限られていた。

だが今のステイジアに使節団が訪れる事は殆ど無い。

古代から伝わる文化には、もはや学ぶべきモノ無し…というところだろう。

ハイボリア諸国に啓蒙思想が広まり経済活動が活発化してから、魔の領域と畏れられたステイジアは時代の流れから取り残され落日の一途を辿っている。

だが陽が落ちるとすぐに街中に人影が消えるのは、寂れている…だけの事ではなかった。

コナンが“アーリマンの心臓”を奪いに訪れた時、セト神殿の地下から這い出した大蛇が街中を彷徨き、僅かに残った人間を襲うのを見た。

勿論、この蛮王は逃亡の身であることも忘れ“セトの聖なる御子”を誅した。

それから二十余年が過ぎてその次子が再びケーミの城門を潜った時、その町は一層ひっそりと夜の闇に沈んでいた。

「ベリ様、中に入るのは夜明けを待ちましょう。ここには獲物を求めて彷徨く大蛇が…」

シャンチーも今は拾った男娼を“ベリ様”と呼び敬語を使っていた。

こうして時折、セトの御子の食事時間を知らずに迷い込む旅人が餌になる。

未だに神殿で飼われている大蛇は神官が調達した奴隷の頭数が足りないときは、そういう不運な異民族を求めて、相変わらず闇夜の町を徘徊していた。

「大蛇ね」少年のシェム語は抑揚がない。

それが酷く恐ろしく聞こえる――人間がしゃべっているのだろうか?と…

裏切ったとはいえ、仲間達の壮絶な最期を思い出せば、どうしてこの少年が人間であると言えるだろう。

だから…

「行くよ」少年が夜間も開け放たれている城門から町に入るのをそれ以上は止めなかった。

今や従者であり、信者となった三人は“ベリ様”の後に続いて恐怖の町に足を踏み入れた。

ズルッ…ズルッ…ズルル…

鱗つきの這う独特の…背筋を凍らす音が聞こえてきた。

逆に大蛇は久しぶりに聞く人間の足音を追ってきたに違いない。

「ひああー!」シャンチーの頭上に真っ赤な火の玉が2つ浮かんでいた。

“ベリ様”はそのまま前に進んでいく。

鎌首を擡げた大蛇がその首を下げた。

シュウシュウ…と生臭い息がする。

胴を巻き付け、骨まで砕いた肉塊にして一呑みに…大蛇の思惑は獲物から発する気の威力で粉々に萎えた。

「案内しろ」ステイジア語での命が解ったのか、大蛇はその巨大な身体の向きを苦労して変えると、今這ってきた道を戻り始めた。

「ど、どこに?」

「セト神殿…正確にはその地下だ」

「もしや?」

「そうとも、お前が教えてくれた。廃墟のピラミッドに巣くう魔族に生贄を献げ、人外の秘術を授かるのはセトの神官達だと…だったら神殿が砂漠の地下で繋がっていると推理するのが自然だろう?」

恐ろしい…よりによって蛇神セトの魔窟に自分から飛び込むなんて…

それでも三人の歩みは止まらなかった。

少年の背をフラフラと追う。

松明どころか小さな灯明も無い真っ暗な街路…それも段々に狭まり壁の裂け目としか思えぬ場所を抜けていく。

あの火の玉が両眼だとしたら、先にたって進む大蛇はそうとうの大きさだ――どうやってこんな細い所を抜けられるのか…少年に魅入られたシャンチーだったが、意識ははっきりしていた。

疑問の答えは分かっている…ここはケーミだ。ましてやセトの御子とあのベリ様…人外の領域に棲まうモノだ…少しばかりの魔術や占術を囓ったからとて“人間”の自分が解せる事ではない。

皮肉なことにそこは父コナンが大蛇を殺した時、街中の信者…いつかは大蛇の餌になるべき市民達から“セトの御子を殺した冒涜者”として追われ、迷い込んだ地下通路へ降りる道だった。

城門の向こう、砂塵に隠れて微かに影を見せる廃墟の群れ…どこにその…伝説の力を持つ闇の眷属が潜んでいるのか見当も付かない。

一つ一つ地に潜って手探りで探検してみるのも今までの気まま旅なら一興と思うが、一刻も早く恩師と再会せねばならぬ現在の自分には、そのような暇は無い。

一番効率よく闇の権力者の棲む場所に辿り着くには、どうしたらいいか?

シャンチーは“セトの神官がその力のおこぼれに預かる為に今でも生贄を献げているのだ”と言った。

ならば、神官が通う道のみが目指すピラミッドの地下に通じているはずだ。

このセトの御子に付いていけば、やがて神官に出くわすだろう。

そうしたら、そいつを道案内にして…盗賊三人を案内人に仕立てた手順と同じだ。

行く手にチラと炎が見えた。

“静かに…”お互いの息遣いと足音だけを頼りに付いてきた背後の三人に身振りで身を潜めるように示す。

ズルズルと這い進む大蛇の尾はそれでも両手で握り余る程の太さがあった。

“でもサータには負ける”セトの眷属を扱い慣れた少年は尾を掴むと背に這い上がり、そのまま神殿の一室とおぼしき――炎の見えた場所に大蛇と共に消えていった。

灰色の胴着が灯された松明に鈍く光っている。

跪いてセトの御子を迎える神官達は一様に絹の衣と沓に身を包んでいた。

背後に天鵞絨とおぼしき帳が掛かっている。

神官の頭上で飢えた蛇は鎌首を擡げると大きく口を開いた。

正面にいた神官が長い棒を蛇の鼻先に近づけた。

すると大蛇はそれを避けるように、一気に帳の後ろに頭を突っ込んだ。

そこから先はまた地下に落ち込む洞窟になっているらしく…大蛇は暗黒の坑に身を躍らせた。

慌ててシェラムは背から飛び降りると帳の背後に隠れた。

“松ヤニだ”独特の匂いが漂ってくる。

棒の先にベッタリと付着させた松ヤニは爬虫類の嫌うモノだった。

“神官のくせに親神の御子にあんなもの突きつけるなんて…こいつらホントにセトを崇めているのか?”

魔道士教育を施されたシェラムにしてみれば“神官とは身を献げて神を鎮めねばならない者”であるはずだ。

一人、二人は犠牲になるだろうが、それも神の思し召し…御子に喰われてその血となり骨となるなら神官としてこれに勝る栄誉は無いだろう。

そうでないなら自分のようにセトの眷属と言えども従わせるだけの力を持てばよい。

そんな力も無いなんて…ピラミッドに通って力を分けて貰ってる割には大きな“気”は感じない。

こっちが期待してる程、廃墟に潜む力は大したことがないのか?それともこんなに微力だからこそ生贄を献げてまで助力を願うのか?

駝鳥の羽を織り込んだ帳を透かして神官の行動を探る。

松ヤニを持った神官の前に顔を覆う仮面が差し出された。

黄金のマスク…だと解るが、かなり年代を経たモノらしく輝きは鈍い。

左右にいた神官達も仮面を付ける。

互いに助け合いながら仮面を被り、外套を着る。

黒色の外套を纏うと顔も身体もスッポリと覆われてしまった。

戸口にいた背の高い男が松ヤニの棒を受け取るとその他の仮面の一団は列になって部屋を出て行った。

“しめた!”

