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第四話

 ルル。

 ルル……。

 ……ルル……。

 俺を呼ぶ声がする。
 見なくてもわかる。
 俺をこう呼ぶのは彼女だけなのだから。
「シャーリー」
 向こうで優しく微笑んでいるシャーリーがいる。
 彼女の唇が動く。
 ルル。
 微笑んでいるのに、その表情の中には僅かに寂しさが見えて、俺を呼ぶ声の中には切なさが含まれていて。
「シャーリー。なんで、そんなに哀しそうなんだ」
 シャーリーは答えない。微笑みを深くしながら、その瞳から哀しみは抜け切らない。
 ルル。
「俺がそっちに逝かないからか?」
 シャーリーは黙って首を振る。
「じゃあ、なぜだ?」
 ……ルル。
 シャーリーは答えない。ただ愛しそうに切なさを含んだ声でそう呼び続けるだけ。
「俺はどうすればいい?」
 その問いにシャーリーはちょっとだけ困った顔を見せた。
 慈愛の笑み。まるで俺のことを手のかかる弟か何かのように、しかたがないなあとでもいいそうに見ていて。
 ルルは……ルル。
 ただそれだけいった。
 ぐ、と手を握り締めて俺は下を向く。
 ……ルル。
 そんな俺を励ますように、シャーリーの声は暖かい。
「シャーリー。わからないんだ。俺は!」
 呼びかけに答えるように振り仰いだ視線の先で、シャーリーの背中に光る羽が見えた。
「天使……」
 シャーリーはその言葉にも首を振る。
 そして、また俺の名を呼ぶ。
 ルル。
 そして、そのまま彼女は背中の光に埋もれるように消えていく。
「待て、待ってくれ! シャーリーーーーー」
 それは、当然のように夢の中の出来事で。
 起き上がって伸ばしたその手の先には、ただ居室の天井だけが存在していた。愛した彼女の姿も、それを飲み込んでいく光もまたそこにはない。
 だのに。いや、だからこそなのか、既に伝っていた頬の涙はまた敷居を越えて溢れた。



 シャーリーは机に座って日記を書いているところだった。けれど、ぱったりと止まった手は一文字も言葉を紡いでいかない。ここ数日同じ事ばかり考えてしまう。誰にも相談できないまま、ため息をつく時間ばかり増えていく。
 なにやってんだろ、わたし。結局クッキーはミレイさんに上げちゃうし。
 はー。馬鹿みたい。
 ちょっと顔をあわせて、お礼いって小さなクッキー渡して。それだけのはずだったのに何でこんなことになってんだろ。
 そもそもなんで、わざわざ自分で手作りのクッキー作ったりしたのかな。
 数日前の日記を読むと、なんだかわがことながら浮かれている様子が読み取れる。たしかに、彼はカッコイイと想う。見た目だけは。性格だって、悪くはないのかもしれない。最近そう思うようになった。知らない一面を見て親近感がわいたのも本当だと思う。
 だけど、彼は。
 またため息が漏れてしまう。
「なによ辛気臭いわねー」
 同室のソフィが見かねてやってきた。
 そうだ、ソフィなら彼とそんなに親しいわけでもなくて知らないわけでもない。そのうえわたしのことも良く知っている。それなら、彼女からわたしたちがどうだったのか聞ければ、本当のことがわかるかもしれない。でも、そのまま聞くわけにはいかないし……。
「ねえ、ソフィ。わたしとルルーシュ君ってどう見える?」
「なによいきなり。んー、そうねえ……やっぱりシャーリーの片思いって見えるわねえ」
 思わず絶句するシャーリー。
「わ、わたわたし、が……?」
 知り合いとかは思っていたけど、わたしが彼に、片思い――?
 シャーリーの頭の中でぐるぐる言葉が回る。
「あの、あのさ……それってソフィから見てそう見えるってだけだよね」
「そんなことないでしょ。あんた達二人を知ってる人間なら誰でもそう思ってんじゃないの? 何せシャーリーったらわかりやすいからねぇ」
 ニヤニヤと笑うソフィに何かいい返す気も起きない。あまりのショックにシャーリーはほとんどなにを考えていいものかわからなくなっていた。
「……それで、ソフィから見て、その片思いって事は、彼のほうからは……」
 シャーリーはぐずぐずに溶けてしまいそうな脱力感を覚えたまま、もう少しだけたずねてみる。
「まあ悪いけど、彼そういうの鈍そうだしねー。気づいてすらいないんじゃないかなあ。……でも、あ、これは私見だからね。違ってても責任もてないわよ。彼のほうにも脈はないって事もないと思うんだけどね」
「え!?」
 ぱっと顔を上げたシャーリーに、ソフィは困った顔をする。
「だから、私見よ? 彼狙ってる子はたくさんいるんだし。でもさ、中でも、あんたとルルーシュ君は一番距離が近いんだし、なんていうのかな。彼にしては受け入れてるって感じがするのよね」
「受け入れてる……」
「ほら、なんかさ、彼ってどこか距離をとって人を見てるって気がするじゃない。でも、妹のあの子、ナナリーちゃんだっけ。あの子とかには、そんな感じなくてさ」
 シャーリーはうんうんと頷く。覚えていない記憶、その中心には彼が居て、あの時の彼の言葉も気になって、だからいつだって彼の様子を見ていた。だから、知り合ってわずかでもそのぐらいの事はよくわかってた。
“あれ、それって、わたし好きな人を目で追っちゃうみたい?”
「まあ、シャーリーも周りの人から見ると、その内側にいる人に見えるのよ。中にはあんた達のやり取り見ただけで彼諦めた子だっているんだから」
「え、そうなの?」
 そんなにわたしと彼は親しかったんだ。でもそうだよね、あの彼がルルって呼ばれてたんだよね。……想像できないや。
「うん、あたしのことだから」
「ええーっ!?」
 シャーリーはその爆弾発言にびっくりしてしまう。だって、彼女には先週もデートしていたお熱い彼がいて、それなのに実はルルーシュ君のことを? ……もしかしてソフィに訊いたのは悪かったんだろうか。
「冗談よ。あー、まあ、あながち全部冗談でもないけどさ。でも、あたしは彼が顔いいからってだけで憧れてた口だしね。実際動いて全力で好きだって示してたあんたとは違うもの」
 ソフィの軽い口調に正直シャーリーはほっとする。と同時に、彼女の言葉の後半部に恥ずかしさが沸いてきた。
「う、わたし、そんなに……?」
「恥ずかしがることないんじゃない? あたしはむしろ尊敬してるからさ。思う存分頑張って、彼を虜にしちゃいなよ」
 ソフィはいつもとちょっと違った優しくて真剣な表情でシャーリーを慰めてくれる。ぽんぽんと叩かれた頭からじんとした暖かさが伝わってきて。結構彼のことソフィって本気だったんじゃないのかなとそう直感的に感じた。
「うん……ありがと」
“って、つい、なにいってんの、わたしってば。ソフィの友情に感動したからって、もう、あああぁぁぁぁ……”
 けれど、否定する気も起きない。悪いような気がして、否定してしまってはいけないような気がして。
 でも……誰に?
「でもさ、ちょっと気をつけたほうがいいかもよ」
「え、わたし?」
「そう、最近はあんた達、なんかずっとギクシャクしてるじゃない。だから、遠巻きに見てた子達も今がチャンスって思ってるわけよ」
「……」
 シャーリーは息を呑む。自分がそんな渦中に置かれているとはちっとも思っていなかった。不意に、シャーリーは身体の異変を感じる。胸の中に重い空気が満ちていくような、それはどろどろとした不安だった。
「まあ、だからどうしろとはいわないけど、あたしは勿体無いなあって思うよ」
「勿体無い……か」
 確かにそうなのかもしれない。でも、それでもやっぱりそれは違う。今のシャーリーにはその蓄積なんて何もないから。ただ、彼とのことがシャーリーの記憶になくても本当だということはもう疑う気にはなれなかった。だから、その勿体無いぐらいの記憶をシャーリーは取り戻してみたくなった。
 彼が、例えあのゼロでも。
 そうでないときっとフェアじゃないから。彼をゼロだからと嫌うのも恐れるのも、知らない人だと無関心でいるのも……好きになるのも。
「うん。あたしがシャーリーだったら、立場を利用して、何とかスザク君とくっつけようと画策するのに!」
「は?」
「は? じゃないわよ、リアル○×△よ。それもあんな美形の! これを見たいって思わなきゃ女じゃないわ!」
 そういえば、こういう子だったっけ……。
 シャーリーは思わず頭を抱えた。
 彼氏の人、可哀想だなあ。
 というか、女の子がみんなそうだってことにするのは止めてほしいなあ。
 そりゃかっこいい男の子は好きだし、二人ともそうだと思うけど。
 はあ、なんか一気に気が抜けちゃったよ。ソフィったらもう……。
 シャーリーはなにやら熱く語っているルームメイトを放ってもう一度日記へと向き直る。でも、思考はすぐに横道へと逸れていく。今日も休みだったけど、今頃彼は何をしているのかな。もう、家には帰ってきてるんだろうか。
「そういえばナナちゃんは何してるか知ってるみたいな事いってたな」
 シャーリーは今日の放課後のナナリーとの会話を思い出す。