祭祀では重要な式典ほど、ああいったマスクが用いられる…ペリアスの元で研鑚を積んだ魔道士としての知識だ。

シェラムは松明の明かりが届かぬ暗がりを選びながら戸口に近づくと、背後から残った男の首を絞めた。

絞殺のタイミングは相手が息を吸いこむ瞬間…これは兄ヴァイロンの教えである。

助けを呼ぶことなく、悲鳴すら上げずに男は敷石に倒れ込んだ。

「おっと」松ヤニの棒が床に落ちるのを防ぐ。

「危ない、危ない。こんなのが転がったら大きな音が響いちゃう」

「さてと…」三人を呼んで、あの神官達と入れ替わらなくちゃ…

で、後ろから何食わぬ顔で付いていく…

完璧だな、私の作戦!

褒めて欲しい…と思い出した顔は兄だった。

いっけない!また置いて来ちゃった!

怒ってるかな?ガイ…急いでカタを付けて早くあの村に戻らなくちゃ…

足手まといになったら、こいつら三人は適当に巻いちゃえばいいし…面倒なら消しちゃうか…

だって戻る時はペリアス先生が一緒かもしれないから――傍若無人が信条の王子様は脳天気にそう考えていた。


砂に埋もれかけ、半分から折れた列柱が黒々と並んでいる。

崩れた廃墟の真ん中にヴァイロンは立っていた。

黒駒はケーミとおぼしき城壁の手前の森に置いてきた。

そこはスティックス河の支流が潤す水でオアシスになっている。

草も水もふんだんにあるから飢えることは無い…だが、いつ戻れるか解らないから繋ぐのは止めた。

ケーミの兵隊に見つかり、横取りされるかもしれないが…その時は奪い返せばいいだろう。

銀の蜥蜴はまっすぐにその森に主人の兄を誘った。

そこに三頭の栗毛がいた。

鞍から生々しい…精の匂いが漂ってくる。

「お前らの主人は別腹が空いたみたいだな」

肩に乗った蜥蜴とその尾に嵌った指輪に声をかけた。

「シェーラは城壁の中か?」オアシスのほんの目と鼻の先に黒々とした壁が長く続いている。

尻尾に鉛色の輪(リング)を引っかけた蜥蜴は金色の目をギョロリと剥くと中天を睨んだ。

闇の空を黒雲が飛んでいく。

ヒトの目には墨一色の真っ黒な夜空でも、火竜(サラマンダー)の目には刻々と移り変わる空模様が見て取れた。

――ナニカガ動キ出シタ――肩から飛び降りると城壁に向かわずに砂漠に向かって走った。

ヴァイロンは砂に小さな足跡を残しながら小走りで進む蜥蜴の後を追ってゆっくりと歩き出し…そしてこの廃墟の…かつては神殿へと進む大路の中央に着いた。

風の勢いは砂漠に出る程に増した。

狂ったように雲は後方に飛んでいく。

巻上がった砂が顔面を叩くのを防ぐためにカワイアを深く被り直した。

時折こちらを振り返りながら走り続けていたヒドラがピタリと止まり、低く身構えた。

風は正面から吹き付けてくる。

砂塵の中に黒い塊が見えた。

それはゆっくりと進んでくる。

“人間か?”

こんな真夜中に砂漠のど真ん中…それも邪な呪いが掛かっているという噂の廃墟を行進する一団があるとすれば…

セトを奉じる神官か…それとも…

影のような一団はヴァイロンを取り巻き円になった。

風の音か、こいつらの笑い声か…“ヒィ…”“ヒヒィ…”という音が敏感な聴覚を刺激する。

不快だった。

輪が縮まってくる。

殺気は感じないが、嫌悪は感じる。それだけで十分に“消す”理由になる。

ヒトであろうが魔物だろうが、ぶった切ってやる!

ヴァイロンは迷わず段平を抜いた。

「お待ち!」甲高いステイジア語が風を切り闇を裂いた。

円の中心に白い人影がフワリと浮いた。

黒い影は一斉に引いて闇に溶けた。

と――ヒドラがヴァイロンの左手に飛び移ると長い鬣ごとくるりとその中指を巻いた。

まるで銀の毛皮で出来た指ぬきを嵌めているように見える。

ステイジアで伝説となった古代王朝ツタモン…その末裔とおぼしきスラリとした背と象牙色の肌、そしてルビーのピンで結い上げた黒髪を持つ半裸の美女が立っていた。

「ああ、蒼い眼…あの蛮人と同じ蒼い眼…」

漆黒の大きな瞳がキラキラと輝き、真紅の唇が艶めかしく光る。

金糸の刺繍が施された天鵞絨の沓と細かな宝石が縫い取られた腰帯…それだけを身につけた美女がじっとヴァイロンの顔を…カワイアの奥を覗き込んだ。

白桃の乳首を飾るたわわな乳房を惜しげもなくさらし、剥き出しの太腿から時折覗く奥の翳りを恥じらう風も無い。

小さな臍が息づく腹からくびれた腰、なだらかな背中の稜線から高く張った豊かな尻のまろみを誇らしげに突き出し、抜き身の段平も男の太い腕も畏れない堂々とした態度――それは高貴な育ちの娘が見せる、誰も彼もが自分の下僕であり羞恥の対象にすらならない存在であるという教育を施された者の証だった。

「この腕、この胸板、この逞しい身体…」女は豊満な姿態を擦り寄せた。

「待っていたわ、ずっと…蒼眼の戦士が再び私の元に戻ってくるのを…」女の指が這い回るのにまかせながら、ヴァイロンは油断無く女の様子を観察した。

“生身だ”…人間かどうかは解らないが、少なくともシェラムが付き合っている幽霊、怨霊の類ではなさそうだ。

“以前に交際していた男と俺が似ているというのか?”

女の仕草や感極まったような言葉からは、罠に嵌めようという、わざとらしさは感じられなかった。

そんな小賢しい事などしなくても、自分が望めばこんな行きずりの男の一人、どうとでもできる――女の態度はそんな自信に満ちている。

ヴァイロンは舌打ちすると段平を鞘に戻した。

「今夜の饗宴は中止だ。王が帰還された。長い間待っていた私の夫が帰って来た。これから…ずっと…私達は地下の宮殿に籠もる」女は厳かに告げた。

ピタリと風が止んだ。

黒いヒト型がワラワラと動いた。

「さあ、来て…私の愛する人」

「何処へ?」腕を組んで誘おうとする女を引き戻す。

「地下の神殿によ、あなた…」

「セトのか?」ヴァイロンのステイジア語の師はシェラムと同じペリアスだ。

だが弟のように正規に学んだ訳ではなく、ロードタス河畔のペリアスの館に押しかけて住み込みの内弟子となってしまったシェラムを訪ねるうちに耳学問…つまり聞きかじって覚えたものだから殆どが主語と述語のみの単純な会話しか出来なかったし、女の話す言葉の意味も半分程が解せなかった。