 それは生徒会室で学園祭の準備に、資料として借りていた本を図書室に戻しに行った時の事だった。
「ナナちゃん」
 ちょっと困った顔でぽつんとその室内の一角に座っていた少女はシャーリーも顔見知りの少女だった。
「シャーリーさんこんにちは」
「こんにちは」
 挨拶を返しながら、ナナちゃんはやっぱり礼儀正しくて可愛いなあとシャーリーは頬をほころばせる。ルルーシュの無愛想面とは大違いだ。最近会っていない所為か、その無愛想面にはシャーリーの心の中で一段と磨きが掛かっていた。
「ナナちゃんはここでなにしてるの?」
「本を探しに来たんですけど、司書さんが居ないみたいでしたのでお戻りになられるのを待っているんです」
 ちらりと見た図書カウンターには確かに人が座っていない。外出中と書かれた札が掛かっている所を見ると多少時間が掛かるかもしれない。
「そうなんだ。ねえ、わたしが探してあげようか?」
「いいんですか?」
「うん。わたしも本を返しに来たんだけど、司書さんが居ないんじゃ待つしかないし」
「それじゃあ、お願いします」
 ナナリーの探している本を探しに、点字のコーナーへ寄って、二人して話しながらシャーリーはその本を探す。
 点字の本といっても、表紙などが全て点字というわけではない。ちゃんと、目で見てもタイトルぐらいは認識できる。
 シャーリーは割とすぐにナナリーの目当ての本を探し出すことができた。
「よし。あったよ」
「ありがとうございます」
 そういってナナリーは渡された本を嬉しそうに撫で回す。タイトルの部分を何度かなぞり、小さく頷いた。
「でも、こんな可愛い妹を放っといて彼はなにやってるのかなあ。……悪いことしてるんじゃなきゃいいけど」
 頭の中にゼロの姿が思い浮かんでシャーリーは小さくつぶやいた。
「シャーリーさん、あまり、お兄様の事を悪くいわないで下さい」
「あ、ごめんね」
「いいえ」と首を振ってナナリーは許してくれるが、シャーリーはちょっと配慮が足りなかったなと反省していた。ナナちゃんはこんな状況でこれまで兄妹二人で暮らしてきたはずなのだ。彼女が彼のことを大切に思っていることなど考えるまでもないことだった。
「前まで賭け事とかで前科があるのは確かですから、そう思われても仕方ありませんけど、ここの所忙しくしているのはちゃんと理由があるんですよ」
 なぜだかやけに嬉しそうにナナリーはそういった。
「え、じゃあナナちゃんは彼が今なにしてるか知ってるんだ」
「ええ。多分明日になれば、皆さんにも教えられると思います」
「明日……学園祭に関する事なの?」
 明日は学園祭の前日だ。夜からは非公式にだが前夜祭も行われている。
「いいえ、どちらかというと……やっぱり秘密です。楽しいことは直前までわからないほうが楽しいですから」
「そっか。ナナちゃんがそういうなら、本当に楽しいことなんだね」
「ええ。明日が待ち遠しくて」
 さっき手にしたばかりの本を胸に抱きかかえて、ナナリーは本当に嬉しそうだ。
「ごめんね。ナナちゃん」
「え?」
「お兄さんのこと、疑っちゃって」
「……いえ、それはもう本当に。でも……」
 その後に続いた言葉は小さくて、シャーリーは思わず聞き返す。
「でも、なに?」
「いいえ、何でもありません。そろそろ司書さんが戻ってこられてませんか?」
 ナナリーに促されて本棚の角から向こうを見やると、司書がカウンターに座っている姿を見つけられた。
「あ、戻ってきてるよ、一緒に行こう」
 ナナリーの車椅子の背を押してシャーリーは歩き始める。
『少し寂しいです。シャーリーさんが、お兄様のことをそんな風にいうのを聞くのは』
 本当はちゃんと聞こえていたその言葉を胸の中で反芻させながら。