しかし蛮人の息子は諸国を流浪しながら身につけた語学力で、この半裸の女の発音も使う文体も自分が聞いてきたステイジア語とは微妙に異なっている事に気づいていた。

それがペリアスのように古文書に精通し、この封土の暗黒の歴史を学んだ者なら前王朝ツタモンの王都でやんごとなき宮廷人によって語られた古代ステイジア語と解しただろう。

深夜、ケーミの廃墟を徘徊する古代語を話す身分高き美女…

「そうよ…恐ろしい?」もし最も忌まわしく、また最も美しき永遠の若さのシンボルとして詠われ続けた伝説を思いだしたならセトの眷属など比較にならぬ恐怖におののき、腰を抜かすか、狂うか…

「いや…」キンメリアの直系は剛胆な気質を示した。

「そうでしょうとも。それでこそ私の夫だわ。でも安心して…もうセト神がかつて持っていた神威は無いわ。あるのはその僅かな名残を恐怖し、有り難がる馬鹿な神官共だけ…」

「神官はここに来るのか?」セト神が怖いのではない。騒ぎを起こしたく無いだけだ。

男の声の僅かな緊張を女は聞き逃さなかった。

「ええ、朝になれば供物を献げて来るでしょう…それに王墓の埋葬品を狙う盗賊もね」

「俺を脅そうとしても駄目だ。盗賊は夜に紛れて来る」

「誰があなたのような戦士を脅したりするものですか。他はともかく、ここでは違うわ…夜はいかなる者であろうと近づかない…近づくことは許されない…」

「だが俺はここに来たぞ」

「…そうね…」一瞬、女は“なぜ気付かなかったのか”…といういぶかしげな表情を見せた。

「お前の言う地下の神殿にコーラジャから来た魔道士はいるか?」それこそがステイジアを目指した旅の目的だ。

「コーラジャ?それは何処?国の名?」

「ステイジアにいてコーラジャを知らないのか?」コスの砂漠を越えればコーラジャだ。

確かに最西端のケーミからは正反対の東の国境寄りの国だが、交易で栄えるコーラジャはステイジアとも国交を繋いでいる。

“おかしい”…キンメリア人の野生が危惧を知らせた。

「暗黒の力を求め、やってくる者は毎日いるわ。地下の神殿までは降りられる。でも深淵に辿り着ける者は殆どいない…あなたの尋ね人はどれ程の力を持っていて?」

「人間を生き返らせる手段を知っている」厳密に言えば生き返らせる力のある者と交信できる。

女の大きな瞳がキラリと光った。

「そう…それならきっとピラミッドの最下層に辿り着いているはず…そここそが、この地の秘める真理の力が封じられた場所と聞いているわ。あなたが神殿で過ごしてくださるなら案内してあげる」

「…………」話がうますぎる。

だがセトの神官がやってくるのは、本当だと思う。

今まで通ってきた荒れるに任せた廃墟とは違う。

人が通るための道が整えられている。

奴らに見つかれば厄介だ。

弟に“揉め事はおこすな”と再三注意しておいて自分が事を興す訳にはいかない。

手っ取り早く回避するには…

「よし、付き合ってやろう」ヴァイロンは女の細腰に腕を回した。

「ああ、その逞しい腕で早く私を抱いて」真紅の唇を震わせ自分から縋り付いてきた女の高く盛り上がった尻の感触を味わう振りをしながら、周りを取り巻くヒト型らしきモノが、何らかの…嫉妬や殺気や警戒の気配を漂わせるかを観察した。

“こいつら、木偶か?”無反応だ。

生気が全く感じられない。

逆に女は情欲に燃えた瞳をぶつけてくる。

そこから先はなだらかな坂道になっていた。

裸体の女に腕を絡められたまま、ゆっくりと降っていく。

周囲の闇は変わらない。

むしろ風が止んで闇が濃くなった気がする。

“空気が変わった”と気づいた時、ヴァイロンはピラミッドと呼ばれる古代王墓の中にいた。


後ろから一人づつ襲っては身ぐるみ剥いですり替わった。

倒した神官は通路の窪みに押し込みはしたが、3つの死体のどれかはいずれ発見されるだろう。

そうでなくとも“完璧な作戦を遂行中”のシェラムが殺した神官は、そのまま広場に倒れている。

別にバレたらバレたで構わない――“完璧な作戦”には何ら影響が無い。

神官の背後霊に聞きただせば、嘘偽りの無い情報が聞き出せる。

ただそれには、こちらもある程度の霊力を行使しなければならないから、地下の深淵で蠢く力に察知されてしまう危険があった。

仮に敵意が無いとしても何らかの反応を起こすだろう。

もし訪ねる恩師がその近くにいたら…どういった現象を起こすか解らない以上、慎重に成らざるをえない。

だから出来るだけ揉め事を起こさずに…黙って案内して貰うに越したことはない。

“ガイ、今のところ揉め事は起こしてないからね”仮面の下のシェラムの表情は珍しく硬く、緊張していた。

小柄なシャンチーは神官から奪った黒衣の外套の裾を引きずる音が気になるのか、歩みを止めては上にたくし上げていた。

その為どうしても集団と間が出来てしまう。

先頭の二人が松明を掲げているので、遅れても灯りを頼りに追いかければいいと…油断した途端、視界から灯りが消えた。

「え?」暗闇に取り残され、慌てて走り出したシャンチーは壁に激突した。

「ぎゃふ!」いつの間にか…行列が通過すると同時に隠し扉が閉まったらしい。

「ど、どうしよう…ベリ様やクヌンが…」仮面のお陰で鼻が折れたり、たんこぶが出来るような事はなかったが、ぶつけた額は仮面に擦れて腫れ上がりヒリヒリと痛んだ。

だが、それよりもセト神殿の…それも呪いのピラミッドに向かう地下道に一人取り残された恐怖が身を包んだ。

闇の奥から今にもセトの眷属が這い出して来そうな予感に怯える。

カイルやクヌンは少年に呆けたように魅入られていた。

だが恐る恐る従っていたシャンチーは違う。何がなんでも“ベリ様”の後を追わねば…とは思わない。

“逃げよう!”

外へ出るには今まで通ってきた路を逆に辿ればいい。

手探りで壁づたいに進んだ。

と、知らずに手のひらが飛び出していた壁岩を押した。

「うわーっ!」縋っていた壁が急に消えてシャンチーの体は真っ逆さまに暗黒の坑に落ちていった。

ゴリゴリと音を立てながら閉まる扉は、その長く続く悲鳴を遮り再び元の変哲のない石壁に戻った。


神官の一団は大回廊を真っ直ぐに進む。

その路はかなりの傾斜で地下に下っていた。

時折先頭の掲げる松明に右に左にと口を開ける暗黒の拱門(アーチ)が浮かびあがるが、神官達は一向に曲がる気配はなく、ただひたすら地底に向かって坂道を降りて行く。

一団は細長い部屋に行き着いた。

さすがのシェラムも見たことが無い黒い蝋燭が七本の燭台の上で不気味な部屋の概要を照らし出している。

天井から壁、床に至るまで磨き上げられた黒曜石が輝く。

古代遺跡の地下にあって最も重要な…高貴な遺体を埋葬する棺室であるべき場所だろう。

黒曜石にはびっしりと古代ステイジアの装飾文様が刻まれている。

そして細長い部屋の最奥には同じ文様で飾られた象牙の棺が安置されていた。

そこにこの王墓の主である古代王族の木乃伊が眠っているはずだ。

ただシェラムがいぶかしく思ったのはその隣に置かれた黒檀の寝台だった。

まるで棺と対になるように寝台がある。

キンメリアの血を引く少年の眼は揺れる蝋燭の明かりでも最奥の寝台に被せられた黒天鵞絨が日常使われている…埃や塵の積もっていない状態で有ることを見抜いていた。

“ここで生活をしている者がいるのか?”