「ちょっとシャーリー。シャーリーってば」
「あ、なに?」
「あんたにお客様」
「こんな時間に?」
「そ、重要な用事だって」
 ソフィの眉が胡散臭げにたわめられている。
「誰なの?」
「行けばわかるわよ」
 扉の前に立って、シャーリーはちょっと立ちすくむ。まさか、彼、とか?
 いや、それはありえない、ここは仮にも女子寮の一室だ、いくら学内に住んでいる彼とはいえ、こんな時間にここまでずかずかと立ち入れはしないだろう。
 じゃあ、誰?
 悩んでいても仕方ない。ソフィが行けばわかるといったのだ。知らない人ということもないんだろう。
 シャーリーは扉を開けて、廊下へと歩み出た。
「こんばんは、シャーリー」
 そこで待っていた相手はにこやかに笑ってシャーリーを見ていた。



 学園祭前日。
「というわけで、みんな。弟のロロもよろしくしてやってほしい」
 最初ロロを弟だと紹介した時はぽかんとしていた生徒会のメンバーも、ルルーシュがみんなの疑問を打ち切るように「色々あるんだ」という一言で納得は出来なくても理解はしたようだった。
 朗らかな顔で「俺はリヴァル。リヴァル・カルデモンド。よろしくな」とリヴァルが手を差し出したのを皮切りに、みんながロロに向かって挨拶していく。
「シャーリー・フェネット。よろしくね。ナナちゃんのお兄さん、になるのよね?」
「ええ、そうなります」
「うーん、良いわね良いわね。これで新しい若い力も注入された所で、学園祭頑張りましょう! みんな行くわよー。ガーーーーーーッツ!!」
「はい!」
 ミレイの喝にみんなが一斉に返事する。その様子を恥ずかしがって返事をせずに見送ったルルーシュは小さく肩をすくめて。けれど、そんな彼の表情もどこか楽しそうだった。
 一度離れて、失ったものだからか、今はこの場所の良さがわかるのかもしれなかった。