最初はこの神官達が寝泊まりして交代で祈りを捧げているのか…と思ったが自分達が来た時、先任者はいなかった。

それどころか壁に開いた大小様々な拱門(アーチ)の向こう…漆黒の闇を酷く気にしている。

それぞれの門の前に見張りが立ち、気配や物音に神経を尖らせている。

シェラムもカイルやクヌンを導き、彼らと同じように門の前で耳をそばだてる真似をした。

だが神経は棺と寝台の前に置かれた暗色石の卓台に献げ物を盛りつける松明を掲げ先頭を歩いていた二人の神官の動きに注がれていた。

彼らは怯えていた。

それは先ほどの大蛇…自分達が信奉するセト神の御子に対する態度など及ぶべくもない有様だ。

まるでこの部屋の住人が留守になるのを待って訪れ、戻る前に去ろうとしているかのようだった。

こんなに恐れながら供犠を献げるなんて…止めればいいのに。

それでも、こうしてご丁寧に仮面を被り祭式の外套で正装し、隊列を組んでやってくるというには訳があるはずだ。

献げ物を怠ればどうなるのか、祀りを止めてないがしろにすれば何が起きるのか――彼らはそちらの方がもっと恐ろしい…取り返しの付かない事態に成ることを知っているのだ。

観察に余念がない少年の右にいた神官が手を挙げた。

神官達はそそくさとその反対側の拱門(アーチ)に向かった。

さっき来た門ではない。

松明を持つ者が先頭ではない。

もう官位や隊列など二の次で先を争って部屋を出て行く。

シェラムは一瞬迷ったがクヌンとカイルを手招きし今まで自分が見張っていた門をくぐり闇に身を潜めた。

あの分では消えた仲間がいる事など解らないだろうし、神殿で転がっている死体が発見されるまで騒ぎは起きないだろう…

そう予想してほくそ笑んだシェラムの顔に緊張が走った。

右隣の門から異様な気配が伝わってきた。

人間のモノじゃない…

“あの神官達、ホント命知らずだよ。よくもまあ、こんな連中が跋扈する地下王墓にゾロゾロ隊列組んでやってくるもんだ”

だが本当はセトの神官達には押し寄せる気の正体が感じ取れていないだけだ。

並の魔道士や神官レベルでは、察知できない。

微かな気配から、その奥に隠された威力まで看破できるのはシェラムの卓越した霊覚ゆえである。

西域第一の魔道士ペリアスをして『我が言うのも憚られるが、冥界、魔界を合わせても、あれの右に出る者はおるまいよ』と言わしめたシェラムの霊力は、このピラミッドの中枢に向かう道程からさらに強く増大していた。

“え?あれ?この気…”

右の扉が開くと半裸の女が躍り出た。

あの後ろから――“ガイーッ!!”

“な、なんで?なんでガイが?”驚愕しながら疑問が湧く――“こんなに近づくまでどうしてガイの気配に気付かなかった?”

黒色の蝋燭に照らされた左手には――ああ、ヒドラが…そういうことか。

そのおかげで、こいつらガイの強力な力が解らないんだ。

こいつら…半裸の女に傅くように黒い影がウヨウヨと彷徨いて、いつのまにか長方形の部屋一杯に群れていた。

クヌンとカイルの震えが感じられる。

ガイと半裸の女はともかく、どうやら黒い影達の姿も“人間の目”に映っているようだ。

後ろを振り向かなくても恐怖で見開いた目と蒼白になった顔が解る。

シェラムの背後に身を縮こませる二人の息づかいが荒くなった。

影達の動きが慌ただしくなった。

言葉にならない言葉…だがシェラムには聞こえる。

“ニンゲン…ニンゲンの気だ”

“生きたニンゲンがいるぞ”

“おお…生気が匂う…”

“何処ぞに潜んでおるぞ…”

“上手そうな匂いじゃ…”

“探せ…”

“探せ…”

“チェ!気づかれたか”シェラムは舌打ちした。何かの役に立つかと思って連れてきたけど、やっぱり足手纏いか…

さあて、こいつら何に弱いだろう?

地下に潜んでいるんだから外気か…それとも陽光…相手の弱点を模索する。

どちらにしても隠れ家のピラミッドごと潰してしまえば、後腐れ無く一気に片付く…とは思うのだが――兄がいる以上、手荒な事はできない。

この二人は潰れても構わないが、兄は困る。

“もう、どうしてガイがいるんだよーっ?何も出来ないじゃないか!”少年魔道士はキリキリと歯がみをした。

「静かにしや!」

甲高い声は古いステイジア語だった。

ペリアスの元で古文書の研鑚を積んだシェラムには、それがとうに滅びた古代王朝のものと同じ…まさに古典といえる文体であると知る事ができた。

「王のご帰還と言ったであろう!みだりに騒ぐでない」

黒い影は女と…どういう訳かその女に腕を絡まれた兄の前にワラワラと寄り集まって平伏した。

“なんだ?あいつら…あの女の使い魔か?”だが、それにしては…

それにしてもガイもよりによって、あんなヤツに連れ込まれるなんて。

シェラムの眼には古代ステイジア語で兄に愛を囁く赤い唇の中に隠されたモノが見えている。

あいつが狙っているのは…ガイの喉だ。

女がヴァイロンのカワイアを剥いだ。

乱れた金髪が黒色蝋燭の明かりを弾く。

一瞬、女がひるんだ。

「どうした?」ヴァイロンのステイジア語も訛りがひどい。

「いえ、何でもないわ…ただ貴方の髪が遠い昔に見た太陽の光を思い起こさせたものだから…」

“太陽…”

“太陽…

“恐ろしや…”

黒い影の群れに動揺が走った。

“何だ?あいつら、やっぱり太陽が怖いのか…”シェラムの眼は遙か上の天井に向いた。

夜になるのを待って城門を潜った。

あの大蛇についてセト神殿に入り、その後神官達と共にここまでやってきた。

大分時間が経っている。

“そろそろ夜明けか…もう朝になっているかもしれない”

シェラムは仮面を外し、外套を脱いだ。

薄汚れたオレンジのベールも闇の中では解らない。

後ろの二人にも仮面を取り、頭から外套を被るように身振りで指示をした。

黒い蝋燭の光が揺らめく天井に眼をやる。

“よーし、いざとなったらあの部屋の天井から真上にある石壁の一点だけをぶち抜いて陽光を入れよう”シェラムは愛刀を引き付けた。

ヴァイロンはもう警戒心を隠さなかった。

耳元に口を寄せて睦言を囁く女の息が首筋に掛かると、何故か背筋が寒くなる。

「遠い昔に見た太陽?」呟きながら顔を背け、右に安置された棺の蓋を見た。

棺の主の風貌が細かな象牙のレリーフで飾られている。

「えっ?」

そこに描かれているのは―――

ケーミの廃墟…地下の王墓…古代ステイジア語…徘徊する黒い影…棺のモデル…

まさか?――

まさか!――

ヴァイロンの脳裏を伝説の…呪われた王女の名が駆けめぐった。

肌が総毛だった。

その瞬間、愛を囁いていた唇が耳の真下に吸い付いた。

「何をする!」ヴァイロンは女を突き飛ばした。

首筋に小さな穴が2つ並んでいる。

そこからタラタラと血が滴るのが解った。

「馬鹿な…蒼い眼の男はみんなこんな力を持っているの?」

「私の唱える呪文が効かないなんて…」ヴァイロンの一撃で寝台に倒れ込んだ女は信じられぬと言う表情を一瞬かいま見せた。

だがすぐに餓えと欲情に満ちた顔に戻る。

血の臭いが部屋に漂い初め、平伏していた黒い影が一斉に蠢きだした。

「愚かな男…黙って血をよこせば夢うつつのうちに永遠の若さと命を手に入れられたものを…お前も以前迷い込んだ蒼い眼の大男と同じ大馬鹿者だわ」

ヴァイロンはゆっくりと後ろに下がった。

「お前の血はあの男と同じ味だわ。なんて命に溢れているの…あの時は逃したけれど、今度こそ最後の一滴まで頂くわ…」舌なめずりする唇から真っ白な牙が覗いている。

棺の蓋をおしやる。

そこにあるべき木乃伊は無かった。

「お前…アキヴァシャか?」

「ふふふ…」女は妖艶な笑みを浮かべながら寝台から身を起こした。

「そう、我こそは不死の娘…」

その瞳が紅く変わり唇が血の色に濡れた。

「闇の王に身を献げ、代わりに永遠の命と美を授かったツタモンの王女…以来一万年が過ぎて私の名は美を讃える詩人に歌われ、背徳の画家は私の姿を夢想して名画を残した…恋い慕いながら大理石に私を刻んだ彫刻家は死んでも作品は王侯貴族の財宝と並んで飾られているわ」

ヴァイロンは段平の柄に指をかけた。

「ほほほ…本当に愚かね。私がアキヴァシャだと気付いた今も、そんなもので切り伏せられると思っているなんて」

ゆっくりとアキヴァシャが間を詰める。

黒い影が迫る。

「さあ、その血を頂戴…そして永遠の命と永年の愛を得るの。夜毎の饗宴に出かけるのよ。暗黒の空を飛んで…私達はいつも一緒に快楽に耽り闇の力でこの地に君臨するの。愛しい人…私は永遠に」