「それで会長。この件なんですが」
 ルルーシュの差し出した書類を見て、ミレイはにかっといやみのない笑顔になる。
「まっかせなさーい。ちゃんと手配は済んでいるわ。既に屋上に設置済み」
「そうですか、ありがとうございます」
 ぺこりと頭を下げるルルーシュに向かって、ミレイは手をひらひら振って「感謝しなくていいから働く働く。明日はもう学園祭なのよ?」
「ん、なんだよルルーシュ。内緒話?」
 首を突っ込んできたリヴァルにルルーシュは自分で書いた企画書を見せてやる。
「ほら」
「なになに……へぇー花火か、そりゃいいね」
「花火?」
 日本人の気質が疼いたのだろうか、花火の一言にカレンが近寄ってきた。
「うわ、ナイアガラまであるんだ」
 興味津々に目を輝かせるカレンの姿を見て、ルルーシュはかつての約束に思いを馳せる。
「って事は結構本格的な花火なんだね?」
 スザクも食いついてきた。
「打ち上げるのは俺たちだ。大丈夫だ、危険はないらしいから。みんなで花火を上げよう。……あの時の約束の通りに」
「何かいったかいルルーシュ?」
「いや、何も」
「ほらほら、みんなお仕事しなさいっていってるでしょう」
 ミレイの言葉に、集まっていたメンバーも仕方なく、自分の席へと帰っていく。
 珍しくそんな団欒の中に入ってこなかったシャーリーがちらりと自分の取り組んでいた書類から目を上げた。
 じっと、彼らの様子を、中でもやはりルルーシュを見つめているようだった。
 視線に気がついたルルーシュがちらりと目を向けると、シャーリーは急いでまた書類に戻ってしまう。
 花火はシャーリーと一緒でなければ意味がない。何とか声をかけようとして、ルルーシュはなにをいっていいものかわからなくなってしまう。あからさまに避けられて、それでも声をかけたいと思うことなどルルーシュのこれまでにはなかったから。
「そうだ、この間は、クッキーありがとう」
 シャーリーはその台詞にびっくりしたような瞳でルルーシュを見つめ、次いで、むっとした表情でミレイに目をやった。
 当然ルルーシュにはなぜそんな反応なのかわからない。
 ミレイのほうはその視線に気づいているのか気づいていて無視しているのか、ふんふんと楽しそうに鼻歌など歌いながら作業している。
 それを見て睨むのも無駄だと思ったのか、シャーリーはため息をつくとルルーシュに向き直って首を横に振った。
「たいしたものじゃないから」
「いや、美味しかったよ」
 その台詞に、シャーリーも嬉しそうに微笑んだ。
「シャーリーも良かったら、一緒にどうかな?」
 そっと、花火の企画書をルルーシュは差し出す。
 シャーリーはしばらくそれをじっと見ていたが、そっと手に取ると眺め始めた。
「面白そうだね。うん、わたしもやりたい」
 その台詞にルルーシュはあからさまにほっとしてしまう。そして、シャーリーの前だと俺も全く形無しだなとわずかに自嘲めいた笑みを漏らした。
「あの、ね。ルルーシュ君。出来たらその後に、時間もらえないかな?」
「え? 花火の後に?」
 シャーリーは何か覚悟したような顔でこくりと頷いた。
「ああ、わかった。学園祭もその時間ならもうほとんど終わりだし、空けておくよ」
 シャーリーはルルーシュが承諾したのになぜか浮かない顔で「それじゃ頑張ろう」とだけ口にして作業に戻ってしまった。ルルーシュはシャーリーの用事がなんなのか不安と期待を覚えつつ、やはり時間も差し迫った学園祭の準備に追われていった。


 学園祭当日の朝が来て、放送室の中に生徒会のメンバーは勢ぞろいしていた。
「え、僕が本当にいうんですか?」
「そうよ、せっかくこの時期に入ってきたんだもの。名誉ある学園祭開始の第一声をあなたが担うのよ、ロロ」
「はあ、でも、これは……」
 顔を引きつらせてマイクを見つめるロロに、隣に居たナナリーがくすくす笑って「私も一緒にいいますから。ロロ兄様、頑張りましょう」
「わかったよ、ナナリー」
 覚悟を決めてロロが息を吸い込む。
 学園祭の開始を宣言する言葉の直後、少女と少年の可愛らしいユニゾンが響き渡る。
「「にゃ〜〜〜ん」」