「バカの一つ覚えに永遠、永遠と言い腐りやがって!」ヴァイロンは棺に唾を吐きかけた。

「愚かなのはお前らだ!何が不死の娘だ!屍晒して闇の中を這いずり回るのがそんなに楽しいか?汚らわしい!」

「お…のれ…」高慢な王女の顔が怒りでどす黒く染まった。

「人間ってのはな、食って寝て媾って、泣いて笑って死んでいくから楽しいんだ!解ったか化け物!」

「許さぬ!誰がお前のような賎民を不死になどしてやるものか!バラバラに引き裂いた後で血を啜ってやるわ!」

アキヴァシャと黒い影が飛びかからんとした瞬間――

「ガイ!」シェラムが天井の岩壁に“気”を打ち込んだのと、ヴァイロンの左手に巻き付いていたヒドラが離れるのが同時だった。

おおおおおーっ!」

吸血鬼の群れは突如現れた蒼い光りにたじろいだ。

我先に口を開けた暗闇の拱門(アーチ)に飛び込んでいく。

「おのれ!生きてここから抜け出せると思うな」

ラカモンの環(リング)の威力にあっさりと屈した下僕を追ってアキヴァシャも捨てぜりふを残すと逃げ出した。

スッ…と蝋燭の火が消えた。

暗黒の空間に残されたヴァイロンの左中指だけがボゥーっと蒼い光りを放っている。

「!」環(リング)の主は真っ暗な天井を振り仰いだ。

蛮人の耳に微かにピシッという音が聞こえた。

パラパラ…と石粒が落ちてきた。

「ガイ!」

「シェーラ?」

銀灰色の蜥蜴が駆け寄る主人に飛び乗った。

尻尾を振る。

「ああ、ヒドラ。よく気が利いたね。サータを持ってきてくれるなんて…それにラカモンの環の隠し方は見事だったよ」

シェラムはヒドラの尾から鉛色の指輪を抜くと自分の指に嵌めた。

ルビーの双石が燃えた。

「おい、何をした?」ピシ!という音がはっきり聞こえる。

上を向いたままいきなり現れた弟に尋ねる。

「見てれば解るよ」

亀裂を生じる音は段々と大きくなり――落ちてくる石の塊も徐々に大きくなっていた。

最後に天井に貼られた黒曜石が落下して…

「うわっ」

いきなり差し込んだ日光が闇に慣れた目に眩しい。

真っ直ぐに差し込んだ光が当たった象牙の棺と黒檀の寝台が炎を上げた。

セトの神官達が盛りつけた献げ物も燃えている。

そしてそれが載っている石卓にも細かいヒビが生じていた。

天井の亀裂が広がり差し込む陽光は部屋の三分の一に達した。

黒曜石の壁や床にもヒビが入った。

まず石卓が砕け、次々に装飾で埋め尽くされた黒曜石が落剥した。

カイルとクヌンが、やっと潜んでいた闇から姿を見せた。

落ちてくる黒曜石を避けながらシェラムの元にやってくる。

「なんだ?こいつらは?」

「ガイが水汲みに行ってる間に私を拉致した盗賊。こっちがその頭目で、そっちが一番先に犯した男…」

「そんなベリ様!」

「もうお許しください」

「うん、私に帰依した時点で許してるよ。あ、紹介するね。私の兄」

「へ?兄?」

「お兄…様で…」

「止せ、お兄様なんてガラじゃねぇ。ヴァイロンでいい」

不肖の弟に振り回されてきた苦労人は二人の情けない姿を見て大体の事情を悟った。

自分の躰を餌に誘ったのはシェラムの方だろう。

最初から道案内と盾代わりにするつもりで…

幸運にも何事も無くここまで来れたから生き残っているだけだ。

よりによって、こいつにちょっかいを出すなんて…運が無いな。

疫病神に帰依なんぞして…使い捨ての生贄にされるのが解らねぇのか。

自分の弟でも淫神リンガと呼ばれたザモラでの残虐淫靡な有様は思い出すだけで吐き気がする。

だが外見上はそんな悪鬼羅刹の姿は全く無い。

思いがけずに再会できた兄の右腕に取りすがり躰を押しつけている。

そこはアキヴァシャの肌が触れていた場所だった。

あんな吸血鬼女に穢されて…シェラムにすれば見ず知らずの女に抱きつかれてここまでやってきた兄が歯がゆくて仕方ない。

特に艶熟した女は大嫌いだ。人外の者だって例外ではない。

「ねえ、ガイ。あの吸血鬼ども、やっつけちゃおうか?」

「そうだな。餌食になるヤツがまた出るだろうし…あいつら昔、親父も誘惑したらしい」

「ええ?それっていつの話?」

「さあな、俺が生まれる前だろう」

「ここに来たの?父上が?」

「親父の血を吸ったらしいが…安心しろ、俺が知る限りキンメリアのコナンに吸血癖はない…」

ヴァイロンは差し込む光の中に剥がれ落ちてボロボロになった壁をさらす無惨な霊廟を眺めた。

陽光を弾いてラカモンの環(リング)が燦然と輝いた。

カニリアの尖塔でペリアスから送られた古代大魔道士の名を持つ曰わく付きの指輪は常にくぐもった鈍い輝きを放っていた。

それが、どうしたことか――ヒドラの下から顕れた指輪の輝きは全く以前のそれと異なっている。

シェラムが兄の右から離れないのはアキヴァシャへの嫉妬だけではない。

魔道士としての本能が自然と降魔の威力を避けていた。

逆にカイルとクヌンはケーミに入ってから…いや、少年と肌を合わしてから穢され続けた心身を清めるように左に寄った。

「奴らが何処に逃げ込んだか解るか?」

「うん…」シェラムの視線が黒曜石が割れてボロボロになった床に落ちた。

「この下。だけど…」

「うん?」

「いや、何でも…」気配は下にある。

だが察した瞬間、小さな疑問が湧いた。“もっと地下深くまで逃げればいいのに…”

一万年生きてきた吸血鬼は、この地下王墓なら絶対安全だという自信があるのだろうか?

かつて安住の城であった石室には燦々と太陽が降り注いでいる。

棺も寝台も埋葬品も燃えてしまった。

この惨状をまだ知らないのか…それとも…

地下に…このピラミッドの最下層に踏み込めない程のナニカがあるのか…

もしや!師の君が…

ペリアスが最強の力を求めた旅の果てにケーミの廃墟に辿り着いたのなら、絶対に禁断の場所を目指すはずだ。

師の探求心の凄まじさは、まだ自分がヒトであった頃から目の当たりにしている。

“逢えるかもしれない”――シェラムの気持ちは訪ねる恩師と再会できる予感に高揚していた。

「まずは天井の穴を広げて、それから一番真下までぶち割るからね」

だから微かに…ペリアスの環(リング)の蒼輝が波紋のように揺らめく事に気づかなかった。

兄の蒼瞳がその波動に呼応するように強く弱く煌めきを放つ。

ヴァイロンは頷くと左に傅く二人を庇いながら壁際まで下がった。

シェラムの視線が上を向くと大音響を立てて天井が吹き飛んだ。

真っ青な空が広がった。

砂がパラパラと落ちてくる。

砂漠の上に突き出していたピラミッドの石積み部分は跡形も無く、飛び散った石片があちこちに四散していた。

シェラムはチラと後方を見た。

ヴァイロンの足下に二人は頭を抱えて丸まっている。

「ヒドラ、ガイの周りに膜を張れ」主人の右肩に戻った蜥蜴は、再び主人の兄の元に返された。

ヴァイロンは小首を傾げたヒドラを手のひらに乗せた。

太陽を浴びて虹色に輝く透ける球体が辺りを包んだ。

球体は蹲る二人も包囲している。

“ホントはガイだけでよかったんだけどね。これから先使い道があるとも思えないし駄目なら駄目でいいんだけど…ま、運がよければ生き残れるでしょ”――シェラムは今は天井となった敷石に目を落とした。

「師の君、ただ今参じます!」左眼が紅く燃えた。

カタカタ…と床が揺れた。

その時ヴァイロンの手の中で何かを察知した蜥蜴は黄金の眼をカッと見開いた。

シェラムの元に戻ろうと飛び降りた――その時、床が割れた。

ヒドラの尾が激しく降られた。

大音響が響き渡り、地響きを上げて巨石が地底に落ちていく。

もうもうと立ちこめた土埃が降り注ぐ陽光を隠した。

巨石の一つに乗ったシェラムの躰は真紅のオーラを発していた。

土埃は落下するにつれ治まっていく。

太陽が一気に差し込む。

降下する眼に太陽の直撃を浴び、燃え上がり塵となって四散する黒い塊が次々に映った。

金糸の刺繍が施された天鵞絨の沓と細かな宝石が縫い取られた腰帯がキラキラと陽光を弾いている。

だがそれを纏っていた王女は躰から煙を噴き上げ、黒く干涸らびながら断末魔の叫びを上げていた。

あっという間に豪華な装飾品と共に炎に包まれ燃え尽きていく。

「汚らわしい吸血鬼の分際で父上どころかガイの血まで狙うなんて。たかが一万年生きたくらいで身の程知らずな女だ!」

吐き捨てるように呟く少年の意識は、すでに最下層にある。

そこにペリアスがいるかどうか…

「アースラ大神よ…御身の尺童(よりしろ)たるクマリの願いを聞き届け給え…何とぞ恩師ペリアスに引き合わせ給え…」生神となった者が自分自身の願いを大神に願う事は禁じられていた。

アシュラ教の生神として崇めながらも、幼少期から一度もその最高神に祈願したことは無かった。

あの忌まわしい事件のあと、心ならずも魔道士となってからは、自分の願望は召還した妖魔が叶えた。

鬼神、魔神の類でさえも“祈願”ではなく“命令”で思いを遂げてきた。

そのシェラムが…

心の裡に自然とアースラ大神への讃辞と祈りが沸き上がった。

“行け!使命を果たせ”

「え?」

“受け入れよ!真理を悟れ”

頭の中で声がした。

“もはやあの彗星の進路は変えらぬ。そなたはこの星を守らねばならぬ…”

この声は…アキロニアの英霊エペミトレウス!

ゴラミラ山の霊廟で聞いた――私を死の国から呼び戻した声だ。

“これより授けし力は、かつてエペミトレウスと呼ばれし者が大いなる尊者より受け継ぎし力なり。これを全てそなたに譲る。吾子よ、運命はそなたの選びし答えの先にある。何故にこの時代にこの宿命を背負い、かの者の子としてこの世に生を受けたか…自分が何者であるのか、何をせねばならぬのか…自ら問い、自ら答えを導くのじゃ、そして其の先にあるモノを手に入れよ…それこそがそなたの真の使命、宇宙の真理なのだ…”

十年以上前の封印されていた記憶がまざまざと甦った。

半分ちぎれた首が繋がり、劫火と共にヒトの躰は滅却され、炎の中で再生した。

左眼に飛び込んだ白熱の光球が自分に何をもたらしたか?

皮肉なことに一度死んで始めて生神と呼ばれるべき力を授かった。

だがそれからの自分は神を見るより魔の側に身を置いた。

“それでよい…神とヒトと魔――この星にある叡智を網羅すべき存在全てに関わらねば選ばれし者とは言えぬ…”

「選ばれた?私が?…誰…に?」

“この星にじゃ”

「ええ?」

“この星は滅びとうない…傷手も負いたくない…生命(エネルギー)注ぎしモノ全てが滅び去るを二度と見とうはないそうじゃ…”

「それは…どういう意味?」

“そなたの願いを叶えて使わす。そなたを託した南洋の魔道士が地の底で待っておる”

「待って!貴方はエペミトレウスではないのですか?それともアースラ大神?」

“どちらでもある、どちらでもない…知る能わず…そなたの運命(さだめ)もまた同じ…”

ぐあっ…大きく開いた石室の真ん中に蒼い光が点滅していた。

「何?あれ?」それは“帰還”という意思をぶつけてきた。

他には何もない――ただこの地を…この星を離れて飛び立つ事だけを念じている。

「うわあああ!」“意思”が膨張した。

そしてそれは上昇した。

遙か地上に向かって。

開かれた天空に向かって。

はじき飛ばされる瞬間、シェラムの意識は蒼い光りを別のモノに重ねた。

兄の蒼眸!輝きを変えたラカモンの環(リング)!

まさか…まさか!

「ガイーツ!」絶叫は蒼い光体の発する音と崩れる石室の轟音にかき消された。


「…ラム…」

「…シェラム…」

「シェラム…」

「!」

「おお、ベリ様!」

「ベリ様!」

「お気がつかれたか?」

クヌン…カイル…シャンチー…!

「師の君!」

「よくぞ参った…そなたがここに来たと言うことは…タランティア宮の開かずの間を開けたのじゃな?」

「は…はい…」

「そうか…ついに自らの手で時の封印を解いたか」

「師の君…おっしゃっている事が解りません」

シェラムの身体には僅かの布が巻き付いているだけだ。

それは色とりどりの紐で繕われたオレンジのべールの一部分だった。

ロードタス河に浮かぶ異民族の水死体から取った紐だ。

親代々に伝わる民族衣装を情け容赦なく奪うシェラムを見かね、咎めたヒューイに“少しでも念や気の籠もったモノが欲しい”と言いきった曰わく付きの代物だ。

紐で綴られた部分だけが身体に張り付いていた。

同時に剥ぎ取った貫頭衣(トゥニカ)は跡形もなく千切れ飛んでしまった。

「この魔道士様が地底に呑まれた私を助けてくださいました」シャンチーはそう言いながらセト神官の外套を脱ぎ、全裸に近いベリ様に着せ掛けた。

「おかげさまにて、こうして甥達に揃って会えるとは…」

揃って?――違う…

一番に駆けつけ介抱してくれるべき手が無い…

シェラムは只一人を…必要とするたった一人の姿を捜して痛む身体を起こした。

「ガイ…」

胸騒ぎがした。

「ガイ?」

「ベリ様、兄君様は…」クヌンが目を伏せながら言った。

「どこ?何処に行ったの?」

「飛んでいっちまいました」

「えっ?」

「へえ、あの蒼い光と一緒に…」カイルの指は真っ直ぐに太陽降り注ぐ青空を指した。

「!」

「シェラムよ…」

今にもカイルに飛びかからんとする弟子の前にペリアスは立ち塞がった。

「落ち着け、まずはこの地下に封じられし力が何であったのか…そなたはそれを知らねばならぬ」

「力?あの蒼い光りですね?ガイを連れ去った…“帰還”という念波を叩きつけてきた…あれは一体何なのです?」

「解らぬ…だが秘めたる力はあまりにも強大じゃ。故に古代王国の神官達はこの地に封印した。その後幾多の王国が建ち一万年の長きにわたりステイジアが統治するに至っているが…力を欲する者が幾度と無く地下の封印に辿り着き、当然の如く力に触れる前に、その威力を浴びて死んでいった。たまに誠に力ある者が…いや運良くと言った方がいいだろう、その力の一端を取り込む事に成功し、僅かずつではあるが力は外部に持ち出された。今ステイジアに伝えられる魔術の類は殆どがこの力を帯びた大魔道士らにより編み出されたモノじゃ」

「もしや…ラカモンの環(リング)の事をおしゃっておられますか?」

恩師は頷いた。

「おかしいではありませんか?確かにラカモンは百五十年ほど前のステイジアの魔道士ですが、あの指輪は魔道探求の旅を続けたラカモンが北の凍土に埋まっていた隕石から錬金したモノと伝え聞いております。なぜケーミの地下に指輪に関係するモノがあるのです?」

「逆であったとしたら?」

「は?」

「ラカモンはここで暗黒宇宙より飛来せし物体がある事を知った。だからこそ雪と氷に閉ざされた地を目指し遙かな旅に出たのじゃ」

「では吸血鬼がここを根城にしていたのも、地下から洩れる力を浴びることができるから?」

再びペリアスは頷いた。

「凍土の隕石は元々あの蒼い光りと一体であったのやもしれぬ。儂は一年余の間あの光の傍らで寄り添い、少しづつ意志を通わせた。こちらを無にして、放射される熱量が通り抜けていくように工夫した。あれは時折声ならぬ声を上げて呼んでいた」

「その…凍った隕石をですか?」

「いや、もっと大きな…母体ともいえるものじゃ」

「ま…さか…」

体内に飼うヨトガの連れ仔がザワリと動いた。

ヨトガの本体はこの星の近くを通りかかる彗星を、ずっと宇宙空間で待っている。

「あの蒼い光も還りたがっている…」シェラムはゾクリと震えた。

「ガイから指輪を外せばいいんですね?」ふらつく足で歩き出そうとする。

「待て。気がかりはその事じゃ」

ペリアスはいつの間にか自分より背が伸びた愛し子の前に立ち塞がった。

「いくらラカモンの環(リング)を嵌めたからといって、ここまで呼応するとは思えぬ…旅の途中、ヴァイロン殿にいぶかしき事は無かったか?」

シェラムの顔がみるみる蒼白になった。

「あり…ました…」

「どれ…」ペリアスは水晶球を出した。

「これがそなたを経て、また戻って来ようとはの…」

西の大魔道士はじっと水晶を見た。

表情が曇る。

「そうか…そなたの半身が今まで盾となって防いできたのか…」

「半身?」

「この火竜(サラマンダー)じゃ」

「あっ!ヒドラ!」

恩師が広げた懐の中にぐったりと横たわる蜥蜴がいた。

「でかした、シェラム。よくぞこの火竜(サラマンダー)と巡り逢うた。そなたが火の中から再生した折、その陰として生まれ出でたモノじゃ」

「私と同時に誕生したのですか?」

かつて兄に語った事がある…火竜(サラマンダー)がどうして生まれてくるのか…

「“竜の塊灰(ドラゴン・アッシュ)”って聞いたことある?」

古にこの地上を支配していたセトの眷属達の石化した骨…時折その中から燃える水が染み出し永遠の炎を吹き上げるという。

その炎が凝って生まれたのが──

「火竜(サラマンダー)だったのか…」

「うん、あの仔はその中でも特別。銀の鬣(たてがみ)が頭の天辺から尾の先まで生えてるんだ。大地に溶けた諸々の気が混ざった銀灰から聖なる炎を浴びて生まれてきたんだよ」