 こうして学園祭は始まった。
 もうすぐユフィがこの場に現れるはずだ。そして、かつて俺が張り巡らしていた策を全て無意味にする、忌まわしい特区日本の構想を心に秘めて。
 あれを抑える方法は俺にはない。
 行政特区日本を宣言されてしまったら例え、俺が先に新生日本を立ち上げていても、策はその意味するところをほぼ完全に失うだろう。
 戦争の末に勝ち取らざるを得ない不安な国と、誇りはなくとも保証された平和な国。虐げられてきた彼らが求めるのはどちらなのか、良くて五分五分という所だろう。そこで勢力が分散すれば、特区日本の人間にすら俺たちは恨まれる。俺たちが反乱している事で与えられた保証がいつ奪われるか知れないという不安を彼らが覚えないはずはないのだから。
 そうすれば、黒の騎士団はその意味を失う。いくら俺の戦略によって正義の味方を名乗っていても、彼らの本当の目的は日本なのだから。
 だから俺はなんとしてでも特区日本を潰すことを考えた。ユフィに罪を着せ、思惑通りに利用することを。
 結果、俺は取り返しのつかない罪を背負うことになったわけだが。
 もちろんユフィにこの場でギアスをかけてしまうということも考えた。そうすればユフィは特区日本などといい出さず、お飾りの副総督のまま、それなりに平和に生きていけるだろう。
 それが正しいことなのかもしれない。そうすることが何よりも俺の望みを叶える近道かもしれない。
 だとしても、もう一度彼女にギアスをかけるのは出来れば避けたかった。彼女の俺たち兄妹に向けた愛情と、それを押し通す覚悟を知っている今となっては。
 だから俺も覚悟を決めよう、茨の道を歩く覚悟を。
 それに正直、ユーフェミアの行政特区日本よりも、ブリタニアそのものなんかより、もしかすると黒の騎士団の方が厄介なのかもしれなかった。
 まさか、自分で作った組織が一番の障害になるとは思いもよらなかった。
 まあ、あの時の俺は、ナナリーを守らなくてはという強迫観念と、皇帝への憎悪のおかげで復讐するための力を欲していたから仕方ないといえば仕方ないのだが。
 だが、今俺の願いを叶えようとすれば、黒の騎士団でゼロとして行動することは大きなリスクを背負うことになる。それだけのリターンが得られるかどうかも非常に微妙だ。
 だが、いくつかの理由で俺はゼロをやめることは出来ない。
 一つは、元々俺が恐れていた可能性。俺やナナリーが政争の道具にされる未来を打ち砕くため。
 もう一つ、現時点で俺がギアスを手に入れたと知っている幾人かの存在に対する対抗手段として。
 そして、最後の一つは、かつて……今となっては未来に当たるのかもしれないあの場所で俺は、誓ったのだから。
 これは俺が始めた戦いで、そして、カレンたちに夢を見せた責任は果たさなければならないということだ。
 だが、だとしたらどうすればいい?
 ユフィの特区日本を生かしたまま……いや、優しい世界を迎えるために出来ることは。



to be continued

あとがき
 というか前書きかも。というのも、実はまだ本文はまるで書かれていないからなのですが。(オイ)
 いや、あとがきのネタってなかなか考えても覚えていられなくて。
 だから、思いついたら書いてしまうのがいい。ということで。
 いや、この作品書いた理由って一話のあとがきに書いたんですが、ちょっとだけ別の理由があったなと。
 ルルシャリものって基本的にルル←シャリで、ルル→←シャリものですら少ないわけで。
 だったらもっと少ないルル→シャリものを書いてみたいと思ったのも理由のひとつですね。
 こういう設定だったらルル→シャリに結構納得行きますからね。
 とはいえ、シャーリーがルルーシュに対してそうじゃないのはちょっと書いてて悲しいのですが、ヘタレな私の書いてる話なんで、既に懐柔されているというかへにょへにょというか。(笑)
 まあ、R2の13話でシャーリーが何度も好きになったと言っているということは、このときのシャーリーも結果的にはルルーシュが好きだったって事になるはずなので問題は無いとも思います。
 記憶が消えても、シャーリーの中に想いは残ってるんだよ……。って。
 しかし公式のシャーリーに関する設定はいまいちわかりにくくて困ります。
 一応アニメで放送された設定を最優先としてみても、R2の初期にはシャーリーがボウルひっくり返したりしているシーンがあり、到底料理上手には見えないのですが、その割りに彼女は弁当を持ってきているんですよね。
 仕方ないので弁当は基本的に冷食なんだと思い込み、シャーリーは料理は苦手という設定で話は書いています。
 いや、そのほうが話膨らませやすいって言う個人的都合なのですけど。(苦笑)
 はう、QUEENの5巻読んでいたら、巻末に、後々RELIVEで使おうと思ってたギアスが載ってる……。まあ、だとしても多分使いますけど。って、あの中で使えそうなギアスほとんどないから、何のことかかなり限定できてしまうなあ。
 そのうち、ちょっとRELIVEでのギアスについて注釈入れたほうがいいのかな。
 しかし、今回シャーリーが暗くて、こう、書いてて疲れました。仕方ない状況とはいえシャーリーにはもっと明るく頑張っていて欲しいですね。って私の所為ですね。ごめんよう、シャーリー。

2008/11/24 栗村弘

BGM 折笠富美子「晴れのち夏の雨」かわい乙女「木漏れ日の音」 他

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