それはヒドラ自身が見せた…シェラムの脳裏に直接送られてきた誕生のシーンだった。

父王コナンの剣に不死鳥の紋章を残したエペミトレウス…

聖なる炎に象徴されるその霊力こそ禅譲された力の全て。

「そうじゃ、エペミトレウスの力が陽に働きそなたを甦らせ、陰に働き火竜を生じさせた。故にそなたの半身、表裏一体のモノ」

「カニリアの尖塔を出て砂漠を歩いていたら、いきなり小さな砂嵐が起きて…そしたら目の前にこの火竜がいたのです」

銀の鬣を風に靡かせて…小首を傾げ、金色の大きな目でこちらを見上げていた。

「足下から肩に駆け上がってきて…道連れにしました。ヒドラと名付けてコーシェミッシュの陥穽に伴いました。時々フラリといなくなって…でも呼べば顕れる。そうか、お前は私と同じゴラミラの聖なる力を根源にしていたのか」

ペリアスはシェラムの手にそっとヒドラを渡した。

「コナンに問いただす時がきたようじゃ」

「父上に?何をですか?」

「確かにラカモンの環(リング)をコナンに渡したのは、このペリアスじゃ。東の大魔道士ヤーチェンに対抗する術を他に思いつかなかった。ラカモンの力を秘めた環(リング)なら、いかなる強力な呪術からもコナンを守るであろうと…そう考え環(リング)を託した。だが今となってみると…」

環(リング)がコナンの手に渡るよう、意識の水面下に働きかけたのではないか?

それが証拠に、魔界のモノらと戦う訳でもないヴァイロンに、環(リング)を譲った。

コナン王から返された環(リング)を正嫡の王太子に渡す…何のためらいもなかった。

コナンがゼノビア奪還に動いた…あの時から、もう蒼い隕石は“意思”を持っていたのだとしたら…。

「ヴァイロンの出生をじゃ」

「師の君…それは…」訊かなくても解っている。

シェラムの脳裏に走馬燈が走った。

兄の指が薄い鎧ごと心臓を握りつぶそうとしている…首を絞められ…段平の殺気に追いつめられ…唇に舌が差し込まれ…

左の瞳が紅く燃えた。

悟った。

「私が十年前に…自ら命を絶った場所の封印を解いたからですね?」

「そうじゃ。そしてそれこそがエペミトレウスが諮詢したそなたの運命であった」

封印を解くため、タランティア宮に戻った自分を一晩中待っていたガイ…

解かねばと思った。

全てをあるがままに受け入れ、再び歩き出す為に…自分の場所を見つける為に…

だが、その結果――

「馬鹿な…探し当て、連れ戻してくれたガイを…私は自分の手で…」シェラムの頬を滂沱の涙が伝う。

「動揺するな。そなたは成すべき事を為した。誤ってはおらぬ。ヴァイロンがそなたを必死で連れ戻し、十年の時を埋める努力を続けたのも…全ては運命によって定められた計画の一環であったやもしれぬ」

そうだ、私はあの時“兄は自分が封印を解く日を十年待っていた”と思った…

撫でさするシェラムの手の中で銀色の鬣がザワリと動いた。

「おお…気付いたか、火竜(サラマンダー)よ」

金色の瞳が開いた。

尾を一振りした銀灰蜥蜴は手の中から飛び降り、蒼い光の去った方向を睨みつけた。

その様を見て頷いたペリアスは顔面蒼白の愛弟子を抱いた。

「さあ、我らをアキロニアに運ぶよう火竜(サラマンダー)に命じよ」

「ベリ様…」

カイルから白木の愛刀を受け取ったシャンチーが恭しく差し出した。

「………」無言で受け取ったシェラムは恩師の腕の中からその顔を仰いだ。

「伴ってやるがよい。ここにいてはセトの神官かケーミの市民によってなぶり殺しにされよう…廃墟を吹き飛ばした大地震に襲われ今は混乱しているが、彼らがここにやってくるのは時間の問題だ」

「はい…」シェラムは四年ぶりに顔を伏せた恩師の胸を離れた。

「ヒドラ、膜を張れ」

火竜(サラマンダー)の周囲にあの虹色の球体ができた。

それが膨張し五体の人間を包んだ。

ヒドラが黒い外套に駆け上り、肩先に留まった。

「アキロニアへ!」

外套を跳ね上げ左手が天空を指す。

その小指が真紅に燃えた。

フワリと舞い上がった虹色の球体はしばらく上空にとどまりクルクルと回った。

そして、一気に北を目指し飛び去っていった。

後には哀しいほどに澄んだ青空がどこまでも広がっていた。

第11章 


   あとがき

『人間は神と悪魔の間に浮遊する』――Gacktのライヴ“DIABOLOS”のコンセプトです(オフではGジャンルなので…)

『人間は神と悪魔をも網羅する』――上記に引っかけて言うなら、これが“シェラム”です。

【我は不死の娘】という表題は『征服王コナン』の中で“アーリマンの心臓”を追ってケーミの廃墟に潜入したアキロニア王コナンが巡り逢う伝説の王女アキヴァシャの章に訳者の団 精二氏が付けられたものをそのままお借りしました。

今までは全部自分で考えたタイトルだったのですが、この章は最初から「これしか無い!」と…(笑)

前回、第8章のあとがきでコナン・シリーズを彩る美女達の人気度…というマニアな話をしましたが、吸血鬼アキヴァシャもインパクト大な仇キャラです。

吸血鬼の超能力でコナンはいいようにあしらわれるのですが(俗に言う“かわいさ余って憎さ…”+“猫が鼠を…的式いたぶり状態)結局“アーリマンの心臓”を奪ったコナンには手が出せなくなって、そのまま逃がしてしまうという…彼女にとって1万年の生涯始めて逃した獲物だと思います。こりゃあ、プライド傷つけられた王女様が何十年も執念深く覚えていて当然と――もう二次創作やるなら出さなきゃ!…ノリノリです(爆)

こういう美味しいキャラを一回こっきりで全然活躍させないんですよね、ハワードって。勿体ない…(ワタクシが貧乏性なのか?)そんなアキヴァシャをワタクシも、あっさりと消してしまいまいたが…イヤ、ほんとに大好きなんですよアキヴァシャ(笑)

そのハワード生誕百年の記念日までになんとか間に合いました。よかった〜。

やっと更新したと思ったら、なんて中途半端な…と思われたかもしれませんが最初からこの章は、ここで終えるつもりでした。

やっとペリアスが再登場して、メイン・キャラが揃いました。

いよいよ前編・最終舞台への幕が上がった…という事で。

遅筆のくせに草鞋を3足(あとの2足はオフなんですが)に増やして、自分で自分の首を絞めている状況ですが、この後もマイペースで書くつもりです。何卒よろしく…

書・U・記/拝

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